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弟と姉

残酷な描写というか、なんか諸々で読む時は気をつけてください。

【Side ヴィンセント】

――あぁ、誰よりも愛しい姉上。

 自分よりも40も上の男に嫁がされ、未亡人となった彼女を俺は守り切ると決めていた。


『ヴィンスは本当に賢いわね』

 姉上はいつもそう言って、俺を褒めてくれていた。

 いつか、彼女に誇れるようになりたかった。


 けれど、あいつが来てから全てが狂った。


――アッシュ。

 フルネームも知らない謎の男。その名が本名かどうかすら分からない。

 彼は俺に拷問をかけ、あろうことか姉上まで巻き込んだ。


 そして姉上は――壊れてしまった。

 姉上が壊れたのは、たった4日での出来事だった。


 アッシュは嗤って言った。

 4日間、視界を塞いだだけだと。


 それだけで人はこんなにも狂うのか。

 姉上はそれ以来、一人になることができなくなってしまった。


「ヴィンス、ヴィンス……」

 何をするにも俺が必要だった。

 俺以外の侍女が彼女に触れようとすると、彼女は悲鳴を出し泣き叫んだ。


「目を瞑るのが怖いの。真っ暗闇が怖いの。もう二度と何も見えなくなるかもという恐怖と隣合わせになるのが嫌なの。怖いの。怖いのよヴィンス。助けて。助けてくださいヴィンス。私は目を閉じたくない、いいえ、閉じたいのに、しっかり眠りたいのに、怖い……怖い怖い怖い怖い怖い……」


 姉上はいつも泣いていた。俺の胸の上で。


 ある日、姉上は街に出たいと言った。

 だから俺は馬車で姉上と共に城下町へ行った。


「いや、いや、いやだ、いやよ、もうだめ、だめ、くるしい、やめて、やめてください」

 姉上は人混みに耐えることができなかった。

 今は俺が手を取りながら、庭を出るので精一杯だ。


 笑って俺のことを褒めてくれた彼女はもういない。

 目の前にいるのは、狂ってしまった姉。

――でも、俺はそれで幸せだと思った。


 何故なら姉上が俺を求めてくれていて、俺しか頼れる人がいなくて、俺しか愛することができない。それは絶対の愛情じゃないのか?

 姉上は俺がいなければ何もできない。

 なら、いくらでもお世話をしよう。


――彼女が離れずに側にいてくれるなら。



【Side イザベラ】


――あぁ、神様、どこで私は道を外してしまったのでしょうか。

 私は貴族の子として産まれ、政略結婚で自分よりも40も上の男に嫁がされました。


 その結婚に愛などありませんでした。


 あったのは肉欲のみでした。


 夫には私以外にもたくさんの愛妾がいて、日々コロコロと寝間を共にする女性を変えるのです。たまに私も呼ばれますが、彼は私のことを妻として見ておらず、ただの肉の人形のように身体を動かせと命令するのです。


 いつかロマンス小説等で見た世界なんて夢のまた夢。


 この愛のない結婚こそが私の現実で、豚のように肥えて年老いた男が私の夫なのです。

 もうそれを塗り替えることはできません。


 私は彼の上に乗るたびに祈りました。

 すると男は笑って私の身体を殴るのです。おもしろい、もっと祈れと。


 私は思い知りました。神様なんてどこにもいないのだと。


 ある日、男が死にました。妾の女と遊びながらの腹上死。妾の女は私刑にされ、私は家に戻ることになりました。


 その時、やっと希望が見えたと思ったのです。


 私の弟――ヴィンセントはそれはもう美しい男性になっておりました。

 黒い髪はカラスの濡れた羽のよう。瞳の色は今まで見たルビーよりもずっとずっと美しく育っておりました。

 あの醜い豚のような夫と同じ男性だとは思えませんでした。


 ヴィンスは誰よりも私を優先してくれました。

 彼なら私を大切にしてくれる――そう、愛しい私の弟。

 夫に穢され尽くした私の身体も、美しいと褒めてくれた。そして真っ赤なドレスを送ってくれた。


「姉上に似合うかと思って」

 ヴィンスは少し照れながら答えてくれました。

 あぁ――愛しいヴィンス。

 けれどそろそろ彼も妻を娶らなければいけなくなりました。

 家のために。家系を絶やさないために。

 私のヴィンス。誰にも渡したくないヴィンス。愛おしいヴィンス。

 私の鳥籠に閉じ込めて、一生愛でていたい。

 彼の寵愛は私だけが受けたいのです。

 他の女などには渡しません。一切触れさせたくありません。

 この世界に神様などがいなくても、ヴィンスは私にとっては天使のような子なのです。


 ある日、男が現れました。

 その男は私に目隠しをし、何も要求をせず椅子に縛り付けてきました。

 時には冷たい刃物のようなものを当てられました。


 でもそれが刃物だと認識できませんでした。もしかすると冷たい氷だったのかもしれません。大きな破裂音がしたり、かと思えば身体を柔らかいなにかでなぞられたりして、私は次に何をされるのか予想ができず、震えて怯えていました。


 私が一体何をしたというのでしょうか。


 男は言いました。『貴方に用はない』と。では何故私はこんなところで拘束されているのでしょうか。視界を塞がれ、ここがどこなのか、何もわからないのです。


 その時、ヴィンスのことを思い出しました。

 あぁ、あぁ……どうか、ヴィンセントに何も起こっていないように。私の愛しい弟が酷い目に合わないように。私はまた祈ることしかできませんでした。


 ヴィンセントのことを考え、祈る時間は地獄のように長かったです。


――いつになったらここから解放されるのでしょうか。


――そもそも解放されるのでしょうか。


――どうやったら解放されるのでしょうか。


――ヴィンセントは無事なのでしょうか。


 無限に思える時間を祈りで埋めました。

 ある時、たぶん、おそらく私を拘束した男が、私を外に連れ出しました。視界は塞がれたままだったのでハッキリとはわからなかったのですが、きっと馬車に乗せられたんだと思います。

 久しぶりに木々や草の青い匂いを吸いました。

 そしてたどり着いた先、そこは知ってる香りのする場所でした。


 ずっとずっとずっとずっと、待ち焦がれていたヴィンスの声が聞こえました。

「お、お前……な、なんで……」

――あぁ、やはり私は利用されていたのでしょう。ヴィンセントとのなにかの要求のために。いつもそうです。家のために政略結婚をさせられ、夫が死んでも、私はなにかに利用され続けてしまうのです。

 やはりこの世界に神様などいないのです。

「……ヴィ……ヴィンス、なの? その声は、ヴィンスなの? あぁ、ヴィンス……ヴィンス」

 愚かな私を赦してほしいと思うのは身勝手でしょうか。

 私の屑のような命のために、ヴィンセントの輝かしい未来を消してほしくないと願う自分と同時に、ヴィンセントに助けてもらって心から愛されたいという思いが重なり合っているのです。

 ヴィンセントはなにかの契約をさせられ、私は解放されました。

 その時に胸の奥になにか温かいものを感じたのですが、それは一瞬で消え去りました。


 けれどそこから私の地獄は深くなっていきました。

 まぶたを閉じるのが恐ろしくてたまりませんでした。

 また視界を塞がれたら、私はきっと狂ってしまうでしょう。

 眠るのが怖くてたまりませんでした。気づいたら拘束されて、ヴィンセントの足をまた引っ張ってしまうのではないかと、震えて過ごしました。


 本当は修道院にでもいけばよかったのでしょう。けれど私はヴィンセントといることを選びました。ヴィンセントも私の世話をよく焼いてくれました。


 愛しいヴィンセント。実の姉弟だとしても、母の血が違っていようとも、私達は家族なのです。あぁ、ヴィンセント。ずっとずっと愛しています。けれどもこの想いは閉じ込めないといけません。姉弟は結ばれてはいけないのです。


 ある日、街に出てみたいと思い、ヴィンセントを誘いました。

 ヴィンセントは嬉しそうに答えてくれて、その日のためにドレスを見繕ってくれました。

そして馬車にのって、外の世界に出た時、私はあるものを見ました。


 あの男でした。

 ヴィンセントを傷つけた、私を利用した男でした。

 忘れもしません。脳裏に焼き付いているあの男の顔は。

 あの黄金色の瞳は、間違いなくあの男でした。


 そして男の横には、小さな女の子がいました。

 金色の髪の少女。瞳はどんなサファイヤよりも美しいくらい輝いていました。

 その姿を見た瞬間、私は自分の穢れた身体をかきむしりたくなるほどの衝動に襲われました。

 あの男が許せなくてたまりません。あの男が愛しそうに見つめるあの女の子が憎くてたまりません。私はこんな思いをしているのに、何故あの子は輝いて、私は穢いのか。


 その瞬間、頭痛が走り、私は街から家へ戻ることになりました。

 ヴィンセントは今日も私の世話を焼いてくれます。ご飯を食べさせてくれ、お風呂にいれてくれ、香油で髪を梳いてくれます。

 あぁ、あの夫と居た頃と比べて、なんて私は今幸せな生活をしているのでしょう。


――けれど、もう戻れないのです。

 もう、あの少女のように輝かしい笑顔を浮かべることもないでしょう。

 怒ったり、笑ったり、泣いたり、そんな感情、元々私は持ち合わせていたのでしょうか。


 あの男は――私のヴィンセントを傷つけた男は、ヴィンセントと共にいれる幸福と、彼女を憎む悪夢を与えてくれました。


 だから、だから、だから。

 全部あの女の子が悪いのです。

 憎たらしい。私だって、夫に穢されなければ、あんな笑顔を浮かべられていたかもしれない。


 私は復讐を誓い、思いを全て日記に記しました。

 赤いインクで、憎しみを吐いて、吐いて、書いて、書いて――


 そうして、ふとしたとき勇気が湧いたのです。

 彼女を殺そうと。


 もう私は戻れないのですから。何をしたって穢れはとれません。

 名目としては『あの男への復讐』

 本当の真意は『あの子への嫉妬』


 さぁ、かわいいかわいい金色のお嬢様。

 私と一緒に心中してください。

 

歪みきった姉と弟のお話でした。イザベラは考え方がもう負に向かっていて、絶対に救われない人です。ヴィンセントもそんな姉の世話を焼き、幸せだったでしょう。

何度も言います。

ラブコメどこいった。


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