第111話:自身の戦闘評価
「カヅキ、あなたはまず自分の現在の戦闘能力が、この世界において、どの程度のレベルに達しているのかを、正確に把握する必要があります」
「わかりました。自他の力量の正確な把握は大事ですから、異論ありません」
「それではまず、あなた自身が現在の戦闘能力をどの程度だと認識しているかの確認をしましょう。冒険者のランクについては知っていますか?」
「F級からA級という枠組みですか?」
「そうです。それに関してどれくらい知っていますか?」
「F級が駆け出しで、E級で一人前、D級でベテラン、C級が一流、B級が英雄と認識しています」
「正解です。問題ありませんね。では、今の自分がどのランクだと思っていますか?なお、今回は信用を無視して、戦闘能力のみで考慮した場合とします」
レベル1とはいえ、それなりに戦えるようになっているはずだし、遠近物魔両用という点を加味すれば、結構な実力があるのではなかろうか?少なくともステータスの合計数値だけなら一人前のはず……
「戦闘能力のみ、ですか……それだと、E級には届きそうな気がします」
「はぁぁ~……やはり、その程度の認識でしたか……いいですか?あなたのその認識は間違っています。それも大幅にです。あなたの現在の戦闘能力は既にC級に届いています。それも単独で6人パーティに匹敵する驚異的な戦闘能力なのですよ?」
「…………え?いやいや、それはさすがに行き過ぎですよ?!いくらなんでも、単独でC級フルパーティと同等になるはずがないでしょう?C級って世に知れ渡る程の一流冒険者じゃないですか。確かに、できないことがないように、ほぼ全ての基礎能力、いや応用も結構たくさん身に付けましたが、それでも言い過ぎでしょう?」
「目立つことが嫌いなあなたがそう思いたいのはわかりますが、この認識は覆りませんよ?あなたからすれば、何故そんなに高評価になるのか理解できないといったところでしょうが、先日の模擬戦で実際に私たちが戦った上での判断です」
ええー……それ、私ほとんど覚えてないんですけど……
「それでも、単独でC級パーティ並というのは、おかしくありませんか?」
「確かに、通常であれば、このような評価はおかしいでしょう。ですが、思い出してください。あの日、あなたは単独で私たち9人を捌いて見せたのですよ?」
「あれは、師匠たちが手加減してくれていたからじゃないですか。ギリギリ捌けるように調整されているのだから、捌けて当然でしょう?」
「それは、あなたがあのスキルを生み出すまでの話です。その後のことはあまり覚えていないようですが、意識が切り替わってからのあなたは本当に凄かったのですよ?特にあなたが倒れる直前辺りは、どっちが鍛えられているのか、わからないくらいのとんでもないことをしていましたからね……」
記憶ない時の私、一体何をやらかしたのやら……1対9で押し返したとでも?いやいや、それはあり得ないでしょ。ただでさえ、あの師匠たちが相手なのだ。しかも手加減していてアレだったのに、向こうの余裕を奪う程の反撃をしたとか、考えられないんですが……
「そうは言われましても、その辺の記憶が全くありません。なので私の実力は、あのスキルで反撃したあと、また防戦一方になる程度ということではないでしょうか?」
「いえ、あれは確かにあなたが自分自身で生み出した成果ですよ。記憶の有無に関わらず、あなたは私たち元C級9人と互角に渡り合っていたのです。それも2日に渡ってなのですから、偶然でもまぐれでもないことは明らかでしょう」
「……それでも、私はそれを実力とは呼べません。本当にそれだけの実力があるのなら、記憶失うような状態になどなったりしないでしょう。それはスキルを使っているのではなく、スキルに使われているのです。自分自身で自由自在に操れてこそ、実力と呼べるものだと思います。故に私の実力は記憶を失う前までのものではないでしょうか?」
「……あなたが自分のランクを認めたくないことはわかりました。この話はここまでにしましょう。大事なのは、この周辺の森程度では、あなたを傷付けられる魔物は存在しないということです」
「…………」
「住人の冒険者の場合ですが、王都に行くためには最低でもE級のパーティでなければ、護衛なしで辿り着くことは難しいのですが、意識を失う前のあなたであっても、単独かつ余裕で辿り着けるくらいになっているのですよ?」
街の外で、実際に戦ったことがない弊害がこんなところに……
周辺の敵の実際の強さがまるでわからん……
「ですが、この周辺は方角によって、魔物の強さがかなり変わるとあったのですが?」
「確かに変わりますが、それはかなり奥の方、山裾近くのことであって、街周辺はさほど変わりませんよ?それに、今のあなたであれば、さすがに余裕とはいかないまでも、苦戦することもないでしょう」
「……ちなみに、その山裾付近の魔物のレベルってわかりますか?」
「この周辺の森で最も高レベルなのは、マーダーレッドグリズリーとタイラントパイソンがレベル60だったかと。山に登るとワイバーンなどのレベル65から70辺りがいますので、意識のある状態では、まだきついと思います」
私がレベル1って言ったはずなんですが……?なんで、レベル60を苦戦せずに倒せるというのだろうか?私にはわからない……
「そうですか……さすがにレベル60は無理があると思うのですが?仮にウェポンパリィで凌げても、攻撃が通らなければ倒せないわけですし……」
「ああ、装備のことなら何も心配いりませんよ?今、他の者たちがカヅキ専用の装備一式を作っていますからね。インベントリのことも話してあるので、予備も含めていろいろ作っているようですから、完成を楽しみにしていてください」
「え?あの……師匠たちに好き勝手に作らせると、とんでもない素材とか使いそうで怖いんですが……」
「……もう既に手遅れでしょう。例の模擬戦から戻ってきた後、あの戦いを参考にしてあなたに合う装備を考えて、生産組に発注していたようですので……特に戦闘組は、あなたを意識不明にした負い目があるものですから、私財まで注ぎ込みかねません」
「う、うう……こうなってはもう、ダンジョン産の3種の鉱石が使われていないことを祈るしかない……あと、絶対悪目立ちするから、ダマスカス鋼もやめて欲しいなぁ……」
「ごめんなさい、カヅキ。昨日作業場へ行った時には、既にダマスカス鋼を使っていましたから、もういくつか完成していると思います」
「あ?あ、あー…………人気のない、森の奥専用装備にします……」
もう駄目だ……完全に手遅れ状態だった……ああ、でも大丈夫か。瞬間換装あるもんな。場所を移動する前に切り替えれば、バレへんバレへん……あ、あはは……