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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第七章 愛なんて陳腐な言葉で語れないほどの想いを君に】
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遠ざかる貴方の背中 SideR

 アッシュに逆惚れ薬を盛って以来、彼との距離はあいてしまった。

 あれほど飽きるくらい好きや愛しているを連呼していた彼が、なにも言わなくなった。

 そして、ご飯にも付き合ってくれなくなった。


「アッシュ、一緒に晩御飯を――」

「何で? ルーナと食べなよ」


 逆惚れ薬の効果がとても強かった。

 ここまで拒まれるとは思わなかった。

 そして私はここまで、私は彼から向けられていた愛情に救われていたのだと感じた。


 逆惚れ薬の効果は一週間。


 一日目で、私は既に心が折れてしまいそうだった。


「どうしたんですか? 一緒に晩御飯を食べたいなんて……」

 ルーナを部屋に招いて、一緒に晩御飯を食べることにした。

「……というかアレいないんですね。一体何処に……」

「彼に……薬を盛ったの」

「……はい?」

 ルーナは目を丸くして驚いている。


「逆惚れ薬。私のことを嫌いになる薬」

「はぁあああ? 貴方はまたそうやって力技で彼の想いを否定するのですね」

「だって、だって、どうすればわからなくて。私が好きって言ったら、私も愛しているって言ったら、自分がどうなるかわかんなくって、心の整理をしたくて……」


「まぁ、めちゃくちゃ好き好き迫っていましたからね。怒涛の勢いでしたし。ちなみにその逆惚れ薬はどうやって入手したんですか?」


「自分で作ったわ。『アッシュの想いを抑える薬が欲しい~』って願ったら、できたの」

「《創造主》権限すごいですね、さすがチート。そして、どうですか? 薬の効果は」

「すごく強くて、晩ごはんも一緒に食べてくれなかった……」

「嫌いな相手とご飯は食べたくないですよね」

「……うぅっ」


「ローゼリア様、自分で自分の首を締めている自覚はお有りで?」

「うん。やりすぎたと思ってる……」


「薬の効果はどのくらいですか?」

「一週間よ……でも、もしかするとそのまま嫌いな思いが消えないかもしれない」

「……それで良いんですか?」


「嫌、だけど、だけどぉ……」

 ルーナの言っていることは正論だ。

 私は選択を誤り、またアッシュの尊厳を無視して、薬を飲ませて心を改変しようとした。

 でもどうしても時間が欲しかったのだ。


「はぁ。わかりました。ご飯は私が付き合います。せっかくですし、一緒に和食祭りでもしましょうか」

 ルーナはそう言って、優しく微笑んでくれた。


「和食祭り……!? う、うん! やりたいわ!」

 この世界に来てから洋食ばかり食べてきたから、そろそろ和食が食べたいと思っていた。


「海鮮丼とか、肉じゃがとか、お味噌汁とかずっと食べたいと思っていたし……」

「では、決まりですね!」

 こうして、私とルーナの和食祭りは決行されることになった。


――けれど、その日の夜。アッシュは毎日しに来てくれる「おやすみ」の挨拶もしてくれなかった。

 そう仕向けたのは私。なのに胸が苦しくなる。


 それから三日が過ぎた。

 アッシュは私と目も合わせない。

 私達は主従関係であったけれど、同時に義兄と義妹の対等の関係でもあるから、アッシュが今まで私の世話を焼いてくれていたのは、全部アッシュの配慮だった。


――その日、ルーナとアッシュが二人で話している光景をみた。

 心がざわついた。


――四日目。

 アッシュが他の女の子と話しているのを見た。

 なにやら言い寄られているようだった。

 アッシュは笑顔を浮かべていた。

 今まで、私にしか向けてくれなかった笑顔を――知らない女の子に向けていた。


 どうしよう。

 心に太い針が差し込まれたような気分だ。

 胸が苦しい。痛い。


 もし――薬の効果が切れた後も、私のことを嫌いになられていたらどうしよう。

 自分で招いた種なのに。

 なんて私は愚かなことをしたんだろう。


 毎夜、アッシュの夢を見る。

 いつも笑って、私の言うことを聞いてくれた。


『お嬢』

 彼の声が耳に残っている。

 また、呼ばれたい。


 今まで私は一方的に彼から愛を注がれてきた。

 失ってからわかる。彼の想いの深さと、それに応えられなかった私の愚かさに。


 やっぱり、私は彼が好きだ。

 アッシュのことが好きだ。大好きだ。

 これが愛じゃないなら、他に何を愛と呼ぶのだろうか。


 『俺は貴方を慕っています。ずっと、ずっと。何度繰り返しても、貴方だけを想ってきました……想って、きたんだよ。ロゼ……』


 アッシュの言葉が胸に染み込む。

 私も同じだ。何度繰り返してもアッシュのことを想ってきた。

 ヴィンセントルートで壊れた時、誰よりも愛おしいアッシュに汚れた姿を見られるのが嫌だった。


 明日でちょうど一週間になる。

 逆惚れ薬の効果は切れる。


 そうしたら、またあの関係に戻れるのかしら。

 いや、戻っちゃ駄目だ。


 今まで何百回も繰り返してきた、この恋を――

 ずっと彼に抱えてもらった想いへ感謝を――


 一歩、踏み出して伝えないと。



 翌朝、私はアッシュの部屋に手紙を挟んだ。

『お昼時、いつもの庭園で待ってます』

 と一筆書いて。


 そしてお昼時にアッシュはいつもご飯を食べている庭園に現れた。

「なんですか?」

 彼の瞳は冷たかった。

 あれ……薬はもう切れているはずなのに。


「えっと、あの……薬を盛ってごめんなさい。あれは本当に私が悪かったわ」

「……そうっすね。でもそのおかげで、お嬢の意思がわかりました」

 アッシュの声はずっと冷たい。

 こんな冷たい声で話されたことなんて、今まで一度もなかった。


「流石に嫌いになる薬を飲まされるほど拒まれたら、俺だって傷つきます。俺もただの人間ですからね。――もう主従ごっこは終わりにしましょう。ローゼリア様」


「ごっこ……」


「俺はもう貴方に縛られずに生きていきます。貴方に自由に動く権限をもらいましたし。俺はもう貴方を諦めます。……きっとしばらく引きずると思いますが、どうせそのうち消えるでしょう」

 アッシュの黄金色の瞳が細くなる。

 これは本当に怒っている時の顔だ。


「貴方は王子と結婚をし、俺は別の女性を見つけて結婚する。それでお互い別の幸せを見つけましょう」


 淡々と告げられる言葉。私はボロボロと涙をこぼして、何も言えなかった。

 自業自得だ。

 彼の思いを拒み続け、薬まで盛ってしまった。


「では、次に会う時は、普通の家族として会いましょう。……さようなら。ローゼリア様」

「い……ぁ……」


 好きというつもりだった。

 でも、ここまで拒絶されて、好きなんて言えなかった。


 好き。好き。アッシュが好き。


 アッシュはそう言って去ってしまった。

 私は彼の後姿に、小さな声で「……すき」と言った。


 その言葉は、もう彼には届かなかった。


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