子猫と狼の追いかけっこ SideA
ヒロインちゃんの行動は、だいたいわかる。
だから俺は彼女との取引に同意した。
ロゼはすっかり忘れてしまっているようだけど――
『ローゼリア・マリィ・クラインはフィリックス殿下の婚約者である』
まずはこのでかいハードルをどうにかしないといけない。
正直、国なんてどうでもいいから、ロゼを掻っ攫ってしまいたい。
でもロゼは家族を愛しているし、そういうことを許してくれないだろう。
フィリックス――正直彼の行動はよくわからない。
この世界のフィリックスは、ローゼリアにいきなり求婚した。
フィリックスは毎回行動を変えてくる。
まぁ、簡単に言えば。あの王子も超ど天然なのだ。
気分屋なところがあり、面白いことには何処までも興味を示す。
逆に不快と思えば、何処までも追いかけて排除する。
そういう人格者。
王の器にはピッタリだ。
その王のお気に入りであるローゼリア。
ここを解決するためにルーナは動いているのだろう。
正直俺もこの問題はめんどくさいと思っていたから有り難い。
さて、ヒロインちゃんはどう動くのか。
フィリックスを色気で誑かすのか。そうしたらフィリックスルートに入り、ローゼリアは断罪されてしまう。
あのヒロインちゃんの様子は――王子ルートを目指しているような感じじゃなかった。
まるでハードルを飛び越えるように、軽々越えてくれるんだろうか。
――さぁ、ヒロイン力。試させてもらおうか。
◆
と、思いながら待った三日後は果てしなく長く感じた。
ロゼは好きと迫って以来、猫の様にシャーシャー言って俺から逃げる。
でもたまに「アッシュの紅茶が飲みたいわ……」と顔を赤く染めながら近寄ってきて、素直になる。
……これもういいんじゃないか。両思いって思ってもいいんじゃないか?
だめか。だめなのか。
――ありがとう。アッシュ。……私は、貴方が好きよ。
彼女が創造主の力を行使して、俺の想いを否定しようとした時、初めてロゼから聞いた「好き」という言葉。
あれは敬愛の意味での好きだろう。
また、今までもお菓子を作った時などに「大好き大好き」と言われたこともあるけれど、それはお菓子を作ってくれる俺が大好きであって、愛しているの大好きではない。
ロゼに求める答えはイエスのみ。
ノーなんて答えたら、その場で口を塞いでやる。
ヒロインちゃんが動き回った三日間。
その後も返事はなかったので、三日目の朝からお嬢を追い回した。
「好きですよ、お嬢」
「やだ、もうやだぁあ!」
ロゼは廊下を全力疾走で逃げる。
俺も全力疾走で追いかける。
「《浮け》」
ロゼが風魔法を使って外に逃げようとする。
「《木々よ》」
俺は土魔法を応用させ、木の枝を操り、彼女の足を絡め取る。
「あーーーーんっ!」
ロゼは片足だけ木の枝に捕まり、逆さまにぶら下がってしまった。
服まで逆さになり、下着まで丸見えになってしまう。
「今日のパンツは、ピンクですね」
「ぶっころす!」
「お嬢、令嬢がそんな言葉を使ってはいけません」
「使わせてるのは誰よ!」
といいつつ、他のやつらに見られないように土魔法を解いて、お嬢をお姫様抱っこする。
「――っと、捕まえました」
俺がそう言うと、ロゼは顔を更に真っ赤に染め上げて、うつむいた。
「降りますか?」
「…………」
おや、ロゼの反応がいつもと違う。
いつもなら『早く降ろしなさーい!』と激怒するのに、今日は大人しい。
やっぱり言葉で伝えまくる作戦は成功か。
鈍感なロゼに想いを伝えるには、正攻法。今まで回り回っていたけれども、やっとたどり着けた。
と――油断した瞬間だった。
「えいっ!」
とロゼが俺の口の中に何かを突っ込んできた。
なにかわからないほど小粒のもの。口内ですぐ溶けたから、薬かラムネか。
「降ろしなさーい!」
ロゼが真っ赤な顔のまま言う。
俺は素直に彼女を降ろした。
「……なに飲ませたんっすか」
「ふ、ふーん。貴方がしつこいから、魔法薬を使ってやったのよ」
「ほぅ」
どうやらロゼお嬢様はもっといじめられたいらしい。
「なに盛ったんっすか?」
「おほほほ! 貴方が最近やたらと連呼している『好き』とか『愛している』の言葉を言わせない薬よ。逆惚れ薬ってところかしら」
「――ってことは、つまり……俺がお嬢のことを」
「そう。私のことをき、きらいになる薬なんだからっ!」
ほう。
なるほどなるほど。
そこまで拒絶するか。俺の愛を。
なら、徹底的に付き合ってやろう。
「今から貴方は意識を失うわ。そして、目が覚めたら私のことを……き、嫌いな従者になってるはずよ。効果は……長くない……だから……だから……」
薬が効いてきたのか、お嬢の声が遠くなる。
「……もうちょっと、勇気を出す時間をちょうだい……」
弱々しい声で、お嬢は言った。
気に入っていただけましたら、★★★★★評価お待ちしています。
またアルファポリス様等にてランキング参加もしておりますので
広告の下にあるボタンをぽちっと押して頂けると励みになります。
コメント・感想・誤字脱字報告も随時募集しております!是非ともよろしくおねがいします!




