自己と存在の証明 SideR
《再構成》
それはこの世界を創った私だけが使える魔法。
『世界の中の設定を改変する』チートスキル。
この魔法を使った時、私は宇宙のような空間を漂い、この世界を俯瞰で見ることができる。
この空間には、星のような小さな輝きが無数に広がっている。
星々をよく見ると、星ではなくすべて1と0だった。
やろうと思えば、登場人物の運命を変えることもできる。そう、なんでも。
ヒロインを破滅させることもできるし、攻略対象をいなかったことにもできる。
ただ、なぜか配役をいじることはできない。
だから私がヒロインになることはできないし、攻略対象になることもできない。
私がローゼリアであることは確定している。
今まで繰り返しを経験してきたのは私だけ。
じゃあ、お供を誰か選ぼう。
攻略対象じゃない人。私の繰り返しに付き合ってくれそうな人。
その時、頭に浮かんだのが――アッシュだった。
気安くて、チャラい主人を尊敬していない従者。
彼ならローゼリアの味方でいてくれるだろう。
「決めた。《再構成》。アッシュに『観測者』権限を付与。
シナリオも『観測者』だから、改変することができるわ」
繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し。
何度も繰り返し、私の頭はおかしくなっていた。
そして疑い深くなっていた。
この世界は私が創った世界。
たくさんの脆いところがある。
たとえばフェリックスルートに入ったあと、特定の場所に行くと、バグが出る。
一人で『構造』を考えていたし、『修正』もしていたから、どうしても見落としがあった。
バグが出るとどうなるか。世界が止まってしまうのだ。
その度に私は《再構成》を使って、世界を修正してきた。
穴が空いた水道管を塞ぐように。創造主というのは、意外と地味なのである。
「そして彼が起こした事象は自動で《修正》できるように、デバッガーアイテムを設定しましょ。うーん……私は彼の紅茶が好きだから、紅茶をアイテムにしようかしら」
紅茶を飲むと、悪役令嬢の配役から外れた行動を取れる――そうしよう。
アッシュは主人公だから自由に行動ができるし、その行動が未来を変えることもできる。
「アッシュなら、きっと私と敵対することはない……と思うけど。まぁ、そこは運次第ね。彼がどういう性格なのか、私は詳しく設定していないから」
――本当はもう繰り返したくなかった。
この世界から解放されたかった。
一人でくるくる廻る人形のように踊るのはもう嫌だった。
だから、書き換えてしまった。創ってしまった。もう一人の観測者を。
そして、私が死ぬ――『観測』をやめることで世界がリセットされるんじゃなくて、アッシュが『観測』をやめることで、世界がリセットされるようにしよう。
そうしたら、世界はもうちょっと広がってくれる。
無理難題に付き合わせちゃった従者に、幸せな未来を与えることもできるかもしれない。
「どうせ物語を始めるなら最初から……。じゃあ、私の頭も初期化しましょ」
一人の宇宙で、一人で呟く。
答えてくれる人は誰もいない。壊れた私はここでオシマイ。
『創造主』の視点と『観測者』の視点。
これで運命が変わるだろうか。……それとも、やっぱり私は悪役のままなのだろうか。
「《初期化》」
そして私はループの回数を数えずに、ループしていたことすら忘れた。
こうして、私の新悪役令嬢ライフが再始動したのであった。
◆
「よりにもよって、なんで中二病時代に創った黒歴史ゲームに転生しちゃったの!?」
周りにある彫刻も、壺も、全部見たことがある。
これは間違いなく、『星靴』の世界だっ!
ゲームなんていっぱいあるのに、なんでよりにもよって――
しかも、この顔……。
私は立ち上がって鏡を見る。
――そこには長い金色の髪の女の子がいた。瞳は宝石のようにキラキラと輝いている。
「……どう考えても、ローゼリアよね」
悪役令嬢ローゼリア。
ヒロインをいじめて、どのルートでも死亡が確定している悪役キャラ。
――その時、突然扉が開いた。
そこには息を切らせた12,13歳くらいの少年が居た。
夜の帳のように黒い髪に、猫のような黄金色の瞳。
……えっと、こんなキャラ、攻略対象にいたかしら。と私は頭をかしげた。
「――っ! ローゼリアお嬢様っ!?」
飛びつくように、少年は私に抱きついてきた。
「あ、あなた……だれ?」
「アッシュです。……貴方はローゼリア様、お嬢ですよね。幼くなっているけれど……首も、ちゃんと繋がっている……」
「ぶ、物騒なことを言うわね」
「いや……とても嫌な悪夢を見たので……」
「……ところで、貴方、誰なの? 名前を教えてほしいわ」
すると少年は、花のようにぱぁあっと輝いた笑顔を浮かべて、胸に手を当てた。
「――俺はアッシュ。アッシュ・ウイル・ウォルフガングです。貴方の従者です」
彼の頬には涙の跡があった。
相当酷い夢を見たのだろう。可哀想だったから、私は頭をなでた。
「な、なんですか?」
「いや、貴方が泣いていたみたいだから」
「俺は男だから泣きません。でも――本当に夢でよかった」
泣きそうな声で、彼は言った。
これにて神様視点っぽいところは終了です。
これからもちょこっと出てくるかもしれませんが。
さり気なくタイトル伏線回収。
『我が主は~』はアッシュ視点で、アッシュが主人公の物語という形です。
デバッグとかバグとか、恋愛ものであんまり見ない単語ばかり出てきて…。
ゲーム世界なので、どうしてもこの要素は入れたかったんです。
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