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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第三章 魔法学園編】
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星の乙女は魔法の靴で導かれる(8)SideR

 今日も朝早くから、アッシュは私に紅茶を淹れてくれる。

 この世界に転生してよかったと思うところは、アッシュの淹れたお茶が飲めることだ。


「いい香り。何のお茶かしら?」

「今日はダージリンのファーストフラッシュを取り寄せていたので、それを用意しました。摘みたての茶葉なんで、いつもよりも新鮮な味になりますぜ」

「へぇ……」


 ……なんとなく思っていたけど、アッシュって結構『茶葉オタク』だなぁ。

 いつも紅茶やハーブティーのことになったら、ぺらぺらと流暢に喋るようになる。

 でも、そんなアッシュだからこそ、毎日極上のお茶を主に振る舞うことができるんだろうな。


「……なんだか、アッシュの淹れてくれるお茶を飲んでいると、いつも魔法にかけられた気分になれるわ」


 最初に目覚めた時もハーブティを振る舞ってくれて、落ち着くことができたっけ。


「まぁ、実は魔法をかけてるんですよ」

「え? ほんとにかけてたの?」

「まぁ、子ども騙しみたいなもんです。飲んでくれる人が幸せになれるように、愛情を込めて、頭の中で詩をうたってるんです」


「へぇ、どんな詩?」

「朝起きたとき、お嬢の髪が爆発してませんように~って」

「し、失礼ね! くせ毛だけど雨の日以外は爆発しないもん!」


 アッシュはいつも私に魔法という名前の勇気をかけてくれる。

 私が何かを怖いと思った時、いつも側にいてくれた。

 そして悪役令嬢として破滅する――そんな運命の私に、なんやかんや言いながらついてきてくれている。


 アッシュは私の対面に座って、自分で淹れた紅茶を飲む。

「うん、ちょうどよくできてる」

 どうやら淹れた本人も満足な出来のようだ。


「ねぇ、アッシュ。――なんで貴方はいつも側にいてくれるの?」

 私はふと思ってアッシュに尋ねた。


 アッシュはカチンと固まってしまった。

 そして深い深い深い溜め息をついた。


「はぁぁああ……それを俺に聞きますか。あぁーはいはい、そうですか」

「だ、だって、私といても良いことなんてないじゃない。シナリオの強制力が強いなら、私はいつか破滅するわ。貴方を巻き込んでしまうかもしれないし……」

「うーーーーーーーん」

 アッシュは腕を組んで、天を仰ぐ。

 なんだろう。すごく呆れられているような気がする。


「……貴方が俺を助けてくれたからですよ」


 とてもとても小さな声で、アッシュは呟いた。


「……助けた?」

「なーんて。お転婆おっちょこちょいなお嬢のフォローに振り回されてる俺が、お嬢に助けられるなんて、流れ星が頭に直撃するくらい天文学的に有りえませんけどね」

「もう。そうやっていつもはぐらかす」


 私は頬を膨らませた。

 アッシュは深くため息をついて、また一口紅茶を含む。

 そして――

「いつか、気づいてくれればいいですよ。俺はいつでもどこまでも本気ですから」

 と、真剣な声で言った。



 今日のお昼こそ、ルーナとお話をする。そして仲良くなる!

 きっと主人公と仲良くしていれば、他の攻略対象のフラグを潰しやすいはずだから。

「……でも、昨日みたいになったらどうしよう」

 私は隣に座るアッシュに語りかけた。

「まぁ、そんときはそんときっすね」

「フォローしてくれる?」

「お嬢がチューしてくれるなら」

「あほあほあほあほ」

 私がけなすと、アッシュはケラケラ笑った。

 本当にこの従者は、主人をからかうのが好きみたいだ。


 そして私は待ち合わせ場所の中庭へ向かおうと、立ち上がった時――

「やぁ」

 ひょいっと私の教室にフェリックスが現れた。


「で、殿下。どうしたんですか?」

「いや、僕の愛しい婚約者が、ちゃんと学園生活を送れているか気になってね」

「またまた、お上手で」

 アッシュもフェリックスもエドワードも、この世界の男性はみんな気軽に『愛おしい』とか言ってくる。


 挨拶のような文化なんだろうなぁ。

 ……うん、まぁ、私がそういうシナリオを書いたんだけど。対ヒロインだけじゃなく、他の女性にも使うような文化になってるなんて思わなかった、


 フェリックスの突然の登場で、教室中で女生徒の黄色い声が響き渡る。

「で、殿下。貴方は目立ちますので……」

「うん。わかってるよ」

 フェリックスは笑顔のままだ。

 周りの声に動じていない。さすが王子様だわ。


「ちょっとだけ話があるんだけど……」

 と、フェリックスはちらっと私の後ろに視線を向けた。

「あー、お嬢お嬢。お昼に先約ありましたよねー」

「そ、そうだけど……」


 ルーナとの約束がある。でもここでフェリックスをないがしろにしてもいいのか。

 だってフェリックスは王子よ? 流石に先約がありますので~おほほ~と逃げる度胸はない。

「おや、相変わらずだね。アッシュ。いつも僕の婚約者を守ってくれてありがとう」

「いえいえ、殿下。俺の義妹ですから、守って当然ですよ」


 なんだか二人の視線がバチバチしている。火花が飛び散りそうだわ。


「あ、あの、フェリックス殿下。それで、用というのは……」


「あぁ、すぐ終わる話だよ。内容によっては長引くかもしれないけど――場所を移そうか?」


「そうですわね。ここでは人目がありますし……」

 女生徒、男子生徒、みんなの憧れであるフェリックス殿下。

 そんな彼が婚約者と話している内容なんて、そりゃ気になるわよね。


 フェリックスに案内されたのは、生徒会室だった。

 そういえばフェリックス、生徒会長だったっけ。

 中には誰もいない。フェリックスと、私と――アッシュが中に入る。


「おや、アッシュ。君は誘っていないんですけど」

「お嬢の護衛ですから。万が一のことがあったとき、俺は義妹と貴方を守らないといけませんので」

「僕の魔力なら並大抵の刺客は寄せ付けないよ?」

「並大抵じゃない刺客が来たときに、俺が対応しますので」


 ……なんだかいつも思うけど、この二人、とても仲が悪い。


「フェリックス殿下。あの……お話というのは……」

「ああ、そうだったね」

 フェリックスはぽんっと思い出したように、手を叩いた。

「先日、ウォーカーJrと話をしているところを、僕の騎士――レオナルドが見かけたようでして……彼に関して、女性関係であまり良い噂を聞かないから、気になってね」


 あぁ、エドワードのことか。

 確かに彼は出会ってすぐの時は、チャラ男だった。


 けれど話しているうちに、初恋をずっと抱えているピュアな青年になっていた。


「エドワード様とは良き友人として関わっておりますわ」

「なにか触れられたりなどは……」

「髪に少々……それくらいですわ。エドワード様もここ三日ほど女性遊びが落ち着いたと聞きますし……」

「つまり、エドワードとは何もなかったってことだね?」

「はい」

「じゃあこれで、話はおしまいだ。ごめんね。足を止めてしまって。

「いいえ。でもまた御用がありましたら。事前に連絡を入れてくださいませ。生徒の皆さんが驚いてしまいますわ」

「そうだね。ごめん。じゃあ、ローゼリアもお昼に先約があったんでしたっけ?」

「えぇ、そうなんです。なので、申し訳ございませんが、そちらに向かわせていただきますわ」

 エドワードは仕方ないね、と肩をすくめた。


「あぁ、どうしよう。もうこんな時間。お昼ごはんなんて食べている暇ないわ! それに、もうルーナはご飯を食べ終わってるだろうし……今更行っても――」

「仕方ないですねぇ、お嬢」

 そう言って、アッシュは私を抱きかかえた。所謂お姫様だっこというやつだ。

「えっ!? えっ!?」

「お嬢の短い足じゃ授業始まっちゃいますぜ」

「短いは余計だわ!」

 そんな軽口を叩いて――アッシュは唱えた

「《転移》」

 すると、あっという間に中庭についた。

 中庭に――ヒロインの姿はなかった。


「やっぱりそうよね……」

 肩を落とす私、ちょいちょいと、アッシュが原っぱの方を指差す。

 彼女はそこで眠っていた。お弁当箱と一冊の本を抱きしめて。


「ルーナ、ル―ナ。そのままじゃ風邪をひいちゃいますわ」

 私は彼女の肩をゆする。

「……おはよ、う……ございます……――って、え! ローゼリア様!」

「ごめんなさい。約束を守れなくて……」

「いえいえ、ローゼリア様が気落ちすることではないです。

 午後の授業なんてサボっちゃいましょう。ローゼリア様とお茶会をしたいですわ!」


 こうして、私とルーナとアッシュはお茶会を開くことになった。


「ところで、ルーナ、本を持っているけれど、読書が好きなの?」

「えっと……はい。哲学とか魔法学の話とかではないんですが……すごく面白くて」

「えっ! どんなお話?」

 私はテ―ブルに乗り上げて聞いた。

 そしてアッシュに抱っこされ、ベンチへ降ろされた。


 ルーナは頬を赤く染め、きらきらとした瞳をもっとキラキラとさせていた。


「『星の乙女は魔法の靴で導かれる』というラブロマンス小説ですわ!」


 私とアッシュは盛大に紅茶を吹き出した。


やっとこさ折返しのような気がします。

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