第2話(その3)
現れたVR画面、そこに映し出されたものは・・・・・・
「ここを見てくれ。モーターが異常に熱い」
VRの画面上、コンテナを吊り上げるスプレッダー本体、そのモーターを内蔵する部分を指し示し、伊東がハナに声を掛ける。
「ハナ、温度センサーの数値を出してくれ」
「はい、画面をセンサーモードに変えます」
再びハナの目が光ったかと思うと、スプレッダー本体部分に数値が浮かぶ。
(ここまで分かるのか)と、舌を巻く松岡。
「これを見てくれ、外面温度が120度を越えている。だが振動やトルクに変化はない」
「……と言うことは、異常電圧、ですか?」
「そう、その通り。それで制御不能となった」
「つまり、誰かが故意にやった可能性も?」
「問題はそこにある。新日本重工も一枚岩ではない。制御は中国工場なのだ」
「まさか……誰が何の意図でやるのですか?」
松岡の言葉に伊東は顔を顰め、壁際にあった椅子に座って腕を組んだ。
そして呟く。
「かつて新日本は客船建造の推進派と反対派に割れた。だが東郷氏を更迭した反対派がまた分裂して、再び社内はオセロゲームだ」
伊東曰く、戦後80年に渡る新日本の歴史は、常に派閥争いに明け暮れた。そして今また混迷する日本政府に煽られ、新日本内部も親米派と親中派の抗争が勃発していると言う。
「でもいったいあのコンテナには、何が……」
「新日本が開発した新型魚雷、海竜だ」
「海竜……、しかしそれをなぜアメリカへ」
「松岡君、中国の暴発が近い。日本も盾や矛だと言っている時ではない」
どんどん話が飛躍する中、松岡は先を読めない。
それを悟ったのか、伊東が言う。
「ハナ、画面をMDSへ切り替えてくれるか」
「はい、Metaverse Development Studioへ」
と、ハナの返事でモニターが切り替わり、どこか手術室の様な光景に。
「これが東郷さんの残した高次開発工房だ」
そのどこか漫画チックな画面に、松岡と淑子の混乱は深まるばかりだった。
(つづく)
やがて松岡が呼ばれた訳が……