敬愛している証明(2)SideA※
今回はかなり過激な描写を含みます。閲覧注意でお願いします。
似たようなことを三度も繰り返した。
ローゼリアは悪い令嬢と囁かれて、必ず16歳で命を落とす。
俺は彼女を助けられない。
六度目のループの時。
13歳の春。桜の下で彼女に話しかけてみた。
お嬢ははしたなく庭の上で寝転んでいる。
「……お嬢。冗談だと思って聞いてくれません?」
「貴方の言うことはだいたい冗談だと思って聞いてるけど? なぁに?」
「俺、何回もこの世界を繰り返しているんですよ」
そう言うと、お嬢はがばっと起き上がった。
驚いた瞳が俺の姿を映している。
「……私もよ」
と、お嬢も衝撃的な言葉を言い放ったのだった。
◆
お互い、今回のループで六回目。
そして、なんとローゼリアは別の世界から転生していて、更にこの世界は『彼女』が創ったゲームの世界らしい。
ヒロインはあの『ルーナ』で、『ローゼリア』は悪役令嬢。
そして悪役令嬢は必ずどの世界でも破滅する。
「……なんでこんなゲーム創ったんですか」
「いや、えっと、その……だって、ね、創作魂がいろいろ滾っちゃって。あぁああもう恥ずかしいぃぃ良い!」
ローゼリアお嬢はそう言って、クッションをぎゅーーーーっと抱きしめた。
「しかもよりにもよって悪役側に転生するなんて」
「だってだってだって~! こんなことになるなんて思わなかったんだもん!」
そして俺は思った。
『俺の主、かなりアホじゃないか?』と。
でも二人で繰り返しているということを共有できたのはありがたい。
これで一人で辛い思いを抱えなくて済む。
◆
俺が転生をしているとわかってから、ローゼリアは無理難題を突きつけてくることが多くなった。
まず、餡を作れという難題を突きつけられたのだ。
他国から運ばれてきた小豆を市場で見つけて、それを煮たり濾したりする。
まずお嬢がやりかたを教えてくれるために実践してくれたが、あの姿を旦那様と奥様が見たら卒倒しかねない。
そして団子やら大福やら、甘いものを色々と作らされた。
「んんん~~! やっぱり和菓子は最高よね。アッシュもどんどん腕があがってきてて、あぁ……このこしあん最高」
「あと、羊羹も冷やしているので」
「ん~! 大好きアッシュ!」
とお嬢はほっぺにお菓子を詰め込みながら笑った。
リスみたいだ。
「……お嬢、軽々しく大好きなんて言わないでくださいよ。他の人にも……」
「あら。好きなものを好きって言って何が悪いの?」
お嬢が『好き』と言ってくれると、心がざわざわするようになっていた。
何故だろう。
他の誰かに『好き』と言ってほしくない。
今、お嬢の好きはLIKEでLOVEではない。そのくらいはわかっている。
でも、誰かに気安く好きと言ってほしくない。たとえLIKEの好きだとしても。
「アッシュと一緒なら、この世界も楽しめるかもしれないわね! えへへ」
お嬢はそう言って、また団子を一つ口に入れた。
一体何なんだ。この気持ちは。
◆
そして16歳。悪役令嬢であるローゼリアは、また酷い目にあった。
ルーナと共に攫われてしまっていた。これはお嬢から聞いたことがある。ヴィンセントという男のルートだ。
すぐに助けに行きたいけれど、ヴィンセントの所在地がわからない。
俺は下町をうろついて、お嬢の行方を尋ね回った。
――その噂は下町の酒場で広がっていた。
東の奥の街にある娼館には、金髪の人形のような女がいると。
俺はその話を聞いて、すぐに向かった。
小綺麗なベッドルーム。致すだけの部屋。
そこに座っていたのは虚ろな目をしたお嬢――ローゼリア様だった。
「……ぁっ」
久々の再会に俺は言葉が出なかった。
ローゼリアは俺と再会して、絶望した顔を浮かべていた。
「い、いや……やだ、うそ、なんで、やだやだぁ」
膝から崩れ落ち、幼い子供のように泣きじゃくるローゼリア。
「大丈夫ですよ。お嬢。俺です。アッシュです。貴方を助けに来ました」
「――ひっ」
ローゼリアは息を呑んでいた。
助ける――そう言ったのに、彼女の瞳はまだ濁ったまま。
「お、おねがいです……今日は帰ってください……」
震える声でそう呟くロゼ。
「嫌です。せっかく見つけたんですから、絶対に連れて帰ります!」
その時、ロゼは胸元のボタンを外した。
一枚の服しか来ていないから、すぐ服は脱げた。
胸元、首筋、腹部、足、あらゆる場所に情交の跡があった。
俺は言葉を失った。
「私……もうこんなに汚れたの……だから、貴方の手は取れない。もう、戻れない……」
「貴方は、俺の手をとってくれないのですね」
こくん、と彼女は頷いた。
「じゃあ、俺は貴方を攫います。お嬢――いいえ、ロゼ」
そう言って、俺は彼女を抱き上げた。
「貴方は汚れたというけれど、ロゼの心は綺麗なままだ。ずっと。
そして、どんな姿でも構わない。俺は生涯、この魂が尽きるまで、ロゼを支える。だから一緒に行こう」
「……うぅっ、うっ……うぁああああ……」
嗚咽をこぼし、涙を流すロゼ。
彼女は俺の胸にしがみついて、泣き崩れた。
そして俺はロゼを身請けし、二人で生活するために小さな家を買った。
また延々とロゼとくだらない話をしたい。
ロゼのはにかむ顔が見たい。
しばらく心病んでたロゼは、娼館を出た後、失語症になった。
医者曰く、過度のストレスが原因とのこと。
けれど、心が落ち着いたら治るとのことだった。
癒えない傷は一緒に治そう。いくら時間がかかっても構わない。
再びロゼの声を聞けるなら、俺にできることを何でもするから――
二人で過ごして、二ヶ月ほど経った頃。
ロゼに少しずつ笑顔が浮かぶようになってきた。
紅茶が好きらしく、欲しい時は紅茶の缶を持ってきてくれて、上目遣いでねだってくる。
本当に可愛い。
こうやって、小さな幸せを積み重ねて生きていこうと思った。
けれど、ある日からロゼの体調が崩れるようになった。
食べ物を吐き、酷い時はベッドから出れない。
それが数日続いたので、医者に連絡して診てもらった。
医者はロゼの身体を一通りみて、笑顔を浮かべた。
「おめでとうございます」
と、医者は言った。
俺の手は震えていた。その言葉が意味すること……それは、つまり――
「ご懐妊ですね」
事情を知らない医者は喜ばしいことのように言った。
けれど、俺とロゼは口づけすらしていない、手を取ったり、抱きしめることはあっても、それ以上はなかった。
つまり、娼館で――
俺は行き場の無い怒りを溜め込んで、ロゼの手をとった。
「大丈夫です、ロゼ。何があっても、どんな姿でも貴方を生涯支えると誓ったでしょう?」
ロゼは、なぜか微笑んでいた。
そしてその早朝。ロゼは近くの木で首を吊って亡くなった。
俺もすぐに後を追った。
◆
そしてまた目が覚めた時、俺は13歳の姿になっていた。
ロゼがどうなっているのか、不安でたまらなかった。
俺はロゼの私室のドアを開けた。
「な、だ、誰!?」
「俺です! アッシュです……! ロゼ、お嬢!」
すると、ロゼは驚いた顔をして俺を見つめた。
どうやら、幸い前の記憶は消えているようだった。
つまり、イチから始めるのは俺だけ。
ロゼは記憶を保持していない。
幸か不幸か聞かれたら、幸だろう。
……たった一人で繰り返すことになっても、俺は諦めない。
絶対にロゼをこの運命の歯車から助け出す。
俺の、俺だけのロゼを――
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