あなたに恋してる証明 SideA
もう何度繰り返しただろうか。
もう何度ロゼの死を見届けただろうか。
前の記憶を使って、先回りして、ロゼの言うところのフラグを潰していった。
けれど、ロゼはかならず16歳に命を落とす。
正直狂いそうだった。
『ロゼを助けるという想い』を放棄したら楽になれるんだろうか。
――約束のおまじない。アッシュもこの小指に自分の指を絡めて。
どれくらい前のことだろうか。
もうあの約束がいつのことか思い出せない。
例えば、ロゼの最期を見届けて、別の人生を歩むという手段もある。
でも、俺はきっと後悔し続けるだろう。
そして、そんなことをした俺自身が俺を許さないだろう。
◆
その日はたくさんの星が瞬く夜だった。
12歳のローゼリアは寝間着で立ち上がって
「アッシュ、流れ星を見に行きましょ!」と言い出した。
俺とロゼは何度も繰り返すうちに、魔力も能力値もスキルも、常人のレベルを越していた。だから、二人で気配を消す隠密スキルを使って、外に出た。
「どこにいくんですか?」
「うちの裏の山よ。今なら夜光花が咲いてるし、きっと蛍もいるわ!」
夜光花は、その名の通り、夜にしか咲かない花だ。昼のうちに太陽の光を吸って、夜にぼぉっと光る。
俺はロゼに手をひかれて、そのまま山道を登らされた。
ロゼはひょいひょいとステップでも踏むように山道を登る。
…………
「ついたぁ!」
ロゼが案内してくれた場所は、木の少ないなだらかな場所だった。
一面に夜光花が咲いていて、白色や桃色、橙色、緑色、青色等、カラフルな色を放っていた。
まるで虹の上を歩いているかのような気分になった。
「ねぇ、見て。アッシュ。ほら! 星が綺麗!」
空には無数の星が光っていた。
俺とお嬢は「あの星は~座」と言いながら指して、瞬く星を見た。
――その時、一つの流れ星が落ちた。
「あっ! 流れ星! お祈りしないと!」
「お嬢、流れ星は一瞬だから、お祈りを三回も唱えられませんよ」
「そうね。だったら――」
ロゼは両腕を大きく開いて、
「《星よ》」
と魔法を唱えた。
夜空にまた一つ流れ星が走った。
「ありゃ、唱えてる前に消えちゃうわね」
「俺が唱えましょうか?」
「いいえ。大丈夫。私に任せて!」
ぽんっと、ロゼは自分の胸に拳を当てた。
「《星よ》《星よ》《星よ》《夜空いっぱいの星を流れ続けて》」
ロゼはたくさんの呪文を唱えた。
すると流星群かと思えるほど、たくさんの星が流れ落ちてくる。
「さ、アッシュもお祈りして。私もお祈りするわ」
お嬢は小さな声で、ぼそぼそとお祈りをしていた。
――俺の願いは……。
――ロゼが幸せになること。そして次にロゼと幸せになること。
星に願って叶うものなら苦労はしない。
けれど、彼女が魔法を使って流した星ならば、なんとなく叶えてくれるような気がした。
ロゼは両手を結んだまま、ずっと目を閉じていた。
……キスしてもばれないかな。と思いながら、ぐっとその気持ちを抑える。
かっとロゼの目が見開かれた。
「三回唱え終わったわ!」
「何をお願いしたんですか?」
俺はお嬢に尋ねる。するとお嬢は顔を赤くして、ぷいっと俺から顔を逸した。可愛い。
「そういうアッシュはどんなお願いをしたの?」
「そうっすねぇ、俺はこれ以上お嬢が太らないようにとお祈りしました」
「きぃいいーーー! もっと自分のためにお願いを使いなさいよ!」
お嬢はそう言って俺の胸元をぽこぽこと叩いた。
「じゃあ、お嬢は何を願ったんですか?」
「……の、……を……たわ」
めちゃくちゃ小さい声で聞き取れなかった。
「あの、もう一度お願いします」
「あ、アッシュの幸せをお願いしたの!『アッシュが心から幸せになれますように』って。
俺は呆然とした。
……まさか俺のことを祈ってくれているとは思わなかった。
お嬢にとって、俺はただの従者だ。俺や使用人のことを同一視していると思っていた。
でも、違っていた。
お嬢は『俺のため』に願いを唱えてくれた。
それがどれだけ嬉しかったか。
無限に続く地獄を渡り歩き、俺は報われるのだろうかと、なにか代償くらいもらえないだろうか、と下心が芽生えたこともある。
でも頬を赤くして、虹色の花達の上を歩く彼女を見ていると、そんなのどうでもよくなった。
俺に目標を与えてくれた人。
俺の友達になってくれた人。
そして――俺に、感情を教えてくれた人。
何度繰り返しても、この光景は忘れない。
流星群も、虹色に光る花々も。
そして、それを嬉しそうに、笑ってみている彼女を――
どくんっと、心臓がはねたような気がした。
締め付けられるように苦しく、そして甘い痛みが広がる。
――あぁ、これが恋なんだろうな。
俺は初めて、彼女への恋心に気づいた。
過去編はこの辺で畳みたいなと思ってきています…。
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