ヒロインと悪役令嬢(4)SideA
俺とヒロインちゃん――ルーナがいつも使う談話室に、今日は金色の髪の毛だま――ことロゼがいた。
ロゼは三角座りで部屋の端に隠れていた。
もふもふの髪のせいか、中型犬のようにしか見えない。
「……こわいこわいこわいこわいこわいこわい」
「どうします? お嬢、ヒロインちゃん呼ぶの辞めます?」
「ううん、ちょっと話してみたいわ。ルーナも転生者なのよね」
「そうですね。お嬢と一緒のようです」
――ちなみに『星靴』の大ファン&ローゼリア推しであることは黙っている。
「協力者が増えるのはありがたいわ……でも、ヒロインよ? すごくきゃぴきゃぴした陽キャで、インスタ映え~とか言う子だったら仲良くできる自身ないわ」
「……またよくわからない単語を」
現代語なのだろう。
とりあえず、ひきこもりお嬢様が仲良くできるか不安である――ということは理解した。
「ねぇ、アッシュ。お願いがあるの」
「なんですか?」
「お茶を淹れてほしいわ。一杯飲んで、勇気を出したいの」
「それくらいなら喜んで」
俺はお嬢に紅茶を振る舞った。
ロゼはやっとお茶を飲んだ。お嬢が飲んだと同時に、扉が開いた。
その先には顔を真っ赤に染めたルーナがいた。
「あ、あの、ローゼリア様、その……」
もじもじと人指し指と人差し指をこねこねとしている。
「え、えっと、ルーナ、さん……」
お嬢は太ももの間に両手を入れて、もじもじしてる。
なんだこの光景。
女同士だから許せるけど……いや、ちょっと嫌だけれど。
ルーナは顔を上げて、大きく息を吸った。
そして――
「ローゼリア様ーーいいえ、薔薇子様、大好きです!!ずっとずっと、大ファンでした!」
大きな声で告白をした。
「ぴぎゃあああああ!!!!なんでその名前を知ってるの???!!!」
ロゼは頭を抱えて崩れ落ち、床に突っ伏している。
「薔薇子っていうのは?」
俺は聞き覚えのない名前を尋ね返した。
キッとロゼが俺を睨んだけれど、気にしない。
「あぁ、それは『星靴』の作者様のハンドルネーム……ペンネームのようなものですわ」
「なるほど、お嬢は『薔薇子』というペンネームで活動していたんですね」
俺は満点のスマイルでロゼに語りかけた。
ロゼは怒りで満ち溢れた目で俺を睨む。聞いてないというような目で。
というか『星靴』の話を模写するくらいのファンならペンネームくらい知っているだろうから、予想できるだろうに。
「…………ふー、ふー、ふーっ」
「あの、私……ずっとコメントを送っていた『月子』です」
「月子さんっ!?」
ロゼがガバっと顔を上げた。
「いつもメールで感想を送ってくれる、あの月子さんなの!?」
「はい!」
「ファンアートを送ってくれた、月子さん!?」
「はい!」
「たまに通販専用のギフトカードを支援してくれた月子さん!?」
「はい! 溢れる愛を伝えるために、課金で証明したくて」
とりあえず、ロゼにルーナが熱狂的なファンであることは理解してもらえたらしい。
「大・大・大好きなんです。薔薇子先生の作品が! あ、あと他の作品もだいすーー」
「ぎゃあーあーあーーーーーー! それは黙って黙って黙って黙ってー!」
ロゼが立ち上がって、ルーナの口を塞いだ。
「他の話?」
俺が尋ねる。
「あら、アッシュ様は知らないんですね。薔薇子先生ーー」
「……薔薇子先生はやめて」
ロゼが涙目で訴える。
「はい、でしたらローゼリア様の作品は、『星の乙女は魔法の靴で導かれる』だけじゃありませんわ。他にも色々なジャンルがありまして、ラブストーリーも、ホラーゲームも、青春ゲームも色々あるんですの。もう私は全部大好きで……ずっと追っていました」
ルーナの口からはとんでもない発言が飛び出た。
なんとこのロゼお嬢様の黒歴史は、この物語だけじゃないらしい。
「……初耳ですぜ、お嬢」
「だって言うわけないじゃない。これ以上の黒歴史を暴露して、私に何のメリットがあるのよ」
「だから、この世界で転生して幸せなんです。是非ともローゼリア様が幸せになれるよう、協力させてください!」
ルーナははっきりと言い放った。
「……ほ、本当に協力してくれるの?」
「ええっ! 私にとって、ローゼリア様は神ですもの!」
ロゼの手をぎゅっと両手で包み込むルーナ。
「まぁ、俺やこの世界にとっても『創造主』だけどね」
「はぁ……私の憧れの先生が、目の前にいるなんて、感動です」
俺の話は聞いちゃいねぇ。ルーナはもう興奮しきって、目がきらきら光っている。
一方ロゼは、あまりの熱狂的っぷりに少し、いやかなり引いていた。
「ねぇ、ルーナ嬢、もしも他作品も複写しているなら、持ってきてくれないかな? 読んでみたいな」
と俺が笑顔で言うと、ロゼは『何を言ってるの信じられない』という顔で睨んできた。
「はい、何度も何度もプレイしたので、一字一句覚えています! それを持ってきますね」
「すごいファンじゃないですか、お嬢」
「…………」
物語を一字一句複写するなんて、この子……本当にすごい子だ。
この間持っていた『星の乙女は魔法の靴で導かれる』の本だって、辞書並みに分厚かった。あれが他に何作もあるのか。
初めてローゼリア以外の人を尊敬した。尊敬のベクトルは違うけれども。
「と、とりあえず……ルーナは私の味方なのよね?」
「はい! もちろん! ローゼリア様大好きです! 最推しです!」
「それはメールでも言ってくれてたわね。あ、ありがとう……」
「いえいえ! ファンとして当然の義務ですから!」
「じゃ、じゃあ……これから、私は自分が死なないように努力をするんだけど、協力、してくれる……?」
「もちろんです! あ、でも……ひとまず」
ルーナは自分の持っていた鞄に手を突っ込んだ。
そして色紙二枚を取り出して、お辞儀をしながらロゼに渡した。
「サインをください! ローゼリア様と薔薇子先生の!」
「……えぇえ」
流石のロゼもドン引きであった。
正直見ている俺も、ルーナがこんな子だとは思わなかったから、ドン引きしている。
――協力な助っ人ができたけど……この子もかなり行動力がありそうな子だ。
さて、どうコントロールするか。
俺は宙を仰いだ。
とりあえずお嬢に友達ができたのはいいことだと思っておこう。
ということで変態ローゼリアファン、ルーナこと月子さん登場です。
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