我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主 SideR
三年後――
教会の大きな鐘が鳴る。私達の結婚を祝福するように、街中に響き渡る。
――リン、ゴーン。
私とアッシュは卒業式の翌日、式を挙げた。
今日はフェリックス王子の配慮により、街中の人たちがフラワーシャワーを窓から降らしてくれているらしい。
――大事な人の結婚式ですからね。
フェリックスはいつもの微笑みで言ってくれた。
彼は私よりも先に魔法学校を卒業し、無事王位を継承して、隣国の姫と結ばれた。
もう彼は王子じゃない。一国を担う王様だ。
今日も代表者としてスピーチをしてくれた。
私は真っ白なウエディングドレスを着て、真っ赤なバージンロードを一歩ずつ歩む。
ウエディングドレスはアッシュがデザイナーを雇い、特注で用意していた。ところどころに白い薔薇が刺繍されている。
オフショルダーが二の腕を隠してくれるので、私のやや大きめな胸を強調しないデザインになっていた。可愛いけれど……露出したロゼを見せたくない、というアッシュの独占欲を感じた。
そして、教会にはたくさんの青と赤の薔薇が飾ってあった。
青い薔薇はヒューゴが品質改良を重ねて作ったものらしい。流石天才科学者。
私はお父様と共に真っ赤なバージンロードを歩く。
ステンドグラスから七色の光が差し込んで、きらきら輝いている。私のドレスは光を吸い込み、薔薇の刺繍部分が七色の光を反射した。
隣を立つお父様は涙を我慢していて、決壊寸前のようだった。
――一歩。踏み込む。
思えば色んな事があった。
アッシュとはたくさんの時間を過ごした。
――一歩、また進む。
ずっと、ずっと、想いを伝えられなかった。
彼はいつでも私を待ってくれていたのに。
――一歩、カツン、とヒールが音を鳴らす。
そうして、長い長い繰り返しを経て、私達は結ばれた。
バージンロードは長いようで短かった。
アッシュは花婿の白いモーニングコートを羽織っていた。
夜空の様に黒い髪によく映える。
彼は眩しそうに目を細めた。
「ロゼ。綺麗だよ。本当に……」
「なに泣きそうな声になってるのよ、もう」
アッシュの声は聞いたことがないくらい弱々しかった。
でも、それが喜びからくるものだと知っているから、私も嬉しくてたまらなくなる。
目の前にいる神父様が、こほんと咳払いをする。
「新郎アッシュ・ウィル・ヴォルフガング、あなたはここにいるローゼリア・マリィ・クラインを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を神に誓いますか?」
――神に誓うなんて、なんて皮肉だと思った。
「はい、誓います。俺だけの神様に」
彼はまっすぐな眼差しで私を見てくれた。
彼の言葉の意味を考えると少し気恥ずかしくなって、ちょっと目をそらす。
「新婦ローゼリア・マリィ・クライン、あなたはここにいるアッシュ・ウィル・ヴォルフガングを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を神に誓いますか?」
「――はい。誓います。世界中の人々の神様に、心から、愛を込めて」
参列者にはたくさんの人がいる。
この世界の人々は、私が生み出した人たち。私が創った世界。
でもそれぞれの意識を持って、願いを持って、生き続けている。
それならば、どうか祝福を。
この世界に生きる全ての人達に――
そしてアッシュは私のウエディングベールをそっと上げた。
彼は今までで一番幸せそうな顔をしていた。
神父様が言う。
「それでは、誓いのキスを」
私は目を閉じる。
そして、アッシュからいつもより優しい口づけが落ちてきた。
人前でのキスは、やっぱり恥ずかしかった。
しかもお父様やお母様や、ルーナやフェリックスや、エドワードや、アニーや、もういろんな人達に見られているのだ。
「ロゼ、綺麗だよ。世界で一番」
「アッシュも、世界で一番格好いいわ。大好き」
こうして誓いの言葉が終わり、私とアッシュはバージンロードを二人で歩く。
配列者たちもぞろぞろと外に向かう。
街の人達が撒いてくれた花びらが空を舞う。
今日が快晴でよかった。
そして、外には何やら変なきぐるみをきた人がいた。
猫の着ぐるみとか、犬の着ぐるみを着た人をちらほら見かける。
「――?!」
まさか着ぐるみがいるなんて聞いてなかったから、私は驚いてアッシュを見た。
するとアッシュはいたずらっこのような笑みを浮かべた。
「いつか、お嬢が願っていましたから」
いつの日か口にした、あのテーマパークみたいなところで……という言葉を彼は覚えていたのだろう。
まさかこんなサプライズがあるなんて。
本当にアッシュは、私の欲しい物をいつも理解してくれている。
好き。好き。大好き。
世界で一番大好きな人。
そして、宇宙で一番愛している人。
私は青い薔薇で作られたウエディングブーケを持ち、背筋を伸ばして声を出した。




