愛している証明(4)SideR
――おかしい。
アッシュの想いは《創造主》の権限で消したはず。
「ローゼリアお嬢様のことが本気で好きなんですが、どうすればいいでしょうか?」
なのに何故、こうなってしまっているのだろう。
私はティーカップを落としてしまった。
ガチャン、と割れた音が響く。私の服にも紅茶が飛び散った。でもそんなの気にならないくらい、アッシュの言葉が脳裏を占領していた。
どうすればいいでしょうか?
そんなの錯覚だから、いっぱい食べて、一回寝たら治るわよ。
――と言いたかったけど、アッシュのいたずらっ子のような瞳を見ると、なんにも言えなくなる。
「あーあ、いきなりカップを落とすなんて。お嬢、ちょっと動かないでくださいね。あと好きです」
――あと好きですって何!?
アッシュは丁寧に私の服からシミを取り、ガラスの破片を集め、ウエスで拭き上げる。さすが従者。慣れた仕草で全てをピカピカに戻してしまった。
「お嬢、質問に答えていただけませんか?」
――質問? あぁ、どうすればいいのでしょうか? って質問のことかしら。
そんなもの、私のほうが知りたいわ!
どうすればいいの!?
私はアッシュが好きだ。
ずっと一緒に居てくれて、ずっと支えてくれた彼が大好きだ。
それをさっき実感したばかりで。
でもその想いは消したはずなのに――どうして!?
「き、きっと、錯覚よ!」
私の声は震えていた。
本当は私も好きよ、と言いたかった。
でもアッシュがローゼリアではなく『私』を愛しているという証拠は? 証明は?
私はただのOLで、ただのコミュ障で、ただの陰キャな女だ。
ローゼリアというキラキラな女の子の容姿を与えられても、中身はやっぱり変わらない。
「そんなはずないです、俺は世界中の何よりも、お嬢のことが好きです」
「……~~~~っ!」
「どう言ったら信じてくれます? キスをしたら、信じてくれますか? 愛してますから」
アッシュが私の肩を掴んで、顔を近づけてきた。
――あ、まつげすごく長い。瞳も金色でとても綺麗。
って、いやいやいやいや! そんな場合じゃなく。
「~~~~っ! だ、だめ!」
私は両手のひらを使って、彼を押し出した。
「お嬢は俺のことが嫌いですか? 俺は好きです」
「う、ううううう~~~~」
嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
でも、口に出したら今まで抱えていた想いが全部崩壊してしまう。好きと言って、抱きついてしまえたらどれだけいいか。いや、そんな恥ずかしいことできない。
だって、彼の言う『好き』も、冗談の一つかもしれない。今までのような、冗談の一つ。それにしては言い過ぎだけども。
「……ほんき、なの?」
「ええ。本気の本気です。貴方の頭の先から、つま先まで、そしてその魂の奥底まで、全部全部愛しています」
くらっとした。
そんなに愛してくれている……の? 本当に?
私もよ、と言ったら『嘘でした』なんて言わない? いや、言わないな。アッシュはそんなたちの悪い冗談は言わない人だ。
じゃあなんだ。
本当に彼は私を愛しているの?
あ、たぶん違うわ!
きっと、想いを消す時にエラーが出てしまったのよ。
きっと彼の想いはバグで――
「俺の気持ちが、欠陥だとお想いですか? 大好きですよ、お嬢」
「ぁっ……えっ、あぁあ……」
想いを見越されてしまっている!
「貴方が、俺の気持ちを無理やり消そうなんて強硬手段を使わなかったら、こんな強行手段は使いませんでした。あ、大好きです」
「うぁ、……うううううっ~~~! つ……付け加えるように好き好き言わないでっ!」
「本当のことですから。大大大好きですから。ローゼリア様。いや、ロゼ」
「あだ名で呼ぶことは許してないわ!」
「俺は義兄なので、貴方をあだ名で呼んでも不敬にはなりませんので。あ、好きっす」
「んもぉっ! ちょっと、ちょっと、ちょっとぉおおおお!」
頭がぼーっとする。熱い。
心がざわざわする。この気持ちの正体はなに?
「言葉だけじゃ足りないというなら、何でもしますよ。つま先にキスでもしましょうか? 好きですから」
「や、もうっ! そうじゃなくてっ!」
「じゃあ、どうやったら信じてくれますか? この俺の想いを。好きっていう気持ちを」
「……あぅううっ……あ、えっと……」
相手の気持ちを知る。頭の中を調べる。
そんなのわからない。どうすればいいかわからない。
遠い昔、ヒューゴが言っていたことを思い出す。
――愛なんて、目で見えるものじゃない。……信じるものなんだよ。
信じればいいの?
アッシュの想いが本当だと。
確かに彼の眼差しは本気だ。口元はにやけているけれど、その瞳の奥は本当に真剣で……。
「あぁ、ロゼ。俺は貴方に触れたくてたまらないです。好きなんです。ずっと、何年も、何百年もこの想いを抱えてきました。
でも貴方は気づいてくれなかった。だから、いま『言葉』に出して言います。
俺――アッシュはローゼリアのことを生涯かけて愛すると誓うと」
そ、それは……結婚の言葉では……!?
もう頭がいっぱいいっぱいで、引いたはずの知恵熱がぶり返してしまいそうだった。
そもそも愛って何?
恋って何?
正しい愛って何? 正しい恋って何?
証明を。だれか、恋の方程式を、愛の方程式を教えてほしい。
「わ、わたし……」
ゆっくり言葉を紡ぐ。アッシュの目がキラキラと輝いている。
下手なことは言えない。冗談だなんて言うのは彼の告白に対する侮辱になってしまう。
でも、でもでもでもっ!
「こ、こここ、心の準備がまだだから、ちょっと、まってほしいわっ……!」
私は頑張って声を出した。
その瞬間、アッシュに押し倒された。ソファーの上の狭い場所に。
「もう、飽きるほど待ちました。だから、待ちません。好きです。ロゼ」
「う、ううぅうううう~~! えっと、えっと、えとえとえとっ……!」
「好きです。愛しています。今すぐ貴方を手に入れたいくらい」
彼は私の顎をくいっとあげて、顔がどんどん近づいて、私は思わず目を瞑ってしまった。
「……くすくす。可愛いロゼ。それは受け入れてくれるって証拠っすね。愛してます」
目を瞑ったのは、キスを受け入れるってこと!?
いや! いやいやいや、そうじゃないの。
心では駄目と想っている。でも身体はアッシュが好きでたまらない、と拒絶することができない。
あと5センチ、3センチ、1センチーー
彼の吐息を感じられるくらい近づいたところでーー
「な、何してるんですかーーーーーー!!!!!」
いつの間にか部屋を訪ねていたルーナの絶叫が響き渡った。
開幕です。
シリアスはやりきったので、ここからはこのテンションでお送り致します!
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