プロローグ
ここは、とある軍事国家。
そこは、超常を操り、個で数個師団に匹敵するとも言われる一人の人間によって統べられていた。
――大総統。それが彼の地位であり、彼の揺るぎない力を示していた。
彼は、絶対的な力を誇っていた。他国からの侵略を幾度となく退けた彼は、自国民からは英雄として支持されていた。
そして同時に、彼の力を十二分に理解している最も彼に近い側近から末端の兵士に至るまで――軍部の全ての人物から、恐怖の二文字を抱かれてもいた。
『孤高』
そう形容される彼があまりにも人からかけ離れた力を持つことは、他者からの壁を作り出した。
それでも、彼は国の頂点であり続け、国を、国民を愛した。
たとえ、どんなに孤独に苛まれていたとしても。
彼は、英雄であろうとし続けた。その力の意味を、そう理解していた。
そんな彼に、絶望が訪れた。
すべてを諦めかけた時、一つの奇跡が起こった。
頂点として、国を力で統べる者として、隙を見せることが許されない彼に訪れた安寧。
彼は、守らなければと思った。
たとえ命を懸けても。
あとで――やがて成長した本人から、どんな誹りを受けたとしても。
それが、彼自身の「光」だったから。「希望」だったから。
だから――真実を隠し――そうすることで、彼は自分にとっての「光」をあらゆる障害から守ることにした。
ここに記すのは、決して彼の、大総統としての武勇伝ではない。
一人の人間が守ろうとした「大切なもの」――その当事者の、苦悩と葛藤の記録である。