【IF END3】おかしいのは、この世界※
イザベラが即死魔法をかけなかった、もしものお話です。
かなり残酷な描写を含みますので、閲覧は気をつけてください。
「あは、はははは、……うふ、ふふふふ」
狂ったような甲高い声で笑うイザベラ。
どうして彼女が生きているの!?
「あぁ……彼が絶望するのなら、こんな痛みも愛おしいわ。貴方みたいなお人形をこうやって、いたぶって……いたぶっていたぶっていたぶって!」
身体中が痛い。早く解放されたい。
私は何度も何度も苦しみの魔法をかけられ、精神はもうおかしくなっていた。
「……ふふっ、くふ、ふふふ。それじゃあ、お嬢様。貴方の人生をめちゃくちゃにしてあげるわ。ねぇ、助けてほしい? もう解放されたい?」
「は……はい、解放されたい、ですっ……うっ、あぁっ……」
イザベラはケラケラと笑って、冷たい瞳で私を見下ろして――また禁忌の魔法を唱えた。
「『服従なさい』」
こうして、私はイザベラの奴隷になった。
◆
ふと、目覚めた時、私の身体は血だらけになっていた。
学校の庭園。
時刻はお昼時だろうか。
目の前のテーブルにはランチがおいてあったけれど、それもまだらに血で染まっていた。
「きゃああぁああああああ!」
どこかで女生徒が叫ぶ。
私はナイフを持っていて――庭園で倒れていたのは、フェリックスだった。
「――っ!」
ゆっくりと記憶を辿る。
私は監禁されていたけれど、アッシュとルーナに助けられた。
イザベラはその時に自害をした。
けれど最後の最後に呪いの言葉を遺したのだ。
『王子様を殺しなさい』と。
だから私はその命令に従って。
フェリックスを昼食に誘って。
フェリックスは私の婚約者だから、快く引き受けてくれて。
和菓子があると嬉しいなぁ、なんて言いながら笑い合って。
私は王子を殺した。
「……ぁ、ぁああああああああああっ!!!!!!!!!!」
ちがう。私じゃない。私がしたんじゃない。
私は操られて――でも手には肉を割く感触が残っていて――
私は――身体中から血の匂いがする――
私は――王子は刺される直前まで笑っていて――
私が――私がナイフを取り出した時も、昼食に使うんだろうと驚きもせず――
私が――まず、喉を割いた――
私が――大量の血が溢れ出た――
私が――フェリックスは血の泡を吹いて――
私が――それでも足りないから、次は何度も何度も心臓を目掛けて胸を刺して――
私が――気づけばこの手は真っ赤に染まり――
私が――フェリックスは何も答えない屍になって――
私が――彼を殺した。
「お嬢――」
その時、アッシュが私を抱きとめてくれ、目を塞いでくれた。
彼のぬくもりに包まれて、私は意識を失った。
◆
何度洗っても、何度洗ってもとれない。
血の匂い、血の感触、肉の感触、彼の笑顔、彼の絶望した顔、彼の光のない瞳。
あれから私はアッシュと共に国外へ逃げた。
『呪い』は国のお偉い様だけが知っている禁術だから、服従の呪いをかけられているという事実は伏せられ、王子に振られた女が復讐のために王子を刺したという名目で、世界中に指名手配された。
真っ赤なドレスの殺人姫『ローゼリア』
「あぁ……あっ……いや、いや、いやぁあっ」
「お嬢、大丈夫です。俺が側に居ます」
目が覚めるたび、記憶のフラッシュバックが起きる。
その度、アッシュは私を優しく抱きとめてくれた。
ここはどこかわからない部屋。
アッシュが連れてきてくれた場所。
地下なのか、地上なのかわからない。ただ、外から光は差し込んでこない。
「私は、私は……人を……」
「俺は知っています。貴方が操られたことを。それを止められなかったのは、俺の罪です。貴方に罪はない」
「あぁ……うぁ、あぁああ……!」
「大丈夫です。ここには俺以外誰もきません。誰も知りません。誰も通しません」
「ちがうの、ちがうのよっ!」
「ええ、違います。お嬢は操られただけです」
違う。私は罰がほしかった。
罪を犯した私を、罰してほしかった。
それなのにアッシュは甘い言葉で絡め取って、私を赦してくれる。
斬首でも、磔でも、どんな罰でも受けたい。
でもそう思うことすら赦されない。何よりも辛い、甘い味をした永遠の拷問。
「お嬢、ほら、紅茶を入れました」
だから、アッシュ。
優しくしないで。
貴方の優しさが私を苦しめる。
でもその優しさが嬉しくて――あぁ、そんなこと思ってはいけないのに。
「……さぁ、この薬を飲んでください」
言われるがまま、アッシュに出された薬を飲む。
「辛い記憶への回路を少しずつ断って、引き出せないようにしましょう。そういうお薬です。辛い思い出は心の一番奥に入れてそっと鍵をつけて仕舞えば良いんです」
粉薬は苦かった。
飲むとぐにゃりと身体が柔らかくなったような浮遊感に襲われる。
でも、ぼーっとして、何も考えられなくなってきた。
「ずっと、ずっと、毎日毎日、かならず三食ごとにお薬を飲んでください。ずっと飲み続けることで、薬は身体に定着していきますので。飲み忘れると、離脱感に襲われちゃいますからね」
「……うん」
もう私には、なにもない。
実家はどうなったんだろう。娘が人殺しになって、追放だけで済んでいるといいけれど、そんなわけがない。たぶん断罪されている。末代まで。
私にはもう、帰る場所がない。
彼の胸の中しか。
アッシュに頼るしか、生きていけない。
アッシュは楽しそうに色んな話をしてくれる。
この世界の物語を読んでくれたり、林檎がおいしい季節になったとか、いい茶葉を取り寄せたとか、いつもどおりの口調で。
そして眠る前には必ず薬と、魔法の言葉をくれる。
「おかしいのは貴方じゃありません。この世界のほうですから」
◆Side A
ロゼが王子を殺した。それは一瞬の出来事だった。
護衛であるレオナルドが、すぐにロゼを切り裂こうとした。
けれどそれを俺は止めて、レオナルドを刺した。
ロゼの瞳は虚ろだった。この瞳には覚えがある。
服従の呪いをかけられた者の呪いだ。
きっとイザベラにかけられたのだろう。――あの女は生かすべきじゃなかった。
ロゼと国外に逃げて、もう一年が経った。
季節はめぐり、再び桜が咲き誇っていた。
けれど、ロゼはもうそれを目にすることはない。
あの事件以来、彼女は壊れてしまった。
日中は何度も手を洗い、叫び声をあげる。
俺は何度も色々と手を血で染めているから、何も気にならなかった。
レオナルドを刺し殺した時も、なにも感じなかった。
だから、人を殺しただけでこんなに狂う彼女が、可愛くて、愛おしくてたまらなかった。
クライン家は王子殺しの家として、爵位を奪われ、断罪された。
娘のローゼリアの行方は、国の外まで指名手配書が回っている。
手配書の肖像画は美しく描かれていて、いつしか『殺人姫のローゼリア』なんて詩が流行るようになった。
“わるいことをしたら、ローゼリアがくるよ。おそろしいおそろしい魔女だよ。
彼女に捕まったら逃げられないよ。ずっとずっと、追いかけてくるよ。
だから夜になったら家に帰ろう。こわいこわいお姫様に殺される前に ”
そんな悪趣味な詩が、子どもにも歌われるほど流行ってしまった。
俺はもうやり直しはできない。《観測者》の権限を彼女に奪われてしまっているから。
でも、提案はできる。
「俺に権限を戻して。一緒にやりなおそう」
と言えば、きっとロゼは従ってくれる。
だけど、してあげない。
何故なら、俺はこの世界で満足しているからだ。
もうロゼを見る者はいない。俺だけが見れる。
もうロゼに触れられる者はいない。俺だけが触れることを許されている。
時にロゼは薬を飲んで落ち着き、それでも落ち着かない時は肉欲に溺れさせた。
もうロゼは俺なしでは生きていけない。
「俺だけのお嬢。……ずっとずっと、この命が尽きるまで一緒にいましょう」
――貴方が死ぬというならば、先に俺は死にましょう。
最初から、俺の願いは『あなたよりも先に死にたい』
それだけだから。
というわけで、IF 3部作でした。
あくまでヤンデレを味わいたいって方向けに、タイトル詐欺にならないようにしてみたのですが……。
ヤンデレはバッドエンドを乗り越えてハッピーエンドになることで意味を成すかなと思って、あえて本編内に組み入れた三部作でした。
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