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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】彼女を運命から救うためにできること
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ヒロインと悪役令嬢(7)SideA

 ひとまず、今日はそこで話が終わった。

 気づけばもう時計が22時を回っている。


「じゃあ、ひとまず解散っつうことで」

 俺は羊皮紙を丸めた。

「えぇ……大丈夫ですよ、私、寝間着を持ってきてるし、こうやって考えてるのが好きですから!」

「だーめーです」

 ルーナは居座ろうとしたけれど、俺はそれを止めた。


 でも……と頬を膨らますルーナを諌めたのは、意外にもローゼリアだった。

「ごめんね、ルーナ。あの……ちょっとアッシュと二人で話したいことがあるの。だから、今日はおひらきで」


 そうして、ローゼリア破滅回避会議、第一回が終わった。


 ルーナとの対話に集中していたからか、ロゼの顔色をきちんと見ていなかった。

 ロゼは……何故か寂しそうな顔していた。


「……お嬢、ごめんなさい。辛い話をしてしまって。怖かったでしょう」

 俺はロゼの手に触れる。彼女の手は冷たくなっていた。


「大丈夫よ。だってシナリオを書いたのは私だもの。ある程度わかってたし……」


 ローゼリアは言いよどむ。

 そして顔を上げて、俺の目をはっきりと見つめてきた。

 青い宝石のような瞳が俺を見つめている。


「……私、アッシュに黙っていたことがあるの」


 ロゼはそう言って、俺の手の上に、もう片手を重ねてきた。




「私、しばらく熱でうなされてたでしょ」

「そうですね。まだ熱がありますか?」

「……ううん。大丈夫。ただ、その時に思い出したことがあるの」


 どくんっと、心臓が跳ねる音がした。


「……何を、思い出したんですか?」


「えっと、なにから言えばいいのかな……。たくさんのことを思い出したわ。たくさんのローゼリアの末路を思い出したの」

「たくさんの?」


「ほら、3年前、吟遊詩人が言ってたこと、覚えている?」


『ぐるぐると、廻っている。自覚ある分も、ない分もあるみたいだけど……10や20じゃない。100は軽く超えている……』


 そういえば、そんなこともあった。


「アッシュは今回のループで8回目って言ってたよね。

……でも、私が思い出したのは、10回や、20回じゃなくて、もっと。それこそ頭がおかしくなるくらい、たくさんのローゼリアの死を。

 そして、その度にいつもアッシュは助けてくれて、ローゼリアを守ろうとしてくれていたこと」


「……なんで、思い出した時に教えてくれなかったんですか?」

 俺は彼女に尋ねた。


 すると、困った顔で

「怖かったから」と返ってきた。


「俺のことが怖かったから、ですか?」

「あ、いや、違うわ。そんなんじゃないわ。アッシュは怖くないわよ。だって、どの世界でも貴方はローゼリアの味方だったもの」

「じゃあ、なにが――」

「……私は」


 ロゼの声は泣き出しそうなほど弱く、震えていた。

 

「貴方の助けたいと願っている『ローゼリア』じゃないかもしれない」


「……いいえ、貴方はローゼリア様です。俺が7回、いや、もっとかもしれない。何度も助けようとしました」


「私は異世界から来て、ローゼリアになったわ。最初からローゼリアだったわけじゃない」


「そんなのわかっています。俺は『創造主(かみさま)』である貴方に従事しているんです」

「……そう、ね」


 何を言っても、ロゼには響かない。届かない。

 絶対に超えられない境界線が引かれている。


「そう。私の大事な従者のアッシュ。

 そして、私を助けてくれる友人のアッシュ。

 ……貴方の感情は『私が創ったもの』だわ」


 ロゼは――創造主(かみさま)は悲しそうに笑った。


「最初に転生した時、私に寄り添ってくれる友人がほしいと思った。

 それが従者のアッシュだった。

 私はあなたを巻き込んで、何回も何回も世界を繰り返した。

 どの世界でも、強制力があって、ローゼリアは破滅する。

 けれど貴方と一緒に繰り返すことで、私はなんとか自我を繋いでいた。

 でも、それは私のワガママで、貴方にはいつも負荷をかけてしまった……」


「どういうことです……?」


「繰り返し、何度も死んでしまうローゼリアを見て、どう思った?」

「……辛かったですよ」

「そうよね。それを何回も、何回も、ずっと繰り返させてしまった。

 私が幸せになるために、貴方を利用してしまった。

 だからまず先に、貴方が壊れた。そして私は貴方の記憶をリセットしたの」


「……それが、8回前の頃ですか?」


「ううん。それよりも前。貴方は何度も壊れた。私も何度も壊れた。私は償いとして、貴方に力を『付与』した。自由に動けるように。どこにでもいけるように。シナリオなんて気にしないように。……なのに、貴方は『ローゼリア』の側にいてくれた。本当にありがとう」


「そんな……今生の別れみたいに言わないでください」

「そう聞こえるかしら。……うん。まぁ、そんなものなのかもしれない」


 ロゼの口元は笑っているのに、目からは涙がこぼれ落ちていた。


「貴方の感情は私が『()()』したもの。私が『()()()』もの。()()なの」

「違うッ!」


 目の前にいる彼女が愛おしい。

 でも、彼女は『創造主(かみさま)』だ。彼女が言う通り、この気持ちは作られたものなのか?

 恋い焦がれる気持ちも、愛おしさも。

 貴方を思うことで世界が輝いてみえたのも。

 それを与えてくれた貴方が、否定するのか。


 俺はベッドにロゼを押し倒した。


「俺は貴方を慕っています。ずっと、ずっと。何度繰り返しても、貴方だけを想ってきました……想って、きたんだよ。ロゼ……」


 お願いだ。

 否定をしないでくれ。


「ありがとう。アッシュ。……私は、貴方が好きよ」

 ロゼは俺の首に腕を回して、キスをした。


 この8回目の世界で、初めてのキス。

 こんな形でしたいとは思わなかった。


「……アッシュ。どうか、もう『ローゼリア』から解放されて」


 そう言って、ロゼは目を瞑った。

 駄目だと思った。これ以上口に出させてはいけないと、俺は口づけを重ねる。彼女に言葉を紡がせないように。


「んっ……ちゅっ、んんっ……」

 彼女は顔を赤くして、抵抗する。

 けれど俺は彼女の身体を離さない。

 もう逃さない。

 俺から離れさせない。

 学園が何だ。世界が何だ。ヒロインが何だ。悪役令嬢が何だ。『創造主(かみさま)』が何だ。


 ()()()()()()()()()()()()


 6周目と同じ道を辿ろうといい。薬漬けにして、俺のこと以外を考えられないようにしてもいい。

 俺から離れるなんて、絶対に許さない。

 絶対に逃さない。離さない。


 その瞬間、ひやりとしたものが、俺の腕に触れた。

 短剣だった。

 彼女はそれを――俺じゃなく、自分の首元に当てた。


 俺は慌ててその短剣を取り上げた。そして、彼女から身体を離してしまった――


「……《再構成(プログラム)》」


 『創造主(かみさま)』である彼女でしか使えない魔法を、ローゼリアは呟いた。

……ラブコメです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです!! そして切ない( ノД`) 最後の《再構成》の響きが重くて… とても続きが気になります。
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