ヒロインと悪役令嬢(5)SideA
前言撤回だ。
ルーナは同性という立場を利用して、お嬢にべたべたと触れる。
「はぁはぁ、ローゼリア様、小さいお姿でも可愛いです」
ぎゅっと抱きしめたり、匂いをかいだり、とりあえずべたべたと。
俺は思った。
――ルーナ、ロゼにとっては味方になっても、俺にとってはライバルじゃないか?
と。
「ルーナさん、く、くすぐったいわ」
「ルーナで良いですよ。ふふ、はぁはぁ、本物のローゼリア様に触れられるなんて。他のご令嬢とのティータイムでも私のことを庇ってくれて……本当に嬉しかったんです」
「あ、あの時の視線は貴方だったの!?」
「はい。ずっとローゼリア様を目で追いかけていました」
……ストーカーじゃねぇか。と俺は心のなかで思った。
まぁ、俺も従者という立場を使って同じようなことをしているから、人のことは言えないけれど。
「で、お嬢。貴方にとって、ルーナ嬢は苦手なタイプじゃ……なさそうですね」
俺はロゼの様子を見て一応尋ねた。戸惑っているけれども、先程のように怖くて四隅に隠れる様子はない。
「……ええ、前世の彼女からは何度も感想をもらっていたから、うん。仲良くできるわ。仲良くしてくれる、かしら? ルーナ?」
ルーナはぶはっと鼻血を吹き出した。
「ももも、もちろんです。ローゼリア様。こちらこそよろしくおねがいします!
……はぁ、ゲームのローゼリア様は綺麗めでかっこよかったけど、このローゼリアは小さくて可愛い! 尊いですっ! はぁはぁ」
「はい、お触りの時間はそこまでですぜ」
俺はルーナからロゼを引き離した。
そしてロゼをぎゅっと強めに抱きしめる。
この人は俺のものだとアピールするように。
その行動だけで、ルーナは理解したのだろう。
俺がロゼに好意を持っていることに。
「ローゼリア様、今度焼き菓子を持ってきますわ。私、お菓子の手作りが得意なんです!」
「えっ! 本当!?」
「お嬢、この間、他国から取り寄せた飴が部屋に届いてますぜ」
「えっ! 食べたい!」
ロゼの宝石のような目がさらにキラキラと煌く。
どうやら俺にとって強力なライバルが登場した。
まさか同性同士の交流でも、やきもきしてしまうほど自分の心が狭いとは思わなかった。
◆
「えっと、こほん。ルーナ、相談したいことが山程あるの。ランチタイムだけじゃないから、談話室か、私の部屋かルーナの部屋で相談できないかしら?」
お嬢が咳払いをして、俺とルーナのお嬢の取り合いは、一時休戦となった。
「談話室でしたら、夜遅くまでお話はできませんよね。ローゼリア様の部屋……ぐふっ、幸せで召されそうです!」
「……えっと、じゃあルーナの部屋で? それともアッシュの部屋がいいかしら」
「俺の部屋にしときましょうか。俺の部屋にはお嬢の部屋に繋がる扉がありますし、そこから出入りしていたら、別に変な噂は立たないでしょう」
俺のいないところで会議なんてさせない。
ルーナがローゼリアと二人っきりになった時、彼女が何をしでかすかわからないからだ。
それにルーナの部屋に男の俺が入ったところを別の誰かが見かけたら、下衆な噂がたつ可能性がある。
「では、早速今晩、ローゼリア様の部屋――経由でアッシュ様の部屋に参りますわ! えっと、寝間着も持っていきますね。夜遅くなっちゃうかもしれませんし!」
「寝間着は必要ありません」
俺はきっぱり断る。
「あら、一応、念の為です」
ルーナは毅然と立って言う。
「……寝間着……ってことは、パジャマパーティができるわね……」
「ですです! 私、ローゼリア様とパジャマパーティをしたいです!」
ロゼに語りかける時と、俺に話しかける時のルーナの声のトーンはぜんぜん違う。
「却下です。うちのお嬢は嫁入り前なので、お触り禁止です」
「同性ですけど?」
胸元に手を当てて、ふふんと笑うルーナ。
「女性だからこそ夜ふかしは厳禁っす。肌荒れの原因になりますし、お嬢は夜22時にはきっかり眠るので、そこまでには解散です」
「譲る気はないということですね」
「はい、もちろん」
俺とルーナの視線の間に、バチバチと火花が飛び散ったような気がした。
正直、この女。フェリックス王子よりも厄介かもしれない。
「じゃ、じゃあ今はご飯を食べましょ。アッシュ、ルーナにもお茶を」
「砂糖もなにもいりませんので」
「へいへい」
ルーナは二本の木で出来た物体を持って、自分の食事を取り始めた。
「あ、お箸……いいなぁ」
「ローゼリア様は使ってないんですか? 便利ですよ」
「私は貴族の食事が多いから……なかなか箸で食べる機会がなくて……。箸、私も作ってみようかしら。やっぱり箸で食べるご飯のほうが落ち着きそうだもの」
「でしたら、俺が今度作っておきますよ。職人に用意させます」
俺はすかさず言った。
言わなければルーナが『作りますわ!』と言い出して、手柄を横取りされそうだからだ。
「あ、うん。ありがとう、アッシュ」
ロゼはそう言って、俺から目をそらした。
――気のせいかもしれない。
でも最近、ロゼが俺を見て目をそらすことが増えてきた。
なにか機嫌を損ねることは――めちゃくちゃやってるなぁ。
怒っている感じではない。
いつも『従者だからやって当然!』って言ってたことに対しても『ありがとう』と丁寧にお礼を告げてくれる。
俺と目が合うと、逸らす。
ルーナとの接触で、ロゼの心境に変化があったのだろうか。
それとも、ルーナ>俺の好感度になっているのだろうか。
――協力者だけど、なんかあったら潰そう。
俺は心にそう決めた。
そして今夜、早速作戦会議が行われることになった。
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