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最終話 大総統の子

あれから季節がめぐり、マリアとの出会いから数年が経った。

あの一件以来、距離も縮まった私達は、いつも一緒にいることが多くなった。


学校にも通い始めたのだが、学費のことでマリアが困っていたのを、お父様が少しだけ援助したようで、無事に一緒に通うことができるようになった。


その援助、というのが、この国の大総統からのもの、と知った時のマリアのご両親の混乱はもの凄いものだったのだけれど。


もう一つ、あれから変わったことがあると言えば……


「ヘレン。もう学校に行くのか?」

「はいお父様。今日は剣術の試験もあるので、マリアと早めに待ち合わせなのです。では行ってまいります!」

「ヘレンー?お弁当忘れてますよ!」

「あ、すいませんお母様、ありがとうございます。では!」


お父様が、前よりも頻繁に屋敷に帰ってきてくれるようになったのだ。

きっと、私に対する、お父様なりの思いやりだと思う。

『特殊な環境』で育てられた私にとって、家族がみんな揃うことが多くなったことは、ものすごく嬉しいことだった。


実は、お父様については、もう一つ別の騒動があった。

何かと言えば――


「ヘレン」

「はい、お父様」

「――私を許せない日が来た時。その時のために、お前にこれを託す」

「え?」

「あ、あなた!?」

「か、閣下!?」


あの騒動があった翌日。

朝、みんながいる場で、お父様が私に愛刀を差し出した。

お母様も爺やもみな驚愕していたけれど、私は妙に落ち着いていた。

その軍刀が、お父様なりの私への謝罪と決意を表しているのだと思えたから。


だから、そう思うと、拒否できなかったし、したくなかった。

お父様の意志を、思いを、真正面から受け止めたかった。


私がお父様の愛刀を受け取った時、笑顔が見えて――

どこか、お父様が背負うものの一端が、垣間見えた気がした。



それ以来、封印を施したままだけれど、いつも持ち歩くようになった。爺やとの模擬実戦も少しずつ増え、この刀の意味を訓練を通して理解していった。


私は、お父様の意志を、託されたのだ。


――この国の、大総統の子として。


私が本当の女でなくとも、男でなくなろうとも。

『私がこの刀を受け継いだ』というのは、そういうことなのだと感じた。




お父様からもらった愛刀を大切に携え、マリアとの待ち合わせ場所まで急ぐ。

この軍刀が、あまりにも研ぎ澄まされた、人智を超える力を持っているのは、子供の私にも分かる。

それを託された意味の重さを噛み締めて、決してこの軍刀の封印を解かないようにしている。人を相手に使ってはいけない。そう、この刀が言っていた。


――正直、お父様が私にしたことを、完全に許せたわけではない。


それでもこの軍刀をいつも携帯するのは、私の覚悟でもあった。


大総統の子として、男であることを秘匿され女として育てられた私が、学び舎へと通う。


それは、決して平坦な道ではない。

だからこそ、覚悟が必要だった。


いつか、手術をするかどうかの、選択ができるようになるために。

そして、大総統の子ということが、どんなことを意味するのかを受け入れるために。

その上で、守りたい人を、守ることができるようになるために。


そのために、私はいつも、お父様の――大総統の意志を、持ち歩くのだ。

困難な道だと思う。

でも、どんな私でも私だと受け入れてくれたマリアとなら、私はどこへでも行ける。

きっと、彼女となら。


「……はぁ、はぁ、ごめんねマリア、少し遅れた」

「ううん、平気だよ。いこ、ヘレン」


自然と繋ぐ手。

私は、マリアとこうして歩く時間が好きだ。

私には、マリアがいる。だからこそ、私は私を見失わずに済んだのだから。


「よし、行こっか、マリア!」

「うん!」


やっと、私は前を向けるようになった。

傍らには、マリアがいてくれるから。

私が男でも女でもなくともいい、そう言ってくれた、私の大切な人がいてくれるのだから。


繋いだ手の温もりを感じながら、私達は学校へと走っていった。


Fin

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