第7話(その3)
その頃、首相官邸の地下では国家安全保障会議・日本版NSCの協議が続く。席上黒田防衛大臣が立ち、赤瀬川首相の正面にある大型モニターをレーザーポインタで示しながら沖縄方面の状況を説明していた。
「東西に辺野古とグアム、南北に空母JFKとロナルド・リーガンの4か所を頂点とするダイヤモンド形がアメリカ軍の戦略隊形です。我が自衛隊は北西と南西の角を担い、西から来る敵に向かう。これがDC作戦、つまりダイヤモンドクロッシング作戦の全体像です」
「それで、敵の目標はやはり沖縄ですか」
主に赤瀬川首相が黒田に質問をぶつける。
すでに二人で何度も練り上げたシナリオだが、今は全閣僚に依る態勢固めが急務であった。
「この位置の空母ながと第5防衛隊群、これら二部隊の警護の為、周囲に潜水艦しんきを旗艦とする潜水艦隊が展開しております」
黒田は簡潔に海自の配置を報告すると、航空関係の説明に移り、海竜には触れなかった。閣僚の中にスパイがいる筈がない。だが例え閣僚でも全員の口を封じることは出来ない。その意味で海竜に関する作戦の詳細は省いた。
「沖縄方面、昨日からの領空侵犯は……」
と、その時突然、部屋のドアがノックされる……、
4度の早打ち、緊急事態の合図だった。
「入れ――」
と、黒田防衛大臣が声を上げる。
「入ります」
と、作戦管理室の制服が入室し、敬礼して脱帽すると黒田にメモを渡した。
黒田は席に座ったままメモに目を通す。
「どうしました――」
と、様子を聞く首相。
「はっ――舟山から高速フリゲートが出撃しました。その数……32隻との報告です」
「32隻――、これが第1陣ですね」
黒田の情報に全閣僚がどよめく中、赤瀬川は国土交通大臣に命令を下だす。
「海上保安庁に対して、緊急通報を願います」
命令を受けて国交大臣と事務官が動く。
海上保安庁に依る国境警備の警察行動、これが日本が打つ中国海軍への初手だった。
(つづく)