ヒロインと悪役令嬢(6)sideA
「こんばんわ~」
ルーナはニコニコしながら、ローゼリアの部屋の入口経由で俺の部屋に入ってきた。
「……ぐふっ、ローゼリア様のお部屋……テディベアがあって本当にかわいい……可愛いローゼリア様も好き、尊い」
と、入ってきた時にルーナはハンカチで鼻を押さえていた。
正直ロゼの部屋の空気を吸ったことすらムカつくけれど、ここはロゼのために我慢する。
「じゃ、じゃあ、私が死なないようにする作戦会議、始めるわね」
お嬢はそう言って、大きな羊皮紙を机の上に広げた。
「ちょっと待ってください。私、まだわかってないことがあるんです」
とルーナが制止する。
「なんすか、ルーナ嬢」
「貴方のことですよ。アッシュ様。ゲーム内では悪役令嬢の従者のモブだったのに、気づいたらクライン家の養子になっているじゃないですか。貴方は一体何者なんです?」
流石、天然お嬢と違って鋭い。
ルーナと作戦会議をするなら、いつかは指摘が入るとは思っていた。
さて。どこまで話そうか。
「俺は、異世界転生者でもなんでもない、この世界の登場人物です。ただ、この世界を7回ループしています。今回で8回目っすね」
「繰り返し……ですか。ふむ。私は今回が初めての経験なんですが、ローゼリア様も何度も繰り返しているんですか?」
「いえ、お嬢は今、繰り返しの記憶を失くしています」
「それは今回が初めてですか?」
「いや、5回目の時までは記憶を保持していましたね。6回目から記憶を失くしました」
「はっきり聞いてもいいですか?」
「……どうぞ」
俺はそっとお嬢の耳を塞いだ。
「えっ、なんで?」
お嬢があたふたして俺の方を見る。困ったように眉が下がっている。
ルーナからの問いがどんな内容か、察したからだ。
「繰り返した世界では、ローゼリア様はどんな結末を辿ってきましたか?」
「……5回目までは全て死亡です。悲惨な結末でした」
ロゼはその内容を知っているけれど、あまり聞かせたくなかった。
けれど、ロゼはそっと俺の手に自分の手を添えた。
「大丈夫よ。自分で創った世界だもの。私がどんな結末を迎えたかなんて、だいたい予想がつくし、不安でもなんでも無いわ」
苦笑いで、ロゼは答えた。
「では、まず一周目から教えて下さい」
「一周目はフィリックス王子ルートですね。ルーナ……いや、ヒロインと王子が結ばれ、その後やってもないあらゆる罪を押し付けられて、斬首されました」
「……ゲームでは、結ばれた時点で終わりでしたけど……この世界ではそうなってしまったんですね」
すらすらと羊皮紙に書き留めるルーナ。
「では、二周目は?」
「二周目はヴィンセントルートでした。あとは……わかるでしょう?」
「……えぇ。なんとなく」
ヴィンセントルートのロゼは、ヒロインとともに誘拐され、薬漬けにされ、純潔を奪われ、娼婦へ落とされる……その後、ロゼは自身で首を吊った。
「三周目は騎士ルート。ここでも、王妃になったロゼが有りもしない罪を押し付けられて斬首です。四周目は科学者ルート。科学者ルートでは最終的に裏社会の組織――つまりヴィンセントに捕まって、魂を抜かれる実験をされて、無残にも亡くなりました。五周目は怪盗ルート。突然ぐさっと刺されて死亡――と、こんなところですね」
思い出すたびに胸が痛む。
ロゼを何度も助け出そうとしたけれど、運命がそれを許してくれなかった。
「なんでこんな設定にしたのよ……当時の私」
とロゼが悔やむ。本当にそうだ。
「では、6周目は?」
鋭い眼差しで俺を見つめるルーナ。
「お嬢が死なないように、この周囲から隔離させました。名目上では亡くなったことにして、塔で過ごしていただきました」
監禁していた事実はもちろん伏せる。
「……それ、ゲームにはないですね」
ルーナが驚いて、ペンを落とした。
正直作者よりもゲームの中身を覚えているのかもしれない。
「6周目のローゼリア様の最期は?」
「……看取れてないっすね」
「……え」
「6周目は気づいたら終わっていたんですよ。7周目も一緒です。俺は最期まで彼女を看取れてません」
「死因は不明……それか死ぬ前に巻き戻りをしてしまったのか……」
すらすらと羊皮紙にまとめられる、これまでの話。
お嬢と話す時間は楽しかったけれど、ルーナと話す時間は建設的で効率がいい。
「ほぼ全部のルートでローゼリア様は悲惨な結末を迎えます。けれど、一個救いがあってよかったです」
ルーナはペンを持ちながら、にやりと笑った。
「え。なんのこと?」
お嬢はぽかんとした表情を浮かべ、首をかしげる。
「……まず、イレギュラーが発生しています。塔へ隔離させたのは誰のアイデアですか?」
「わざわざ言わなくてもわかるでしょう。俺ですよ」
「そして、現在クライン家の養子にもなっている。……つまり、貴方の存在はこの世界のイレギュラーになってるんじゃないでしょうか」
「まぁ、間違いなく繰り返している時点でイレギュラーっすね」
それくらいは想定していた。
「まず、6周目にゲームにないシナリオを紡げた。これはすごいことです。でも、最期まで話が続かないということは、ゲーム内で先のストーリーが無いからなのでしょうか? それとも、ローゼリア様が諦めてしまったから? ヒロインがどこかでハッピーエンドになったから?」
疑問点をスラスラ並べていくルーナ。
お嬢はいつも、フラグを折るというあくまでストーリーをなぞって、死亡を回避するという着眼点から話していたけれど、ルーナは違っていた。
まず『世界がどうなっているのか』の構造の部分から考え出していた。
……あれだな。お嬢は文系で、彼女は理系だな。
「私、ずっと気になっていたんです。ローゼリア様が初めて話しかけてくれた時のこと。あの時のローゼリア様はヒロインにとって『悪役』令嬢でしたね。あの時、ローゼリア様はどういう気持ちでしたか?」
「……とても嫌な気持ちだったわ。あんなこと言いたくないのに、言葉が勝手に出て、勝手に身体が動いて、ハンカチをはたき落としてしまったりしたの」
あの時のロゼは確かにいつもと違っていた。
その後、しゅんと落ち込んで、きちんと謝罪することができたけれど――
「あの時、貴方――アッシュ様が来てくださいましたよね。そしてローゼリア様は普段通りに戻れた。あの時、確か……貴方は紅茶を振る舞ってくれましたよね。それに精神が安定するお薬とかをいれました?」
「お嬢の飲み物にそんなものを入れるわけがないだろ」
――心外だ。つい、敬語をやめてしまった。
「でしたら、紅茶に魔法をかけませんでしたか?」
ルーナがまっすぐ、はっきりとした声で尋ねてくる。
「明確に魔法をかけていない、けど、昔のお嬢から教わったおまじないをかけて紅茶は淹れてるよ」
「きっとそれです!!」
ばんっと机を叩いてルーナは立ち上がった。
「唯一この世界の強制力から逃れていること、そして、ローゼリア様はあなたの振る舞った紅茶を飲むことで、悪役令嬢の強制力から逃れたこと」
ヒロインはずばっと俺を指差した。
「ローゼリア様を助ける鍵は貴方が握っているんですよ、アッシュ様」
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