たったひとつの希望 SideA
白い彫刻のようなロゼの身体を見て、今までの思い出が蘇る。
何度も見てきた。
何度も繰り返してきた。
彼女の死を何度も見てきたから言える。
もう、この世界にローゼリアはいない。
いま俺が抱きしめているのは魂のない身体だけ。
『アッシュ』と照れ笑いしながら俺を呼ぶ彼女はもういない。
涙すら、もう出なかった。
憎しみの相手は――イザベラ。
あの女を生かすべきではなかった。心と同時に壊しておくべきだった。
けれどイザベラは死んでしまった。もう恨みをぶつける相手すらいない。
ロゼの死体をみたルーナは、すとん、と力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「……そんな」
彼女にとってローゼリアの死は初めての経験だ。
もうこの世界に用はない。
俺は懐にしまっていた短剣で自分の首を掻っ切ろうと――そう思った時、彼女の言葉を思い出した。
ルーナと出会ったばかりの頃――俺は《創造主》権限で、《観測者》としての権利を消されている。
――つまり、ここで死んだら、もう戻れない。
何度も繰り返してきたけれど、また5年前に戻ることは――おそらくできない。
「……アッシュ様」
ルーナがロゼに触れようとする。
「触るな」
俺はロゼの亡き骸を抱きしめながら言い捨てた。
「……いいえ。死因を調べさせてください」
「君が? そんなのわかるの?」
「前世は医者だったので」
ルーナはそう言って、ローゼリアの身体に触れた。
そして、顔を歪めて涙をボロボロとこぼしながら、彼女の身体を調べていた。
「……傷はないですし、首を絞めた形でもない。この死に方は……ええっと……」
「呪いだね」
「――ゲームの中でもありましたが、最悪な形ですね」
ルーナは息を呑んだ。
即死の呪いは相手を死に至らしめると同時に、自分も死ぬ。
だから使われないように、秘匿とされている。
この呪いの解除の仕方は無い。
「……アッシュ様は衝動的に死ぬかと思っていました」
「ロゼのいない世界に用はないんだけどね。……以前記憶を無理やりリセットされかけたときに《観測者》としての権限も剥奪されたんだ。だから俺はもう二度と繰り返せない」
「えっ……」
ルーナは驚いた顔で俺を見つめた。
そして、まっすぐな瞳で俺を見つめ――
「では、何でこの世界は続いているんですか?」
と聞いてきた。
◆
移動魔法を使い、ロゼの部屋に戻る。
彼女の遺体はベッドに寝かせた。
氷魔法を使って、彼女の身体が少しでも長く維持できるようにした。
「《観測者》……これまで主人公はローゼリア様とアッシュ様でした。アッシュ様が権限を失い、ローゼリア様が亡くなった。じゃあ、この世界は終わっているはずなんですよ」
「……それはゲームの設定?」
「そうです。本来なら私が《観測者》のはずでした。けれど私のステータスにそのような表記はありません。なので、私は観測者ではない……んだと思います。代わりに貴方達が《観測者》だった」
「……手っ取り早く言うと?」
「私やローゼリア様をこの世界に転生させた神様がいるのではないかという私の推論です。本当にいればいいなというレベルですが……」
ルーナは希望的観測を告げる。
「それがいたら……ローゼリアを生き返らせれる?」
「……わかりません。ただ、心当たりはあります」
「それは?」
「……吟遊詩人ルート。あれはギリシャ神話を元に作られているんですよ」
ルーナが推論を語りだす。
ただ、そのお話はこの世界に存在していないし、ロゼから説明を受けたことはない。ロゼは吟遊詩人ルートは特に黒歴史と言っていたから。
「ギリシャ神話とやらがこの世界にはないから、手っ取り早く教えてほしいな」
「簡単に言うと、冥府下り。死者の国に行って、愛する人を助けるお話です。難易度激高なんですけれどね。ただ希望はあります」
「やけに自信満々に言うね」
俺は初めて彼女を尊敬した。
友人の死にも屈さず、淡々と分析をする。
本当にヒロインの中身が彼女で良かった。そうでなければ、俺はもう詰んでいた。
そしてルーナは胸に手を当てて、はっきりと宣言した。
「私は《ヒロイン》ですので!」
正直吟遊詩人ルートはネタだったんですが、あるからには活かそうと思いました。
気に入っていただけましたら、★★★★★評価お待ちしています。
またアルファポリス様等にてランキング参加もしておりますので、
広告の下にあるボタンをぽちっと押して頂けると励みになります。
コメント・感想・誤字脱字報告も随時募集しております!是非ともよろしくおねがいします!




