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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第八章 愛の鎖】
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世界の強制力(5)SideL※

残酷描写があります。

 私だけが使える魔法を詠唱した瞬間、ヴィンセントは手を離してくれた。

 ようやく身体を動かせるようになった。


「……そういう魔法が使えるんだ。さすがヒロイン様」

 アッシュが嘲笑う。


「『創造主(かみさま)』の権限ほど強いものではないですけどね……その本、渡していただきます」

「いいよ、どうぞ」


 本当はもう一度ヒロイン権限を使って、アッシュから本を奪おうと思っていた。

 けれど、思ったよりあっさりアッシュは本を渡してくれた。


 本を開く。


 そこには赤いインクで、歪んだ文字で様々なことが書かれていた。


『許さない』『殺してやる』『苦しめ』『死んでしまえ』『許さない許さない許さない』

 どのページを捲っても憎悪の感情でうめられていた。


「……これは誰のものですか?」

「イザベラのものだね」とアッシュが答えた。


「イザベラは死んでいるはずじゃ……」

 私が口にした瞬間、ヴィンセントがこちらを睨みつけてきた。


「姉上は死んでいない! だが、心を壊されてしまったんだ! この男によって!」

 ヴィンセントの憎悪はアッシュに向けられていた。


 今から口にする言葉は慎重にいかないといけない。

 アッシュもブチギレているし、ヴィンセントは混乱し、憎悪の目でアッシュを睨みつけている。


――考えろ。考えろ。考えろ……。


 ヴィンセントルートを潰したアッシュ。

 そして詠唱もなしに弾き飛ばされたヴィンセント。

 この二人の間には何らかの契約が結ばれているのではないか?


 エドワードルートでエドワードが怪盗を辞めた理由は、義賊をする必要がなくなったから。ちなみにこっそりヒューゴルートも確認したけれど、ヒューゴはアンドロイドの実験をする資金を調達できず、苦悩していた。

 それは何故?


――()()()()()()()()()()()


「傷つくなぁ。本当は死ぬ病を抱えてた彼女を治してあげたのに」

 アッシュは空っぽな笑みを崩さない。


「そんなの……貴様の適当なデマだろうッ! 姉上の身体はずっと健康だった。精神はお前に壊されたが!」


 なるほど。

 推論を一つ。

 アッシュはイザベラを利用した。

 どんな方法かわからないけれど、イザベラを囮にされたヴィンセントは、彼女を解放して貰う代わりにゲームで出てきた服従の呪いを受けた。


 そしてアッシュはイザベラの病気を治した。

 けれど発病前だったから、数年後に命を落とすなんてヴィンセントは知りもしない。

 そして、イザベラは利用された時に精神を壊し、ヴィンセントは一方的にアッシュを恨んでいる。

 けれど呪いには逆らえず、アッシュの傀儡になっている。


――つまり裏社会の真の支配者はアッシュということ……?

 目の前にいる男なら、それくらい簡単にやってのけそうだ。


 ぞっとする。

 ローゼリア様、こいつは一番付き合っちゃいけない男です。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「イザベラの場所は――」


 アッシュが転移の魔法を唱えようとする。

 私も転移魔法は使えるけれど、アッシュほど広範囲に飛ぶことはできない。

 だからまた彼の腕にしがみついた。


「《転移》」


 そして――私とアッシュは塔にたどり着いた。

 ヴィンセントルートでいつも使われる塔。海際にある場所。

 きっとここにローゼリア様はいる。


「ついてこないでくれるかな?」

「嫌です。最悪ヒロイン権限を使ってでもついていきます」


「……そのヒロイン権限ってなんなわけ?」

「いわゆるラッキー効果です。『()()意図した相手に出会えたり』『()()()()()』させたりする力です。さっきのヴィンセントのときは『怒りの感情を抑えてもらいました』」


「……異常スキルだね」

「チート魔王に言われたくありません」


 塔の中は異様に静かだった。

 誰の声も聞こえない。波の音だけが聞こえる。


 私とアッシュは塔の階段をのぼる。


――何でこんなに静かなの?

 気味が悪い。

 嫌な予感しかしない。


 どうかこの予感が外れてほしい。

 いつものように、彼女には笑顔でいてほしい。


 塔の最上階――そこの扉を開ける。

 ドアの向こうでは漆黒の髪の女性が倒れていた。

 顔立ちがヴィンセントによく似ている。この人がイザベラ……?

 肌が青白い。脈を確認する。

――死んでいる。


「ロゼっ!」


 その時、悲鳴のようなアッシュの声が聞こえた。


 私は檻の中に視線を向ける。


 ()()()()()()()()()――


『小鼠が、キューキューうるさいこと。そもそも代表に選ばれるほどの魔力がないってことは、努力が足りていないんじゃなくて?』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――


『――は、恥ずかしいの! 今更、なんて言えば……!』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『る、ルーナ? ねぇ、教えて? 好きな人いるんでしょ?』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「《解除(オープン)》」


 アッシュが檻の鍵を外す。


 そして彼女を抱きとめる。

 ()()()()()()()()()()()()――


 信じたくない。

 こんなのが運命だなんて。


 ローゼリア様の命の炎は消えてしまっていた。


ラブコメって言ったの誰だよ……


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