第112話:外出準備
今更嘆いたところで、作った装備がなくなるわけでもなし……諦めるしかないだろうな……
「まぁ、装備のことはおいといて……ルリに関しては、そんな感じにしようかと考えているのですが、森の中に勝手に建築しても大丈夫でしょうか?やはり国王とか領主とかに、許可とかもらわないとダメですかね?」
「問題ありません。領地といっても、管理されている場所ではありませんから、誰が住もうと自由です。迷惑なことをするような輩だと、何か手を打つかもしれませんが、そうでなければ一々干渉したりしませんよ?特に国賓たるカヅキ相手では、文句を言えるものもいないでしょうから」
国賓の立場が強すぎる……こういうのって、例え管理できてない森の中でも、領内で勝手に土地を占有したらお咎めがあるのが普通だと思ってたわ……
「そうなると……あとは周辺の魔物の能力と収穫を確認しつつ、採取とフィアの育成をしながら森の奥を目指すといったところでしょうか?ルリには、要塞……拠点完成後に管理を任せられるように、必要となるだろうことを教えておいていただけますか?できれば農業も……それほど大きくするわけではありませんが、野菜も安定して収穫できるようにしておかないと、動物の肉だけでは困りますからね」
「なるほど……すぐに探しにいくわけではないのですね。慎重すぎるかもしれませんが、自分がどれだけ過剰戦力なのかを知るいい機会になるでしょうし、その方がいいかもしれません。それにルリの教育にしても、要塞に備え付けられるであろう全施設の管理に加えて農作業もとなると、それなりの時間を要しますし、こちらとしてもその方が都合がいいでしょう」
「何か、妙な単語が混じっていた気がしますが……それとついでといってはなんですが、数日野営をしてみようと思っています。長期間の探索の前に練習しておくことで、今のうちに不備がないか試しておきたいですから」
「ああ、それはいいことですね。長期になればなるほど、不備は出やすくなりますから。森の奥では調達しにくいものも多いでしょうし、今のうちに検証しておくのは大事でしょう」
「あとは……あっ、そうだ!そういえば、従魔の扱いってどうなっていますか?今更とは思いますが、勝手に増やしたり街中を連れ歩いていいものなんでしょうか?特に大型の従魔とか、どこかに登録とか必要でしょうか?」
「従魔の登録ですか?そういった制度はありませんから、その心配は無用です。大型と呼ばれる従魔でも、主人と一緒であれば普通に街に入れます」
「ああ、そうなんですね。それなら、フィアが将来大きくなったとしても大丈夫ですね」
私の望み通りにコカトリスになったとしたら、多分かなりの大きさになる気がするからね……一定以上のサイズになった場合、自分で体のサイズを変更できたりしない限り街に入れないとかになっていたら、とても困ることになるからなぁ……よかったよかった。
あと、従魔の登録をせずに済んだのも助かる。
登録しないと街中に従魔を連れて行けないってなると、その度に登録に行かなければならなくなるからね。それは面倒くさいし、面倒事も起こりそうですごく嫌。
あとは……もうないよな?
「これくらいでしょうか?あとはルリとフェルシアさんに確認を取るくらいですかね?それ以外だと、人に見せられない装備類の完成待ちくらいでしょうか……」
「わかりました。それでは2人を呼んで確認しましょう。その後はどうしますか?」
「その後は……寝ます。本格的に動く前に、少しだけゆっくりすることにします。その後で、いろいろ動く前にモームさんたちに現状報告をして、それから……ようやく冒険開始、ですね……」
「ふふっ……そう、そうなのですね。ついにあなたの旅が始まるのですね。あなただけの理想郷を探す、果てしない旅が……」
「理想郷は遠そうですねぇ……少なくとも、この大陸の中にはないと思いますから、いずれは川を下って海を目指すのが、とりあえずの目標でしょうか?その前に、どこにでも行けるようにならないといけないので、自分を鍛えつつ、大陸内をゆっくり適当に渡り歩くとしましょう」
その後、2人に確認を取ったら、問題なく了承してもらえた。
防御を固めるために要塞っぽくなるだろうと言ったら驚かれたが、それ以外はすんなりと受け入れてもらえた。やはり森の中に建設予定だということと、独りきりにならずに済むというのが大きかったようだ。
フェルシアさんも、やはりルリのこれからが心配だったらしく、同居案件はとても喜ばれた。それと意外なことに、農作業にとても興味を示していた。自分の食べる野菜を自分で育てるということをしたことがなかったらしい。まぁ、エルフだからね。森の中で畑作をする農民なんていないだろうし、そういうこともあるだろう。
とりあえず、嫌がってないようなので、こちらとしても一安心である。
その後はフィアと一緒になって、ゆっくり寝ていた。
翌日、モームさんの宿へ行き、モームさんに修業が無事に終わったことを告げたら、肩をバンバン叩かれながら喜んでもらえた。戦闘能力についてはお墨付きをもらえたので、近々街の外へ出て、数日泊まり込みで周辺の探索をすると言ったら、またバンバンされた。痛くはないけど衝撃が結構強いので、できればやめて欲しい……その後、何故か宿泊客を交えての宴会に発展した。しかも、そこでも頭を撫でられたり、肩をバンバンされたりした。解せぬ。
その翌日、今度はスゥ婆さんのところへ行き、修業のことと、泊まり込みで探索することを伝えたら、途中で食材を手に入れたら見せに来るようにと言われた。ちゃんと食材として使える状態になっているかの確認かな?
その後でマールさんのところへ顔を出し、奥で調薬しながら修業のことと今後の探索のことを伝えたら、こちらも街へ戻り次第、収穫物を見せに来るようにと言われてしまった。もしかして、私ってそんなに信用ない?心配され過ぎじゃね……?
さらに翌日、久々に図書館へ出向き、マイアさんと話をする。今までどうしていたか、何があったかを、個人的な秘匿情報と調薬関連以外のあれこれを話す。未だにギルドに近づいてすらいないこと、スキルを多数獲得できたことなど、渡来人と関わる上で役立ちそうなことを交えて伝えていく。
それを必死に書き留めていくマイアさんは大変だろうけど、これから先、いずれまた増える渡来人への対応のために頑張って欲しい。同郷の者たちが迷惑を掛けてばかりで、本当に申し訳ない……
そんなことをしながら、装備類ができるまでの余暇を過ごしていた私であった。