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第2話 マリア

数年が経った頃、そんな私にも、ある出会いが訪れた。


それはある日、私と爺や、侍女さんたちと一緒に、森の散策にでかけていたときのこと。

広場まで出て、「お嬢様、ご休憩にしましょう」と爺やが言っていた時だった。


ガサガサ、と突然、森の奥の方から何かが木をかき分けてこちらに近づいてくる音が聞こえた。


「じ、爺や!」

「お嬢様は侍女たちの後ろへ!お前達はお嬢様をお守りしなさい」

「「はい!」」


爺やがすぅっと長剣を抜いて構える。

私は怖くてお姉さんたちの後ろでガタガタ震えていた。


怖い。


やがて緊張が頂点に達し、茂みから現したその姿を認めた瞬間、安堵のため息を吐いた爺やが剣を鞘に収めた。


「…お嬢様、お前達。大丈夫です。」

「え?」


恐る恐るお姉さんの後ろから顔を出すと、そこには私とちょうど同じくらいの背丈の女の子がいた。茶褐色の髪に葉っぱをつけたその子は、私達を見てとても驚いたようだった。


「……え?こ、ここ……ど、どこ、ですか?」

「ふむ。ここは私達の私有地なのですが……どうやら迷い込んでしまったようですね……誰か大人の方とご一緒でしたか?それともお一人でしたか?もとの場所に一人で戻れそうですか?」


少しピリピリした雰囲気を出して、尋問しているような爺やに怯えているのか、泣きそうな表情のその子を、私はしばらく観察していた。


初めて見た、たぶん私と同い年くらいの子。


いつも大人に囲まれて育った私には、その子の存在は、とても眩しく見えた。


「……ねぇ爺や、やめてあげて。その子、怖がっているわ」

「―は!申し訳ございませんお嬢様」


そう言って私に深くお辞儀をする爺やをぼぅっと見ているその子に近づいて、私は声をかけた。


「ねぇ、あなたは誰?どこから来たの?」

「わ、私、ま、マリア、と、言います。こ、この山の麓の、小さな村から、き、来ました」

「大丈夫、怯えないで。ごめんなさい、驚かせてしまって。私はヘレンっていうの。この人達は私のお屋敷で、私をお世話してくれている人たちなの」


そう説明すると、その子――マリアは、ひどく驚いて謝り始めた。


「あ、あぁ、ごめんなさい、そんなにビックリしたり怯えたりしないで。私ね、初めて同じくらいの年の子を見かけて、とても嬉しく思ってるの!ねぇマリア、迷子になってしまったのなら、ちょうどいいわ。少し私のお屋敷で、休んでいかない?その後、麓まで送ってあげるから」


爺やが少しだけ口を開きかけたが、私が目配せをして黙ってもらった。

小言はあとからいくらでも聞くから。


「……そ、そこまでしてもらって……い、いいの、ですか……?」

「えぇ、もちろん。だって、マリアは私の初めてのお友達になってくれそうなんだから」


そっと手を出して、尻餅をついたままの彼女を起き上がらせる。


「改めまして、私はヘレン。よろしくね」

「わ、私こそ!ま、マリアです。よ、よろしくおねがいします、ヘレン様」

「待ってマリア。友達に敬称はつけないでしょう。呼び捨てにして」

「……わ、わかりました、へ、ヘレン……」

「うん!じゃあ私のお屋敷に案内するわ」


こうして帰宅した私たちに、屋敷の人たちはずいぶん驚いていたけれど、お母様だけは特に喜んでくれて、なんだか嬉しかった。


マリアは、私のお屋敷のような場所を初めて訪ねたみたいで、キョロキョロするす姿がとても可愛らしかった。


私の部屋でお茶菓子を一緒に頬張りながら、お互いのことを少しずつ話していくうちに、マリアの緊張も解れたみたいで、そんなマリアとおしゃべりできることが、私にはとても新鮮で、楽しい時間だった。


茶褐色の髪に光があたって、透けて赤にも見えるマリアは、幼い私から見ても、とてもきれいだと思えて――

その感情が、私にはまだよく分かっていなかったけれど、これからずっと彼女と過ごせる時間が、とても、とても楽しみに思えたのだった。



「――ごめんなさいね、マリア。私はあまり屋敷から出られないからあなたのお家までお見送りができないけれど、また遊びに来てね」

「う、うん!わ、私の方こそ、こんなにしてくれて、すごく嬉しかった。ま、また遊びに来るね、ヘレン!」


屋敷の玄関で、お母様と一緒に、ヘレンと爺やたちを見送る。

馬車から手をふるマリアに、私も大きく振り返した。


姿が見えなくなると、急に襲ってきた寂しさに、私はお母様の腕にしがみついた。

 

「大丈夫よ、ヘレン。これからはずっと遊べますから」

「……『友達』って、すごくいいんだね。私、マリアに会えて本当に良かった」

「お注射も頑張っているから、あの子ともっと仲良しになれるといいわね」

「うん……頑張る、私」


私は生まれつきの病気があるから、定期的に注射を打たなくちゃいけない。

打つのを忘れたりすると大変なことになるんだ、ってお医者様からもお母様からも言われていた。


だから自然に、あまり屋敷の外へ出歩くことはなかったし、第一、お庭がとっても広いから、遊ぶ場所には事欠かなかった。


でも……やっぱり、友達という存在は、その時の私には未知のもので……

うまく言葉にできないけど、とてもワクワクしていた。


私とマリア。

たぶん、これから色んな事が始まるんだ。

そう予感していた。


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