第1話「ノーフォークの港」(その1)
物語は、アメリカ東海岸、ノーフォークの港から始まる。
2025年11月3日朝、新鋭高速コンテナ船・マークスポセイドン号は、アメリカ東海岸バージニア州のノーフォーク港に入った。
夜もまだ明けきらぬ中、本船はアメリカ東海岸第3位の巨大国際港へ入り、居並ぶ船を左右に見ながら奥深くへ進む。凍てつくことを知らぬノーフォーク港だが、この日の朝はこの冬一番の冷え込みに包まれていた。
全自動化船マークスポセイドン号は、プロペラ反転の波を船尾に立てながら、自社ターミナルへ着岸態勢に入る。2007年の運用開始以来、ターミナルは9基のガントリークレーンで年間100万トンの貨物を捌いた。
その後拡張で今は12基が稼働、完全自動化に依り24時の操業が可能。青白い光の中で蠢くクレーン、キリンと呼ぶには余りに無機質なシルエットを浮かび上がらせている。
誰もいない岸壁に、最早出船入船の感傷など抱きようもない。ただ自然港として名高いノーフォークの港は、辛うじて背後の稜線で直線的過ぎる景観をいなし、海と船の描く曲線で一幅の絵の様な調和を醸し出していた。
船長400mを越えるマークスポセイドン号が指定岸壁の沖で停船、船首尾のツインスラスターがうねりを上げ、最寄りの海面がもんどり打つ。船体がゆっくりと接近を始める。
岸壁のビットアームが立ち上がり、船首尾のブルーワークのムアリングホールからヒービングラインが飛び出す。先端に球のついたロープが、まだ夜の明けやらぬ海の上をブルブルと揺れながら、アームを目指す。
通称スネイルビット、この一見カタツムリの様な自動係船装置は、Y字型アーム先端の光電センサーがヒービングラインを誘導して、飛んできたロープをさすまたの要領で掴む。
ロープを掴んだアームは反転し、先端の球をドラムで巻き取っていく。ドラムが回りヒービングラインが送り出され、まるで蛇がくねる様に係船用ホーサーが続くのだった。
(つづく)