第110話:温泉計画?
「一応、案は考えてあります。ありますが、すぐに実行できるようなものではないので、実行するにも時間が掛かりますし……仮に実行できたとしても、広い牢獄に閉じ込めるようなものなので、どうしたものかと……他にいい案があればいいのですが、私自身の望みと彼女の状況が両立できるものとなると、なかなか思い浮かばないんですよ」
「……それは広い牢獄を用意して、彼女を投獄するということですか?その牢獄を手配するために、時間が必要だということで合っていますか?」
「はい、合っています。手配するというか、場所を探して自分で建設する必要があるので、場所探しと建築用の資材の入手と建築するための時間が必要になります」
「まさか……彼女のためだけに広い敷地を持つ牢獄を、新たに造り出そうというのですか?」
「そういうことになりますね。実際には牢獄ではなく、農地のある要塞といった感じでしょうか?理想の立地は、まず温泉が湧いていて、周囲にルリのレベルに見合った魔物がいる森の奥でしょうか?要塞の中に居住区画や倉庫、その他施設も用意して、ルリにはそこの防衛も含めた管理人をしてもらおうというのが、私の考えた案です」
「あなたは、そんなことを考えていたのですね。それにしても、森の奥に要塞ですか……また、とんでもないことを思いつきましたね」
「こうでもしないと、私が独りで自由気ままに旅をして理想郷を目指すという望みと、ルリが私の従者として、その役目を長きにわたり果たし続けるという罰が、両立できないと思ったんですよ」
こんな序盤に美少女エルフの従者なんて連れ歩いていたら、目立ってしょうがないからね!まぁ、序盤でなくても悪目立ちするだろうけど……
あと、自分専用の温泉宿も欲しかったからっていうのもある。
だって元日本人だもの!日本人がファンタジー世界にきたら、そりゃあ温泉を求めるでしょ?要塞なのは、単純に壊されたくないから。森の奥に建築予定だから、獣や魔物も相応に強いだろうしね。頑丈な外壁がないと不安だし、普通の壁だと持たないと思うから、安心して暮らすためには要塞並みにしておかないと危ないと思うので、仕方ないね!
「ふむ……森の奥で主人の財宝を守る番人というわけですか。なるほど、確かにそれならば一緒に行動していなくとも、従者としての務めを果たしていると言えるでしょう。森の奥を選んだのはエルフの特性を活かすためですね?」
「街中だと、彼女が今まで積み上げてきた努力を活かせませんからね。折角ここまで育て上げたてきたのですから、わざわざそれを無駄にすることもないでしょう。温泉は山の方が湧きやすいと思いますが、森の中でも湧かないわけではありませんからね。どうせならということで森の奥でいい場所を探そうと思っています」
「温泉というものにとても拘っていますが、そんなに必要なものなのでしょうか?それに湧き出すということは資源か何かなのでしょうか?」
「ああ、こちらの世界では知られていないのでしょうか?地下から湧き出す熱い、もしくは温かい湧き水のことです。多くは火山などの溶岩地帯や地下の溶岩溜まりの傍を地下水脈が通ることで、地下水が熱湯となって地上に噴き出すことが多いようです」
「……ダンジョン内でなら溶岩地帯もありますし、熱湯が噴き出すトラップもあった気がしますが、地上ではなかった気がします。それに、あのような噴き出す熱湯で何をしようというのですか?」
「自然に湧き出しているものはかなり希少ですし、適温となるとまず見つからないでしょうね……温泉は基本的に地下深くまで穴を掘って湧き出させるものなんですよ。そして適温になるように川の水や地上の大気で冷まして、常時使用できるお風呂として利用するんです」
「お風呂、ですか?」
「ええ、そうです。たかがそんなもののために、と思うかもしれませんが、渡来人の大半はお風呂好きで、温泉に目がないんですよ。多分、実際に体験してみないと実感できないと思いますが、とても心地いいものなんですよ。なので、いつかは探しに行こうと思っていましたが、この際なので纏めてみることにしました」
「そうですか。よくわかりませんが、あなたにとってはそこまでする価値があるのでしょうね。完成したら試させていただいてもよろしいかしら?」
「その時は是非。この世界の住人たちにも気に入ってもらえるといいのですが……こればっかりは、実際に体験してもらわないとわかりませんからね」
「まとめると、あなたは森の奥で温泉を探し出し、そこで農地や倉庫もある要塞を築き、ルリをそこの管理人にしようということですね?」
「そうですね。他にもいろいろと要塞内に詰め込みそうな気がしますが、まぁそれは、その時になったらということでいいでしょう。それと、できればでいいのですが……フェルシアさんも同行、いえ同居してもらえればルリも寂しくはないと思うのですが、どうでしょうか?」
さすがに、結構広い敷地に独りだけっていうのも、あんまりだと思うからね……せめて、仲のいい人が1人でもいれば全然違うから、何とかしたいところではある。
「確かに、ずっと独りきりでは気も滅入るかもしれませんし、フェルシアも心配になるでしょうから、いいのではありませんか?当然、本人に確認しなければいけませんが」
「一番の問題は、森での探索が、まだ私にはできないことですね。資材を集めながらレベルを上げて、それから探索になるので、どれだけ時間が掛かるかわからないのが困りものです。せめてその間だけでも、ここに預けておきたいのですが、ダメでしょうか?」
「え……?森での探索ができない?カヅキ?あなた、もしかして……自分の戦闘力がどれくらいのものか、自覚できていないのかしら?」
「え?そりゃあ、皆さんのおかげでかなり強くはなったと思いますが、それでもまだレベル1のままですからね。どんなにスキルレベルが上がっていようと、レベル1には変わりありません。ですので、敵を侮ったりしませんよ?自分が強くなったなどと勘違いせず、油断も過信せずにゆっくりと確かめながら、徐々に活動範囲を広げていくつもりです。」
「ああ、やはり……どうやら、あなたは大きな勘違いをしているようですね。元々、異常なまでに慎重だったので少し気にはなっていたのですが、あなたは自分の能力を過小評価し過ぎています。いえ、どちらかというと魔物の能力を過大評価していると言った方が正しいのかもしれませんね?」
「はい……?」
あれ?なんか私が自分の戦闘力に関して自覚がないみたいに言われていますが、そんなことはありませんよ?ステータスとかいろいろバグってるような数値になってることも、スキルレベルが異常に上がっていることもちゃんと知っているのですが……?
もしかして、住人しか知らないパラメータとかがあったりするのかな……?