星の王子さまと青い薔薇 SideA
こんなにも冷たい口づけは初めてだった。
触れた瞬間――
青く光る薔薇は、彼女の胸に吸い込まれていった。
俺は彼女の手に、自分の手を絡める。
彼女の手が、徐々に熱を持つ。
そしてまつげが揺れて、彼女の宝石のような青い瞳が、俺の姿を映し出した。
――あぁ。
こんなにも嬉しいと思ったことはない。
彼女はもう抜け殻ではない。
ここに『い』る。熱いほど感じる。
この手のひらのぬくもりは偽物なんかじゃない。
「……んっ!……んんっ!? ふっ……あっ……」
俺は彼女の口内を貪る。
本当に彼女は酷い人だ。
いつも俺を置いて遠くに行こうとする。
「んっ……ちゅっ、あっ、しゅう……んんっ!」
もう離さない。
たとえ彼女がまた死者の国に行くなら、ヒロインなんかに頼らずに、俺自身で迎えに行く。
もしも煉獄の山頂で待っていてくれるなら、どんな試験でも受けてみせる。
いろんなローゼリアに出会ってきた。
俺は彼女に毎回恋をした。
他の女性なんて考えたこともないくらい、愛おしく感じていた。
彼女に尽くした時間が、彼女への愛情になる。尽くしたからには、責任が伴う。
そしてそれはかけがえのないものになった。
他に代わりのない存在。
きっと彼女のいない世界を廻っても、俺はやっぱり彼女を探し続けるだろう。
俺だけの薔薇――ローゼリアを愛するために。
「んっ! んんっ! ちゅっ……ぅあっ……んん」
キスの時間が長くなるほど、彼女の体温が熱くなる。
もっと、もっと求めたい。
彼女が欲しい。好きだ。愛している。
あの星空の下で願いを聞いた時から、俺のことを考えて、俺の自由を望んでくれたこと。あんな薔薇を降らせてくれて告白なんて、予想外のことをする。そんなお転婆で気まぐれな彼女を……もう二度と離さない。
「ス、ストーーーーーップ! な、なに? なんなの?!」
ローゼリアは俺の胸を突き飛ばして、叫んだ。
その顔は真っ赤で、口の端には唾液が伝っている。
「ル、ルーナ! いるならなんで止めてくれないの!?」
「……い、いやぁ……まさか王子様のキスがディープキスだなんて思わないでしょう」
ルーナは顔を両手で隠していた。けれど指の隙間でばっちりこちらを覗いている。
外から鳥の鳴き声が聞こえる。
カーテンの隙間から、朝陽が差し込んできた。
目の前の彼女――俺のお嬢は、少し照れたように笑って。
「おはよう」
もう一度彼女を感じ取りたかった。
また身体が冷たくなっていないか、俺は彼女の腕を引き寄せて、抱きしめる。鼓動を感じる。熱を感じる。吐息を感じる。生きている香りを感じる。
「もう、どこにも行かないでください……」
俺は涙を歯で食いしばって我慢しながら、彼女を抱きとめた。
「えぇ。どこにもいかないわ」
そう言って、俺の背に手を回してくれた。
◆
ローゼリアは全てを覚えていた。
塔に閉じ込められた時、イザベラに呪いをかけられたこと。
「きっと、6周目と7週目、どうやって終わったのかわからないのは、イザベラが関与してたからかもしれないわね」
ローゼリアはベッドに腰掛けて語った。
俺は彼女の腰を抱き寄せる。
「たとえば背後から呪いをかけられたら、速攻で死んじゃいますしね」
「あのーそのーイチャイチャしないでくださいなー。見ているこっちが熱くなってしまいます。夏はまだ先ですよ」
「夏か、夏には海に行きたいっすね、ロゼ。でも誰にも貴方の水着姿を見せたくないから、プライベートビーチにして貸し切りましょうか」
「やべぇ、この男なんも聞いてねぇ」
ルーナは呆れ果てた目で、俺の方を見ていた。
「ふたりとも、本当にありがとう。大好きよ」
ローゼリアは花のように笑った。
「私も好きですー!」
ルーナが彼女の頬に口づけようとするのを、ぐっと頭を抑えて阻止する。
「女だからいいじゃないですか。功労者にご褒美をください!」
「……ぐっ」
確かにルーナが死者の国に行っていなければ、いま、ここに生きているローゼリアはいない。
「――一生で、一回だけ」
今回だけ特別だ。俺は絞り出すように言った。
「やったー! ローゼリア様! ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅ!」
「やん! あんっ! ちょっ! 多い、多いわ!」
「一回だけって言ったでしょう」
俺はルーナをつまみ上げた。
そしてルーナは道化の仮面を外して、優しく微笑んだ。
「……本当に、おめでとうございます。アッシュ様」
「俺の方こそ。ありがとう、ルーナ」
初めて、ロゼ以外の人に心から感謝をした。
「も、もしかして……二人、そういう関係なの!? えっ……三角関係!? ど、どうしようっ!」
ロゼが顔を真っ赤に染めてあたふたする。
本当に、超鈍感なのは変わらない。
俺の大事なお嬢様。
ルーナをベッドから引き下ろして、俺は床に膝をつく。そして彼女の手を取り、口づけを落とした。
「ロゼ。貴方を――生涯をかけて愛すると誓う。俺と結婚してください」
今回のモチーフは言わずもがな『星の王子様』です。
これにて9章も終了。残すは最後の10章です!どうぞ最後までお付き合いください!(嘘が混ざっています)
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