我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主 SideR
「ルーナ・アリス・ハリソン。どうかこちらに」
「は、はい~?」
ルーナは聞いてないといった感じで私の前に立つ。
きょろきょろして周りを見回している。
「どうぞ」
私はブーケを彼女に渡した。
「えっ? えぇ?」
彼女はあたふたしながら、ブーケを受け取ってくれた。
「私の幸福の一部を一番大切な親友の貴方にあげる。どうかあなたがいつまでも、いつまでも幸せでありますように」
「ろ……ローゼリア様……いえ、薔薇子様……」
「そ、その呼び方はやめてってばぁ!」
「嬉しいです。こんな嬉しいこと、前世でも今世でも初めてです。こうして神様に祝福されたのなら、私は地獄でも、煉獄でも、天国でも、何処にいっても頑張れる気がします」
ルーナはポロポロと大粒の涙を流した。
彼女のドレスが涙で濡れてしまう。
「や、やだ……今生の別れみたいなこといわないでよ」
ルーナの涙を拭こうとハンカチを取り出す。
――その時、ルーナの姿がぼぅっと光っていることに気がついた。
昼間の月のようにぼんやりとした光だった。
「大好きです。ローゼリア様。アッシュ様はあんまりローゼリア様をいじめちゃだめですよ。どうか、おふたりとも永遠に幸せになりますように、どこかの世界から祈っています」
ルーナがそう言うと、彼女の身体が白い光に包まれて――消えてしまった。
薔薇の持ち主は消え、ブーケは宙から地に落ちる。
「……えっ」
何で?
ルーナは一体どこに……?
「……転移魔法で逃げたんでしょうね。大衆の前が恥ずかしかったんでしょう」
戸惑う私に、アッシュは優しい声でそう告げてくれた。
「でも、そんな……」
「お嬢――いえ、ロゼ。前を向いてください。……貴方は今日の主役なんですから」
そう言われて前を向く。
たくさんの人々がいる。その中にルーナの姿を探すけれど、彼女はいなかった。
アッシュはルーナの行方について知っているのかもしれない。
消えたときに動揺すらしなかったから。
でもそれを私に教えてくれないのは、何故だろう。いつも彼が私に嘘を吐く時は、私のことを思っての嘘を吐くことが多い。
だから、きっと……ルーナの行方について、私は聞かないほうがいいのだろう。
なにかあるのなら、ルーナ自身から打ち明けてくれるはずだ。
私は背筋をピンと伸ばして、落ちたブーケをもう一度手にとった。
そしてブーケトスを行う。
誰か、見知らぬ誰かよ。
どうか貴方も幸せでありますように。
◆
こうして式は終わり、念願のハネムーンだ!
馬車で私たちはゆっくりと向かう。
「色々有りましたね。お嬢」
「お嬢って言うの、もうやめない? 私はもうアッシュのお、お嫁さんなんだし……」
「ちょっと、その照れ顔は反則です」
くいっと顎を上げられる。
「俺にとって貴方は永遠のお嬢様です。そしてようやく手に入れた。俺だけの愛しい薔薇でもあります」
「歯の浮きそうなことを言うのね」
私の恥ずかしいという気持ちは限界突破していた。
アッシュはいたずらっ子のように、ニッコリと笑って――
「……二人っきりになったら、思いっきりいじめてあげますからね」
なんて言ってきたのだった。
物語を締めくくるには、この言葉がお決まりだろう。
こうして二人は末永く幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
――だけどこれは現実。
物語じゃない。
これからもこの世界は続いていく。私とアッシュの人生はまだまだ続いていく。
何処に居ても、病める時も健やかなる時も、永遠の愛を誓いましょう。
神様ではなく、ただ一人の貴方に。
これにておしまい――と思いましたか? もうちょっと続きます。
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