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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第三章 魔法学園編】
29/78

星の乙女は魔法の靴で導かれる(6)SideR

 翌日の夕方、人が居なくなった教室で、私とエドワードは話をすることになった。

 ――もちろん、保護者同席の上で。


「うちのお嬢にお触りは禁止っすからね」


 まるで番犬のようにガルガルしているアッシュ。

 とりあえず彼はそのままにしておこう。


「えっと、貴方はエドワードよね。昔に会った」

「そうだ。このハンカチが証拠だよ」


 昨日のエドワードとは全く違う。

 目尻は垂れて、柔らかい雰囲気だ。優しく微笑んで私にハンカチを渡してきた。


「……うん。うちの家紋だわ」

 私はアッシュにハンカチを渡す。

「間違いないっすね」

 アッシュも同意した。ダブルチェックも完了した。


「……あの、エドワード」

「なんだい? 昔みたいにエドって呼んでくれていいんだよ?」


「えっと……それはちょっと……私は一応王子の婚約者だから、周りから変な噂を立てられたらちょっと困るし……」


「あぁ――そうだったね」

 エドワードの声が低くなる。

 落ち込んでいるんだろうか。なんとなくそんな気がした。


「でも、二人っきりのときはエドって呼んでくれて構わないんだよ?」

 エドワードは笑顔で言うけど、います。保護者います。保護者めちゃくちゃ睨んでます。


「えっと、エドワード。あの、聞きたいことがあるの」

「なんだい? 君の言う事ならなんでも聞くよ?」


 甘い声でささやくように言うエドワード。色気がすごい。

 そういえばエドワードはちょっとお色気なキャラにしたような気がする。

 世間を騒がす怪盗だから、色気はあったほうがいいかなと思って創ったんだった。


――まさかその色気を直接浴びるとは思わなかったけれど。

「あの、貴方は『ルーナ・アリス・ハリソン』って子のこと知ってる?」


「……あぁ。新入生の挨拶をしていた子だね。銀色の綺麗な子だった――あっ、いや、君のほうが綺麗だよ?」

 いや、そのフォローはいらないんだけども……。


「貴方はルーナに会ったことはない?」

「うん。ないね」

 エドワードはきっぱりと否定した。私は戸惑いを隠せなかった。


「あんなに目立つ子なら、忘れるわけがないよ」

「……たしかに目立つ子ではあるわね」


――ってことは、やっぱりエドワードの幼馴染は私なの?

 汗がダラダラと流れる。

 いや、良いことなのかもしれない。

 だってヒロインがフラグを立てる前に、根こそぎ引っこ抜いたようなものだもの。


「ねぇ、エドワード、貴方は昨日『怪盗』ってワードに反応したけど……」


「あぁ、怪盗ね。()()()()()()()()()()()()()()


「え? えええええええ!?」


 衝撃的な事実だった。

 怪盗キャラが怪盗を辞めてしまっていた!?

 私は令嬢だということを忘れて、大声を出してしまった。


「ど、どうして……?」

「うーん。どうしてというか、必要がなくなったんだよ。僕の祖父や父は確かに怪盗だった。でも――」

「気分が削がれちゃったとか?」

「……ううん。そうじゃないんだ。今、怪盗をする必要がなくなったんだよ」

「え……?」


 ますます意味がわからない。

 怪盗をする必要って何?

 エドワードの家は義賊だから、お金を目的に怪盗をしているわけじゃない、わよね。


「もしかしたら僕の子孫は、祖先の意思を受け継ぐかもしれない。でも、今は必要がないんだ」

「どうして?」

「うーん。なんて言えばいいんだろうね。()()()()()()()()()


 悪役がいない?


「僕の家系は、貧しい人達から奪われた金品や絵画を取り返すために動いていた。けれど、今の世はおかしくてね。傍若無人な貴族がいないんだ」


「……そんなことってあるの?」


「僕も最初は思ったよ。でも、民のために動かない、私財を肥やすだけの貴族がみんな改心するんだ。――うーん。いや、改心とは違うなぁ。痛い目を見たっていう言葉が一番合うのかもしれない」


「つまり、エドワードがするはずだった、悪役貴族をぎゃふんとさせる役割を他の人がやっている……のかしら?」


「僕はそうだと思う。だとしたら、裏社会が関わってると思うんだけど……そこまではわからないや」

「いいえ。情報をありがとう」


 シナリオが違う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()


 一体誰に……?

 あぁ、もう頭がこんがりそうだわ。


「とりあえず、エドワードは怪盗じゃないってことね」

「そうだね」

 エドワードはニコッと微笑んで、私の髪の一房に触れて、キスを落とした

「でも、君の心を盗む怪盗になりたいな」

「……結構です」 


 ぐふっ……。

 ただでさえ色っぽいエドワードに言い寄られて、正直頭がいっぱいいっぱいだわ。


「ありがとう、エドワード。どうかこれからも良き友人として仲良くしてくれると嬉しいわ」

 私はお辞儀をして、その場を去った。

 エドワードは止めようとしていたけれど、アッシュに阻まれていた。


 私室に戻り、ベッドに寝転ぶ。

「あぁ~わけわからないわぁ~。ここは私の創った世界じゃないの?」

 アッシュがベッドの端に腰掛ける。


「お嬢自身はどう思います?」

「……私の創った世界(ゲーム)だと思う。でも、シナリオがちょこちょこ違うわ」

「まぁ、お嬢がイレギュラーな動きをしてますしね。10歳の時からエドワードくんを口説いていたなんて、俺は知らなかったですし」


 なんか、ちょっとアッシュは拗ねた様子で言った。


「……私も昨日思い出したレベルだもん」

 エドワードと会ったことがあったなんて。しかも10歳の頃に1回。忘れているに決まってる。


「でも、いい収穫じゃないっすか?」

「なにがよ。今後のシナリオの想定が全くできなくなっちゃったわ」

「でも、それってつまり、筋書きが絶対じゃなくなったって証拠じゃないっすか」


 アッシュに言われて、はっとした。


「確かにそうだわ。エドワードが怪盗の役割から降りれたのなら、私も悪役令嬢の役割を降りれるかも……?」


「まぁ、元々お嬢は悪役って感じじゃないですし。背は小さいから、小動物がきゃんきゃんなにか言ってるようにしか感じねぇですよ」

「――その無礼な言葉は聞き流してあげるわ。

 でも、ゲーム内のローゼリアは160cmはあるはずなの。なのに、私はまだ150cmもない……これもそのシナリオ改変のせいなのかしら」


「俺は小さいお嬢も可愛いと思いますけどねぇ」

 アッシュはニコニコ笑っていた。


――そうだ。一番この世界に詳しい人がここにいるじゃないか。


「ねぇ、アッシュ。繰り返し前の私は、もうちょっと身長が高かった?」

「そうっすね。今より高かった気がします。胸とお尻は同じくらいですけど」

 思わず蹴り飛ばした。


「ど、どこ見てんのよ!」

「いや……そこは男のサガなので許してくだせぇ……」


 アッシュは一旦立ち上がり、そういえば――と顎を押さえながら考えていた。


「……なに? なにかあったの?」

「……なんだと思います?」

 ニヤリと笑うアッシュ。意地悪そうな顔をしている。


「交換条件でも持ちかけようっていうの? この私に?」

「だって、俺はお嬢に言われたとおりに、ヒロインちゃんの足止めをしたんですぜ。

 その苦労も無になったわけですけど。

 ちょっとくらいご褒美くらいくれてもいいんじゃないかなぁと」


「うーん。確かに協力してくれたのはありがたいし、これからもアッシュの手を借りることはあると思うから……わかったわ。今回だけ一個だけ、アッシュのお願いを聞いてあげる」

 

「ありがとうございます!! さすがお嬢!」

「で、要求は?」

「ほっぺにキスしてください」


 ………………。


「や、やだ!」

「なんでなんすか。昨日はしてくれたじゃないっすか」

「昨日は仕方なくよ! もー! また私をからかっているのね!」

「本気っすよ」

 アッシュは私のベッドの上に座る。私は身の危険を感じて、飛び起きて正座した。

 アッシュの眼差しは真剣だ。

 ほっぺにキス。それで彼の気が済むなら――

「んっ」


 ちゅっと、ついばむようなバードキスを頬にした。


 顔が熱い。あの時は急いでキスしたんだけど、今は正気で、私からキスをした。

 唇ではないけど、ほっぺでも十分恥ずかしい。


 しばらくうつむいたあと、アッシュの方を向いた。

 アッシュはニコニコ微笑んでいた。

「じゃあ、次は唇にしましょっか」

「一個って言ったじゃない! やだかんね!

 

 調子に乗って二個目も要求しようとしたようだ。

 はぁ、気が抜けない。


――って、キスはどうでもいいのよ。

 大事なのは、アッシュが『そういえば』と漏らしたことよ。


「で、教えてアッシュ。貴方が感じた意見を」

「ヒロインちゃんの足止めをしているときに、変な言葉を聞いたんですよ。

『こんなの……シナリオに……』って」

「……確かに、悪役令嬢の従者がヒロインを食事に誘うシナリオは無いわね」


 私は寝っ転がった。そして、天蓋に手を伸ばす。

 ……明日はヒロインを昼ごはんに誘ってみようかしら。

 なにか情報を得られるかもしれないし……。


「じゃあ、お嬢。俺はいつもどおり隣の部屋にいるんで、なんかあったら呼んでくださいな」

「はーい」


 アッシュと私の部屋は繋がっている。

 この寮は貴族専用で、主人の部屋の横に従者用の部屋がある。

 アッシュはクライン家の養子だから、貴族として自室をつかうこともできるんだけど『使用人室のほうが監視――ごほん、落ち着くんで』って言われたのだった。


 明日、ヒロインをお昼に誘ってみよう。



――余談だけど、ローゼリアとの再会をしたエドワードは女遊びを一切辞めたようだ。

 理由は『真実の愛を見つけたから』とのことらしい。


感想などをいただけると励みになります。

まだまだ続くのでよろしくおねがいします。

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