ヒロインと悪役令嬢(1)SideA
新章突入です!
「『星の乙女は魔法の靴で導かれる』というラブロマンス小説ですわ!」
目をきらきらと輝かせて言うヒロインちゃんの言葉に、俺とお嬢は衝撃で飲んでいた紅茶を吹き出した。
今までの世界で、こんなイレギュラーはなかった。
ヒロインちゃんが物語を知っているなんて。
お嬢は机につっぷせてプルプル震えて動かない。
「……えっと、ちなみにどんなお話なんですか?」
と俺はフォローして聞いてみる。
もしかするとタイトルだけが同名の別作品の可能性がある。
「……ええっと、平民出身の女の子が、魔法学園に入って、王子様や騎士様、あといろんな方々と出会うシンデレラストーリーです」
「ンギュップッ!」
お嬢が人間の悲鳴じゃないような擬音をあげて、飛び上がった。
でもまた机に突っ伏せる。
「うちのお嬢、小説やラブロマンスが好きなんだけど、どこで売ってるかな?」
「あら! そうなんですか? ローゼリア様が!? でしたら、ぜひともこちらを。一般では流通しておりませんので」
……と、ヒロインちゃんが本を渡してくれた。
分厚い装丁。俺は本をめくる。そこには綺麗な文字で、物語が綴ってあった。
「……えっと、ルーナさん? これって、手書きのように見えますが」
「はい。あ、でも私が創った物語ではないんです! 私はその物語を思い出しながら複写したにすぎません!」
ロゼがぷるぷる震えて止まらない。
「ちなみに、ルーナさん。前世とか、来世とか、輪廻転生とか、そういうのって信じますか?」
「はい!」
――だって、私がそうですから。と小さな声でヒロインちゃんが言ったのを俺は聞き逃さなかった。
ヒロインちゃんは憧れの世界に転生した――お嬢が創ったゲームを知っているということは、同じ時代から来たのだろう。
そしてわかったことが一つ。
このヒロインちゃんは、お嬢の代表作『星の乙女は魔法の靴で導かれる』を複写して読み返すほど、熱狂的な大ファンであること。
俺はこのまま『うちのお嬢も転生してるんですよ~』とバラすか、ロゼには黙って、転生していることをヒロインに伝えるか悩んだ。
前者の場合、ロゼとヒロインが意気投合して、ワクワクしながら今後について話し合えるかもしれない。
その場合、俺がいつもしていたお嬢との作戦会議時間がなくなってしまう恐れがある。
二人きりで世界について考察する。二人だけの空間と時間に、ヒロインちゃんが入り込む。……邪魔でしかない。
後者の場合は『味方かわからないから、黙っておきましょうぜ』とお嬢を言いくるめればいい。そして、俺とヒロインが一対一で話す。
今後についてや、ロゼが破滅しないための方法を語り合うのである。
どちらがロゼにとって幸せか考える。きっと前者だろう。
話相手ができたと、喜ぶだろう。
ただ、まだヒロインちゃんの性格の見極めができていない。
俺やロゼの言うことをきちんと理解してくれるタイプなのか、それとも憧れの世界に転生して、物語通りに話を進めたいタイプなのか……。
なら、まずは後者から試してみよう。
彼女を見極めてから、大丈夫ならロゼに打ち明ける。
頭がお花畑になっている子であるのなら、ロゼに危害を与える前に潰しておくべきだ。
「ちなみに、どういうところが好きなんですか?」
「えぇっと、やっぱり夢が溢れているところですわ。それに文章や表現力もすごく美しくて、何度も何度も読み返してるんです! 端から端まで愛が溢れていて……って、あぁ、ロマンス小説をこんなに語ってしまうなんて、はしたないですかね、私」
「いえいえ、どんどん語ってくださいな」
うちのロゼが恥ずかしさのあまりにダンゴムシのように丸くなっている。はしたなく足を椅子の上にあげて、丸くなっている。
――きっと彼女としては、この場から消え去りたい。という感じだろう。
もう頃合いだろう。
「おや、お嬢。どうかしましたか?」
「……ちょっと、体調が」
「そりゃ大変。ルーナさん、お嬢を私室につれていきますので、今日はこの辺りで」
「あ、はい。わかりました」
俺は肩でお嬢を担いで、部屋まで連れて帰った。
私室でカモミールティ飲むロゼ。
ロゼの顔は夕日のように真っ赤に染まっていた。
「……ねぇ、アッシュ。今までの世界でもヒロインはあんな感じだったの?」
「それだったら俺は事前にお嬢に伝えますよ」
「そうよね。でも……あれって、やっぱり……私と同じ異世界転生者じゃないかしら」
「俺もそう思います」
「はぁ……」
ロゼはくらっと机から落ちそうになった。
俺は慌てて彼女を支える。
ふと額に手を当てると――熱い。
「お嬢、ひとまず今日は寝てくださいな。熱もあるみたいですし、体調が本当に悪いようです。あとで医者も呼びますので」
「……うん」
風邪の時のロゼは素直だ。
ロゼをお姫様だっこして、ベッドに寝転ばせる。布団もかけて、額には魔法で創った氷を当てておく。
俺はロゼが寝ている間にヒロインの元へ行こうと考えていた。
ヒロインちゃんが『味方』――つまり、お嬢の破滅を防いでくれるのに協力してくれるのなら、二人で話し合いをしたい。
その逆、『敵』――シナリオを優先し、お嬢が没落しようと死亡しようと構わないというのなら――俺は早いうちから、ヴィンセント経緯で彼女を消す。
「ねぇ、アッシュ……」
「なんですか? お嬢」
「……今日は、その、そばにいて。どこにもいかないでほしいわ」
「はい。もちろん。ずっと側に居ますよ」
「子守唄も歌ってくれる?」
「お嬢が望むのなら、いくらでも」
「……ふふ、アッシュ、大好き……」
ロゼは布団から手を出してきた。俺はその手を握りしめる。
大好きの意味はきっと、家族として大好きという意味だろう。
細くて、小さくて、熱い。
そんな彼女の頼れる相手は今は、俺しか居ない。
ヒロインちゃんの元へ行く計画は先延ばしにした。
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