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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第六章この世で一番正しいもの】
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愛している証明(1)SideR

 いつか、いつかもう忘れた遠い昔の記憶。


「ねぇ、なんでフランケンシュタイン博士は、怪物の恋人を作らなかったのかしら」


「またそんな話をするんだね。お姫は」


 学園内に鳥かごのような温室がある。

 そこには様々な花が咲き誇っている。薔薇も紫陽花も向日葵も山茶花も。季節問わずに咲き誇っている。


 その温室の隅に、ヒューゴの実験室がある。

 科学部を立ち上げたのも、『魔法』の学校に『科学』は必要ないと却下され、一人ほそぼそと人造人間の制作に没頭しているのだ。


「私は怪物視点で話を見てしまうのよ。あの物語って、フランケンシュタイン博士が怪物の恋人を創ったら、それで怪物は幸せになって、どこかの山奥でひっそり二人で過ごすと思うわ。でも博士は恐怖に負けて作らなかった」


「……君が記憶から『創り出して』くれた本だよね。ボクも読んだんだけど……ボクは博士の気持ちが少しわかるな」


「でも貴方は自分の創ったアンドロイドを作ろうとしてるじゃない?」


「……うん。でも同時に恐怖も感じているんだ」


「なんで?」


「なんでかといわれると、そうだなぁ。たとえばこのアンドロイドが完成した時は、ちょっと怖いと思う。人間と同じものをこの手で生み出すなんて、それは神の領域だからね」


「……あら。でも女性は、妊娠して十月十日で子どもを産むわ。その理論だったら女性はみんな神様よ」


「……ややこしいちゃちゃをいれるなぁ、お姫は」

 眉間に皺を寄せたヒューゴをみて、私は笑った。


「たとえば、博士は怪物が美しかったら、彼を受け入れたのかしら」


「それはそれで、怖くて受け入れられないと思うよ」

「……なんで?」


「不気味の谷っていう言葉があるんだけどね。機械を人間に寄せれば寄せるほど、不気味に思えるんだ。精巧なマネキンとかちょっと怖いと思うでしょ?」


「確かにそうね……じゃあ、女性が子どもを産むのは許されても、手で創るのは許されないのはなんでなのかしら」

「……道徳の授業だね。ボクは創りたい側だから、きっと他の人達と違う答えを出すと思う」

「どういう答え?」


「人の手で生み出された命は、今いる人よりも優秀な上位種になって、人を滅ぼす可能性があるから」


「上位種?」

「たとえば、撃たれても死なないとか」

「ゾンビみたいな」

「お嬢は本当にゾンビが好きだね」

「例えが思い浮かばなかったのよ。むむ。で、それの何が悪いの?」


「……お嬢もボク寄りの考え方をするね。猿が人に進化したように、いつか人はなにかに進化するかもしれない。でも、そうしたら旧人類はどうなる? 自分よりも上の人がいたら」


「……家畜人ヤプーみたいに、虐げられるかもしれないわね……」

「例が本当に酷いよ……」

 ため息をつくヒューゴ。


 ヒューゴには私の好きな本を一通り『創って』読んでもらっているから、大体の話の元ネタはわかってくれる。

 だからこそ議論のやりがいがある。


「結局、人から何かへと進化する間のボクたちは、それを待つしか無い。新しい人類をボクは創り出せるかもしれないし、産まれるのを待つしかないかもしれない。でも結局は愛がなければ新しい人類だって生きられないんだよ」


「……愛?」


「そう。フランケンシュタイン博士だって、物語に出る盲目の老人みたいに目が見えなかったら、怪物を愛せたかもしれない。そうしたら怪物も恋人を作ってもらって、雪山で二人ひっそり暮らせたかもしれない」


「……ヒューゴはアンドロイドを愛せる?」


「それは創り出してからじゃないとわからないね。でも、産まれてくるからには、幸せを感じて生きてほしいと、思うかもしれないし、おぞましいものを創ってしまったと恐怖するかもしれない。できるなら、前者がいいな」


 いつかの昔を思い出す。

 あの時のヒューゴはアンドロイドを創り出していた。

 そして哲学的ゾンビについて、心がある方が夢があると言っていた。


 私はこの世界を生み出した。

 言葉を編んで、創り出した。


「ねぇ、ヒューゴ。愛ってどうやったら証明できるのかしら」

「おや。お姫は愛されたことがあるだろう? 両親に抱きしめられたり、好意を向けられたりしたことがあるだろう?」


「……でも、この世界の人たちは私が創った人たちよ。

『私を愛している』なんて言われても、わからない。私が設定した感情なのかもしれない。本当の私は誰にも愛されていないかもしれない」


「……お嬢は愛されるのが怖いんだね」


「えぇ。愛って、何なのかしら。たとえ愛していると言われても、私が無意識にそうセッティングしたのかもしれない。そんな不確定なものは怖くて受け入れられないわ」


「お姫はこの世界の人を信じられないんだ」


「うん、きっと神様と人はわかりあえないわよ。永遠に」


「……うぅん」


 ヒューゴは瓶底のようなメガネを持ち上げて、私の顔をじっと見てきた。

 メガネを外したら美しい顔がはっきりと見える。


「お姫は自分で見えない壁を作っているね。愛の証明っていうのはもっと単純なものだと思うよ」


 ヒューゴは分厚い手袋をつけたまま、私の両手を握りしめた。

 そして、そのまま手をヒューゴの胸元に当てさせられた。


「愛なんて、目で見えるものじゃない。……信じるものなんだよ」




 いつか、いつかヒューゴは言っていた。

 でも私は信じられない。

 だってこの世界は私が創ったおままごと。



 そこに登場する人物が、意思を持って動いているのかなんて、わからない。


――私を愛しているなんて、信じられない。

 愛しているという証拠が目に見えないから。


※家畜人ヤプーは検索しないでください。


過去編たためなかった……。

ヒューゴは本枠の本編に出てこないのに、対話させると面白いのでちょこちょこ突っ込んでみました。

今回の議論になっている本は

『フランケンシュタイン』『家畜人ヤプー※』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』です。

真ん中以外はオススメの本なのでぜひ読んでください!


気に入っていただけましたら、★★★★★評価お待ちしています。

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コメント・感想・誤字脱字報告も随時募集しております!是非ともよろしくおねがいします!

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