ヒロインと悪役令嬢(3)SideA
昼食時――俺はまたヒロインちゃんを昼食に誘った。
ヒロインちゃんは目をキラキラさせながら、俺の誘いに載ってくれた。
案内したのは、前ヒロインちゃんを寝かせた談話室。
「……あれ? ローゼリア様は?」
ヒロインちゃんはキョロキョロとお嬢の姿を探していた。
「すみません。ちょっと病み上がりで、今日は欠席です」
「……ってことは、貴方と二人なんですか?」
「そうですね」
ヒロインちゃんは俺をじっと睨んだ。
――ふむ。
ド天然あほなお嬢と比べて、この子は冴えている。
前、この談話室に呼んだ時、薬を盛ったのに薄々気づいているのだろう。
「私のような庶民とお話していたら、悪い噂が立ってしまいますわよ、クライン様」
ヒロインちゃんは、少し距離を置いて話す。
「いえいえ、そんなヘマはさせません。ちょっと聞きたいことがあるんですよ。貴方に」
「あら。勉学のことでしたら、もっと優秀な生徒がいらっしゃるじゃありませんか。それこそクライン様なんて、いつも学年上位ですし。あと敬語はやめてくださいな」
この女に誤魔化しは通じないと思った。下手に誤魔化せば警戒心を上げてしまう。
「先週、『星の乙女は魔法の靴で導かれる』のお話をしてくれたよね」
びくっ、と彼女の肩が上がった。
まさかこの話になるとは思わなかったらしい。
「ややこしいことをしてたら昼食の時間が過ぎちゃうから、単刀直入に言うね。貴方、別の世界からこの世界に来た、転生者じゃないのかな?」
「…………」
ヒロインちゃんは沈黙する。
そして顔を上げて
「えぇ、そうですわ。頭がおかしいと思われるかもしれませんが、私は異世界から転生して、この世界にやってきました」
と、はっきり断言した。
こうなれば話は早い。
「君は『星の乙女は魔法の靴で導かれる』の話が好きらしいけれど、誰を一番狙っているんですか?」
俺は単刀直入に尋ねる。
「……随分詳しいです。この本は流通していないはずでは?」
「残念ながら、詳しい人が知り合いにいるんですよ」
「私と同じ転生者がいるってことですか?」
「簡単に言えばそうですね。……で、誰が好きなんですか?」
ヒロインはがばっと立ち上がった。
そして顔を赤く染めて、頬に手をおいた。
「私が一番好きなキャラは……ローゼリア様ですわ」
「……!?」
まさかの返答で驚いた。
「ローゼリア様の格好いい言葉遣い。身長はゲームより低めですが、気高さは変わりなく――人気投票でもローゼリア様に入れるくらい大好きなんです」
「はぁ……」
呆れて言葉が出なかった。
ちょっと待ってほしい。ロゼルートがあるなんて、創作者から聞いたことがない。
「ローゼリアのことはわかった。確かにうちのお嬢は可愛いですからね。……で、ルートでは誰を狙っているんですか?」
「ヴィンセント様を狙っていますわ」
「……ん゛、げほんげほん」
気管に詰まってしまった。
まさかのヴィンセントルート。俺が一番最初に潰したルートだ。
「ヴィンセント様のヤンデレっぷり……本当に良いんですわ。
愛の深さも感じられるし、どこにいても守ってくれますし……あぁ、やっぱりヤンデレは最高ですわ」
ほぅっと、恋をする少女のように、ヒロインちゃんは顔を赤く染めた。
「ねぇ、君はわかっていると思うけど、うちのお嬢は『悪役令嬢』として、どのルートでも死亡するんだ。その件についてはどう考えている?」
「この間、ローゼリア様とお話をして、絶対に阻止したいと思っていますわ。だってローゼリア様はお優しい方ですもの」
「もしも君が想う相手――ヴィンセントと結ばれなくても?」
「ローゼリア様が幸せになれるなら、喜んで!」
彼女の夕焼け色の瞳は、真剣だった。
だから、信じられそうだ。
人の心に裏は感じられない。
「……じゃあ、話そうか。俺とお嬢のことを――」
俺は彼女を信用に値する相手だと判断した。
もちろん言葉だけでは信用ならない。読唇術なども全て使わせてもらって、この決断に至った。
「長くなるからお茶でも淹れようか」
「貴方が淹れたものは信用ができないので、私が作ります」
そう言って、水場にはヒロインちゃんが立った。
やっぱり睡眠薬の件についてはバレているらしい。
紅茶のポットが机の上に置かれる。
そしてカップに注がれる。人にお茶を注いでもらったのなんて、何年ぶりだろうか。
――ん、でももう少し蒸らしたほうがこの茶葉は美味しくなるんだけど……。
と、また紅茶について没頭しそうになった。
俺はごほん、と咳払いをする。
「まず、うちのお嬢――ローゼリア様も転生者だよ」
「え……えっ……えぇえええええ!?」
と、想定通りヒロインちゃんは淑女らしからぬ声をあげた。
「ちなみにこの世界を作ったのもお嬢だ」
「ローゼリア様マジ神じゃないですか! えっ! 本当に……ローゼリア様が? えぇ! ずっと大好きだったんですよ。ファンで、でも同人イベントには出てくれないから、メールで感想を送るしかなくて……あぁ、そんな素晴らしい人に近づけていたなんて……」
ほぅっと空を見つめる。
この子は本当にロゼのファンらしい。
――なら、協力してくれるだろう。お嬢の死を回避するアイデアを、もう一つの目線で考えてくれるだろう。
「じゃあ、お嬢にもそう伝えておきますね」
「あ、あの、クライン様。お願いがありまして……」
「なに?」
「ローゼリア様のサインが欲しいんです」
「そ、そう……」
わかったことは一つ。
彼女は生半可なレベルでなく、本気でロゼのことが好きらしい。
これが良い方向に転がってくれればいいけど……と俺はため息を付いた。
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