愛している証明(5)SideR
「男性は出ていってください!」
そう言って、ルーナは私とアッシュを引き剥がし、アッシュを無理やり外にひっぱりだした。もちろん魔法を使って。
「《施錠》」
「大丈夫ですか? ローゼリア様! あぁ、怖かったでしょう! アッシュ……この前から怪しいやつだと思っていましたが、まさかこんな強行手段に出るなんてっ!」
ルーナは私をぎゅーっと強く抱きしめてくれた。
「まったく。あいつがローゼリア様のことを好きなことには気づいてましたが、こんなに早く手を出すなんて……」
ルーナは怒っていた。
「き、気づいていたの!?」
「えっ……逆に気づいていないとお想いでしたか? あの男はどう見ても、ローゼリア様のことを好きですよ」
「LIKEな意味でよね?」
「もちろんLOVEの意味ですよ」
私はくらっとした。
まだ出会ったばかりのルーナに悟られるほど、アッシュの思いはむき出しだったのか。
そして、私はそれにギリギリまで気づかなかった。
でもーー
「でも、アッシュの感情は私が設定したものなの! 繰り返す世界を一緒にいようって、それできっと共依存関係になってたから――」
「……なにかしたんですか?」
「彼の想いを《創造主》の権限でリセットしたわ」
「……あー。なるほど。はいはい。ある程度わかりました。うん。なんといえば良いんでしょうねぇ」
ルーナは両腕を組んで、うーんと唸る。
「ローゼリア様は、アッシュの何を受け入れられないんですか? 『顔』ですか?『性格』ですか? まぁ性格はめちゃんこ悪いと想いますけど、あの男は」
「そもそも……アッシュは私が創った人だから……。私が都合よく操ってるだけかもしれないじゃない? 私を好きになってほしいって想いが、《創造主》権威のまやかしになって、彼から正気を奪っているのかもしれないし……」
「ヤツは元々正気じゃないですけどね……睡眠薬の件は一生忘れません」
「え? 睡眠薬?」
「あ、こちらのお話です。えぇっと、話を戻しましょうか」
ルーナがソファーの横に座った。
一応対面のソファーもあるんだけど、ルーナは私の横から離れず、ずっと私の腕を掴んでいた。
「ローゼリア様、薔薇子様のほうがいいですかね、薔薇子様は――」
「薔薇子はもうやめてぇ……」
顔から火が出てしまいそうなほど恥ずかしかった。
「ではローゼリア様で。ローゼリア様は、私のことをどう思ってますか?」
「えっと、ヒロインで、綺麗で、思っていたよりも気が強くて、思っていたよりも勇気のある方だわ」
「ありがとうございます。では、ローゼリア様。貴方にとって私は意思を持って動いている『人』に見えますか?」
「見えるわ」
「それは何故ですか?」
「だって、同じ世界から来た人だから……。私の創った物語も知ってくれているし」
「うん。そうですね。じゃあ、アッシュは意思を持って動いている『人』に見えますか?」
「…………」
正直言うと、わからなかった。
「黙るということは、完璧に違うと思っているわけじゃないんですね」
「えぇ。ところどころ変な行動をしたり、私の想定外の動きをしてくれたりするわ」
「では、アッシュ以外の人は、みんな意思を持って動いていると思いますか?」
「思いたい……けど、わからないわ。ルーナはどう思う?」
「私は意思をもって動いていると思ってます」
「どうしてそう思えるの?」
「だって、新しい世界ですよ。そんな理屈こねこねしないで、幸せなセカンドライフを目指したいじゃないですか!」
ルーナはキラキラとした目で語った。
私もそう思いたかった。
でも、どうしても私が《創った》という認識がちらつく。
「……ほーん。ふむふむ。はいはいなるほど」
ルーナは渋い顔をした。
「(確かにここまで鈍感だったら、苦労するわ、アッシュ……ぷぷぷざまぁみなさい)」
「えっ? ルーナ、何か言った?」
「いいえ、ちょっと思ったことを口に出しただけですよ。おほほ」
「では、もう一つ、ローゼリア様に尋ねます。貴方が創ったテディベアーーキッドは、自分の意思を持って動いてると思いますか?」
「ええ。彼――キッドには好きに動いてくれるように直接魂を与えたから……」
「……魂。ふーむ。ヒューゴ先輩辺りが話にのってくれそうですね。まぁ、あとで聞いてみましょう。では、なんでキッドには魂と意思があって、アッシュには魂や意思を持っていないと思うんですか?」
「そ、それは……」
キッドは私のことを慰めてくれたり、話を聞いてくれたり、怒ってくれたり、いろんな感情を持ち合わせている。
なら、なんでアッシュはそうじゃないと思うのか。
それはーー
「貴方が、そう、思いたいからですよ! ローゼリア様!」
探偵漫画のように、ルーナからずびっと指を立てられた。
「私の乙女ゲーきゃっきゃうふふライフが始まると思ったら、それ以前に、こんな問題があったなんて。まぁ、私はNLが好きなので、いくらでも応援しますけども……」
「で、でも……でもね、アッシュは私としかループについて話す相手がいなかったから、私とアッシュは共依存にならざるを得なかったというか」
「あれですか? 学校っていう閉鎖空間で、なんとなく周りが囃し立てて、カップルになってしまう、あの現象のような?」
「ちょっと違うわ。似ているけど」
「はぁああぁあああぁああああああ~~~~~~~~~~~~~」
ルーナのどでかいため息が響き渡る。
え。私、そこまで変なこと言った?
「それで、リセットしたと。はぁ。そりゃ彼も怒りますわ。……ちょっと納得です。私のローゼリア様に手を出そうとしたことは許しませんけど」
「うぁ……えっと、えと……」
なんだかすごく呆れられている。
「ずばり、聞きます。前世での恋愛経験はありますか?」
「な、ないわ」
「誰かを好きになったことは?」
「クラスで一番足の早い男の子に憧れたことくらいは……それ以上の好きはないわ」
「つまり恋愛経験はゼロと」
「るる、ルーナはどうなのよ!」
「私も経験豊富というほどではありません。ゲーム大好きなオタクっ子でしたから。付き合ったのも中学生時代に周りに囃し立てられて2週間だけくっついた人がいたのと、社会人になって半年ほど付き合った人がいるくらいで。でも薔薇子様の創ったゲームのときめきには敵いませんでしたけど、はぁ……」
「ば、薔薇子様はやめて!」
「こりゃ、アッシュがこじらせるのもわかります。アッシュは好きな人から、『貴方の思っている感情はまやかしで、その想いは間違い』だと力ずくで否定されたんですから。そりゃ怒りますよ」
「……ど、どうしたらいいの? こういう場合」
私が戸惑っていると、ルーナはそっと私の手を握りしめてくれた。
「本当のことを聞かせてください。ここには私と貴方しかいません」
真剣な眼差し。夕日色の瞳が私の姿を映し出している。
「貴方は、アッシュのことが好きですか?」
「ーー好きよ。大好き。彼を思うと胸が痛くなるの。焼けそうになるの。彼がもし今後、他の女の人をみると思うと、たぶん嫌な気持ちになると思う。LIKEの好きじゃなくて、LOVEの好き……だと思う」
「すごい。ローゼリア様。私、金平糖を一瓶一気食いしたときのような気分になります」
「どういう……」
「口から砂糖を吐きそうな気分です」
「そ、そんな、えっと、そんなに?」
長く、さらっとした銀の髪をかきあげて、ルーナは言った。
「貴方は自分で創ったキャラであるアッシュに恋をした。
それも本気の恋を。で、相手も同じ様に思ってくれているのに、
それがまやかしであると告白自体を否定したんです」
「でも、アッシュはゲームの――」
「それは言い訳です! いいですか? ローゼリア様、あんまり素直にならないのでしたら、私がアッシュをとっちゃいますよ?」
「……――っ」
アッシュの横を並ぶルーナを想像する。
嫌だ。
アッシュとキスしているルーナを想像する。
やだ。
アッシュと想い、見つめ合う二人を想像する。
ぐっと、涙がこぼれそうになった。
嫌だ。
今までのように、私だけを見てほしい。
アッシュには、ずっとずっと私を見てほしい。
こんなワガママで拗らせた女だけど、それを全部受け止めると言ってくれるアッシュを、幸せにしてあげたい。
だけど――
「で、でも、でもでもでも!」
「なんですか? ローゼリア様」
ふふん、と鼻で笑うルーナ。
「――は、恥ずかしいの! 今更、なんて言えば……!」
「うふ、あは、あはははははっ! やっと気づいてくれたんですね。アッシュなんて、拗れて拗れて仕方なかったでしょう」
大きな声でルーナは笑った。お腹を抱えるくらい。
そしてまた『ずびしっ』と指を立てて、言い放った。
「ローゼリア様、貴方は普通の女の子です。アッシュも普通の……うん、まぁ、普通の男です。だから、同等に恋をする権利はあるんです。でもローゼリア様はそれを怖がっている。今までの関係を壊したくないから」
「うぐっ」
図星を突かれた。
「私はルーナとしてではない、自分の意思を持っています。私個人の主観では、ローゼリア様は超超超超超鈍感ド天然のお嬢様で、そして――超超超超超超拗れたツンデレちゃんです!!」
ルーナは自分の胸に手を当てて、はっきりと言葉にした。
小難しいことを言ってローゼリアは愛の証拠やら証明やらと誤魔化していましたが、
ただただ、好きってだけのことです。
ルーナが話を引っ張ってくれて嬉しいです!
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