第6話(その3)
一方、東京都内某所の統合戦略本部に重要閣僚が集まっていた。完全防御の部屋、オーバル型テーブル奥に首相の赤瀬川天喜が深刻な表情で座り、その左右に国家安全保障会議、通称日本版NSCのメンバーが揃っていた。
「防衛大臣、韓国の動きはどうですか」
「はい……、まだ五分五分の情勢です」
「五分五分――本当に北と連動して我々を攻める可能性が、まだあるということですか!」
「はい。砲塔はまだ北を向いていますが、いつ何時転じるか……やはり中国次第です」
黒田防衛大臣は防衛大学卒のプロパー、海自を退役したあと私学の教授に転じていたが、赤瀬川に依り民間人閣僚に登用された。そんな彼をマスコミは、戦時閣僚と揶揄していた。
「情報では韓国海軍内部に親日派はいるものの、大統領府の締めつけで動けないようです。反日派が牛耳る陸軍に国内を抑えられている状況で、大勢を覆すことは不可能かと……」
「最後の最後まで交渉を続けて下さい――」
「はっ――、心得ております」
アメリカが圧倒的な力で世界をコントロールする時代は遠く、混沌とする世界情勢の中で朝鮮半島を取り巻く情勢は悪化するばかり。
世界中で民主主義か専制主義かと声高に叫ぶものの、実際は富の奪い合いでしかない。金さえ掴めば例え民は死しても国は栄える、とでも言いたげな国の長がのさばっていた。
ようやく旧態依然を嫌う国民の支持を受けて、巨大政党から飛び出した赤瀬川が首相の座を得たのは2024年の秋だった。だが魑魅魍魎の蔓延る政財界は、隙あれば国民宰相を追い出そうと手練手管を弄するのだった。
「それと黒田さん、今伊東さんはどこに?」
「はい佐世保です。明日こちらへ参ります」
「早い方がいい。出来れば今夜にでも……」
「はい、分かりました。大村から飛ばします」
「なんとしても、今夜中に話を聞きたい」
首相の言葉を受けて黒田は急ぎ部屋を出る。
(是が非でも……)と、拳を握る黒田だった。
(つづく)