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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第三章 魔法学園編】
30/78

星の乙女は魔法の靴で導かれる(7)SideR

 私は今日、ヒロインに話しかける。

『一緒にご飯を食べない?』と誘うのだ!

 正直、喉から心臓が飛び出そうなほどドキドキしていた。

 終業の鐘がなる。

 お昼の時間だ。


「……ねぇ、アッシュ。一昨日みたいに貴方が誘ってくれない?」

「いやです」

 にっこりと爽やかな笑顔で断られた。


 そわそわして勇気を振り絞って立ち上がった時――もうヒロインの姿は教室になかった。

「……一足遅かったっすね」

「早く教えてよ!」


 あぁ、そういえば、お弁当イベント……シナリオにあった気がする。

 ヒロインが中庭でお弁当を食べていたら『庶民の食べ物はまずそうね』とローゼリアが吐き捨てるのだ。


 そしてお弁当をひっくり返して「あら、ごめんあそばせ」と言って去っていく。

 ローゼリア、酷い子だわ。

 私はアッシュを連れて、中庭に向かった。


 そしてシナリオの通り、ヒロインは中庭のベンチに腰掛けて、お弁当を広げていた。


「……~ふん、ふふ~ん……」

 鼻歌を歌いながら、ご飯の用意をするヒロイン。


「いただきます」

 彼女は両手を合わせた。そして箸を手に持ち、ご飯を食べ始めた。

――ん? 箸?


「ほらほら、お嬢。ヒロインちゃん食べ始めちゃいましたよ。どうするんすか?」

「……こ、声をかけに行くわ」

 私はアッシュの腕にしがみついていた。心と身体は反対に動いている。

「そんな震えながら言わなくても……」


「ねぇ、アッシュ――」

「だめです」

「まだ何も言ってないのに!」

「どうせヒロインちゃんに話しかけてって言いたいんでしょ?」

「……うん」

 私はしょぼんとうなだれた。


 アッシュは、私の目線に合わせるようにしゃがみこんで、ポンポンと頭をなでてくれてた。やっとお願いを聞いてくれるのかしら、と顔をあげる。


 そこには満面の笑みのアッシュがいて――


「頑張りましょっか」

「……はい」


「お嬢って行動力化け物だったのに、年々小心者になっていきますね」

「……うるさい」

 絶対に協力してくれないらしい。

 もうアッシュに甘えるのはやめよう。


 ……って、よく考えたらアッシュに甘えたら、前みたいなご褒美を要求されるかもしれないし。

 うん、そう考えたら自分で行ったほうがいいわよね。


『はじめまして、ルーナさん。私はローゼリア。同じクラスですし、一緒にご飯を食べませんか?』

『はじめまして。ルーナさん、ローゼリアと申します。一緒にランチはいかが?』


 頭の中で何度も何度も練習をする。

 よし、いける!


 私はヒロイン――ルーナの前に立った。


「……えと、あっ……ローゼリア様……?」

 ルーナが驚いた目で見てくる。

 私の名前、知っていたんだ。

 出鼻をくじかれて、私の頭は真っ白になった。


「……おーっほほほ!」


 とりあえず笑いでごまかす。


 ……あれ?


「貴方が例の庶民の子ね。新入生代表になったからって調子にのらないでくださいな」


――おかしい。


「私のフェリックス殿下に熱い目線を送って。さすがは庶民。下賤だこと」


 ちがう。私はこんなことを言いたいんじゃない。


 ()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なぁに。そのランチ。庶民って貧相なものを食べるのね」

「……あの、ローゼリア様……」

「何? 気安く名前を呼ばないでくださる?」

「――泣いてますよ」


 ルーナはお弁当を置いて、そっと私にハンカチを差し伸べてくれた。


 言いたくない、人を傷つける言葉を紡いで……それが自分で抑えられなくて。

 身体と心がバラバラに動いて、私の頬には涙が伝っていた。


「な、なによ、庶民のくせに!」


 私はそう言いながらハンカチを取ろうと手を伸ばした――のに、()()()()()()()()()、ルーナの手をはたき落としていた。

 どうしてこうなるの?

 ()()()()()()()()()()

 エドワードは怪盗という役割を降りられたのに、ローゼリアはやっぱり悪役令嬢なの?


 その時、そっと腰を抱かれた。

「こんにちは、ルーナ嬢。昨日に続いて来てしまいました」

「あ……アッシュ!?」

 私はアッシュに担がれた。


「どうやらウチの義妹が君とランチを食べたいみたいで。……一緒にどうかな?」

「え……ローゼリア様が……?」

 ルーナは驚いた目で私を見ている。

「……是非とも」

 そう言って、ヒロインは花のように微笑んだ。

 目を奪われそうなくらい美しい笑みだった。流石ヒロイン。

 アッシュのフォローのおかげで、彼女をランチに誘えたけど、私は最低なことを言ってしまった。

 今すぐに逃げ出したいのに、アッシュに抱えられてるから逃げられない。


 三人でベンチは狭いということで、中庭の四阿(あずまや)でご飯に移動した。


「……先程は失礼いたしましたわ」

 私はアッシュの注いでくれたアップルティーをすすりながら、謝罪をした。


「い、いえっ! 私なんかに謝らないでください! ローゼリア様は……あく、ごほん……お嬢様ですし」


「――?」

 なんだか違和感がある。

 でもそれがはっきりしない。


「どうぞ」

 アッシュがルーナに紅茶を渡す。何故かルーナはビクッと肩を震わせた。


「大丈夫ですよ。ただのアップルティーです」

 大丈夫って何のことかしら。

 そういえば、私の知らないところでルーナとアッシュは接触しているし、二人の間に何かがあったのかも。


 ……って、そんなことを考えている場合じゃないわ。

 私はまだほとんど喋っていない。

 でも口を開くと、また悪役としての口調で話してしまいそうで、怖くて手が震えた。

 アッシュが私の横に座る。


 私達のランチはアッシュ特製のサンドウィッチ。


 ルーナと私+アッシュが向かいあう形で座った。

 アッシュは机の下――ルーナに見えない位置で、手を握っていてくれた。

 それが勇気になった。


「……あの、ルーナさん。さっきは本当にごめんなさい」

「い、いえ! 本当に気にしないでください! 庶民なのは変わりないですし」

「いいえ、身分は関係ないわ。ここは学園だもの」

 アッシュに手を繋いでもらっているからだろうか、私は正直にお話をすることができた。


――けれども昼休みには時間制限がある。

 ほとんど会話をしないまま、私達はご飯を食べて、教室に戻らないといけなくなった。

 お弁当箱をクロスに収めて、ルーナは立ち上がる。


「……あの、ローゼリア様に、アッシュ様」

「な、なんですか?」

「明日も、一緒にご飯を食べませんか? ひとりだと、寂しいので」

 ルーナは寂しそうな笑みを浮かべて言った。

 しゅんっとうさぎのような目で見つめてくる。


――うっ、断れない。


「し……仕方がないわね! 明日も一緒に食べてあげるわ!」

 私の口からは、やっぱり小生意気な言葉しか出なかった。

 

 夕方――

 授業が終わり、私とアッシュは私室に戻った。


「お嬢、どうしたんです? びくびくしながら結局声をかけられなくて俺に泣きついてくるんだと思って期待してたんですけど」


「……わからないの。なんであんなに悪役口調で話してしまったのか、あんな酷い言葉をかけてしまったのか……」

 手が震える。

 自分が自分でなくなってしまうような……あのままあそこにいたら、どうなってたんだろう。


「たしかにいつものお嬢じゃなかったっすね。いつもなら庶民とか言わないのに」

「そう。……なんだか、無理やり言わされている感じがしたわ」


「でも、最後は謝れたじゃないですか」

「うん。謝れてよかった……だけど、私、これからもルーナの前に立つと、あんな感じになっちゃうのかしら」


「……世界の強制力ってやつですかね」

「前の世界の私はどうだった?」


「おんなじ感じです。おほほほ高笑いをして、いつも裏で落ち込んでましたね」

「でも、エドワードは役を降りることができたわ。それなら、私だって――」


「……まぁ、ヒロインちゃんは明日も一緒に食べてくれるって言ってますし、今日は寝ましょうぜ」


 と言って、いそいそとアッシュはベッドに入った――私のベッドに。


「何勝手に入ってるの?」

「いやぁ、お嬢がしょぼんとしてるから、お義兄(にい)ちゃんとして一緒に寝て慰めてあげようと思って」

「都合のいいときに義兄(あに)の立場を利用しないでよ! 私をいくつだと思ってるのよ! そんな(とし)じゃないわ!」

「未だに(キッド)に話しかける精神年齢ですけどね」

「んもぉっ!」

 私は地団駄を踏んだ。


――ふと、身体の震えが収まっていることに気がついた。

 アッシュは彼なりに励ましてくれようとしたのかしら。おかげでいつものペースに戻れた。


「ありがとう、アッシュ」

「え? なんですか?」

「えっと、その、ふざけて励ましてくれたんでしょ。だから、そのお礼」

「……え?」

 アッシュは呆然としている。

「……一緒に寝ようって言ってるのは、本気ですけど」

「寝るわけないでしょ! ばか!」


 こうして夜は更けていった。もちろんアッシュは自分の部屋に戻ったし、私は自分のベッドでキッドと一緒に眠った。


「ねぇ、キッド、明日はちゃんと話しかけられるかしら」

『ロゼならきっとだいじょうぶだよ!』

「ありがとう、キッド。大好き!」

 ぎゅっとキッドを抱きしめていたら、眠りの波が来て……私はそのまま意識を手放した。

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