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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第三章 魔法学園編】
28/78

星の乙女は魔法の靴で導かれる(5)SideR

 エドワード・ウォーカーJr。

 怪盗。

 普段はいじめられっ子――の設定だった……はずなのに。


 噴水前に来たのは、4人の女の子を侍らかす男だった。


「あら、エドワード様。今日は私とのデートではなくて?」

「いいえ、私がエドワード様と一緒に過ごす約束をしたの」

「私は……夜のお誘いを……」


 4人の女の子はみんなくっつき虫のように男にくっついている。


――ああ、エドワードじゃないチャラ男が来たのね、と目線を逸して――もう一回振り向いた。

 いやいやいやいや! あの顔!

 私が創ったキャラクター、エドワードで間違いないわ!


「えっ? えっ? どゆこと? エドワードはいじめられっ子なキャラよ?」

「ありゃどう見てもいじめられっ子じゃないですねぇ。どう見てもナンパなチャラ男ですぜ」


「アッシュにもそう見える? 私は自分の目がおかしくなったと思ったわ」

「頭の中はいつもおかしいですけどね」

 クソ生意気な従者の顎にアッパーを食らわせた。


「……この場合、どうすればいいのかしら」

 想定外すぎて、とても困った。

 アッシュが背を屈めて、私の顔を見て話す。


「お嬢はどうするつもりだったんです?」

「いじめっ子を追い払って、説教するつもりだったわ」

「……いじめっ子は~、うーん、どこにもいないっすねぇ。帰ります?」

 エドワードはいじめられっ子じゃなかった。

 ――完。


 いやいやいや! そうじゃないわ!

 私の目的はヒロインとのフラグを折ること。


「もしかしたらここから盛大ないじめが行われるかもしれないしっ!」

「それなら生徒会とかに通報しましょうぜ……」

「まぁそうなんだけど! とりあえず、行くわ!」


「お、お嬢!?」


 アッシュが私を止めようとするけど、私は前進した。


「ごきげんよう」

 私は自分が創った怪盗キャラ――エドワードに挨拶した。


「おや。見かけない顔だね。新入生の子かな?」

「ええ。新入生のローゼリア・マリィ・クラインですわ!」

 私は堂々と胸を張って言った。

 後ろから「あちゃー……」とアッシュの嘆く声が聞こえるけど無視する。


 とりあえず、とりあえず、とりあえず! フラグを潰さないと!


 そのことで私は頭がいっぱいいっぱいだった。


「なんだい? 君も僕に用事があるのかな? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 色っぽい声で尋ねてくるエドワード。

 こんなエドワード、私は創ってない。


「エドワードさまぁ。こんなちびっ子放っておいて、近くの木陰で……ね」

「私も、私もエドワード様の寵愛を受けたいですわぁ」


 頭がくらくらした。

 私と齢の変わらない子たちなのに、制服の胸ボタンを外し、大きく露出させている。

 だ、だめ! こんな物語だったら、R指定が入っちゃう!


「エドワード・ウォーカーJr。貴方の正体を私は知ってるわ」

「くすっ、何をだい?」


 あざ笑われた! くっ!

 黒歴史黒歴史言っている私だけども、なんだかんだでこの世界にも登場人物にも愛着があった。

 このキャラとはこんな冒険をして、このキャラとはこんなやりとりをしたい、とか夢をたくさんつめこんだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私はズビシッっと指を立てて、宣言した。


「エドワード! 貴方は怪盗ね!」


 もうやけくそであった。


 その瞬間、一瞬だけど――エドワードの表情が無になった。

 そしてエドワードは絡みついている女の子たちから、すっと離れる。


 エドワードは優しくほほえみ、地に膝をつく。

 そして私の手にキスをしようと――した()()、私はアッシュに抱き寄せられた。


 そして同時にアッシュは風魔法を無詠唱で発動させようとした。

 無詠唱での発動。それは力を制御せずに、暴走させる。

 ――いわゆるバズーカのような技で……。


「うちの主に気安く――」

「ちょ、ちょっとアッシュ、ストップ、ストップよ」

「お嬢、ちょいと目をつむっててください。一瞬で終わらせますから」

「いやいやいや、アッシュの力で無詠唱発動させたら、この学園ふっとんじゃうっ!」

 私はアッシュに抱きとめられながら、必死にバタバタ抵抗した。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アッシュの顔は本気で怒っていた。


 こんなアッシュ、見たことがない。


 確かに『身長は小さいけれど、うん、発育はとてもいいね』なんて下心満載の言葉を言われたけれど、私は特に気にしていない。


 まぁ、身長が小さいのは悪役令嬢としての威厳が薄くなりそうで、気にはしているけども。


 どうしよう。こんなにも怒っているアッシュをどう収めればいいのか……。

 とりあえず気をそらさせないと!


 私はアッシュの首に腕を回して、()()()()()()()()()


 すると、暴走していたアッシュの力が、凪のように静かになった。


「――え?」

 アッシュが驚いた顔をしている。顔が真っ赤だ。耳まで赤くなってピクピクしている。


 イチかバチかだった。

 アッシュはふざけた時によく『チュウしてくれたら考え直しますぜ』なんて言ってたから、勇気を振り絞ってほっぺにしてみたのだけども……。


「ろ、ロゼ……お、お嬢……」


「お、落ち着いた?」


 彼の真っ赤な顔を見ていると、私まで恥ずかしくなる。

 落ち着かせたかっただけ。他意はない。


 でもなんでだろう。心臓の音がやけにうるさい。


「落ち着き、ました……」

 アッシュは真っ赤な顔を手のひらで隠しながら答えた。


 そして、5秒ほど無音の時間が過ぎた。

 その5秒が永遠のように感じられた。


 そしてアッシュは私をもっと抱きしめて

「やっぱり落ち着かないので、もう一回お願いします」

 なんてふざけたことを言い出したので、脇腹を蹴り飛ばした。



 発動しなかったとはいえ、風魔法を使ったあとの残骸が酷い。

 綺麗だった桜は全部散ってしまっているし、小さい木の枝が折れて、そこら中に散らばっている。


 そして問題のエドワードは、噴水に落ちて、呆然としていた。


 どうやらあの状況で、自分の周りにいる女生徒達を庇ったようだ。

 軟派なだけの男だと思ったけど、結構紳士的なところもあるじゃない……。


 私はつかつかとエドワードに近寄った。そして手を差し伸べる。


「立って頂戴」

「……は、はい」

 エドワードはなぜか敬語だった。


 私は彼を噴水から引き上げた。

 彼はびしょ濡れになってしまっている。春とはいえ、このままだと風をひいてしまう。


「《風よ》」


 私は()()()()()()()()とは違い、ちゃんとした風魔法を詠唱して、彼の服を乾かした。


 あ、間違えた。風が土埃を巻き込んでいたからか、服は乾いたけど、泥が残ったままになってしまった。先に水魔法を使えばよかった。


 私は彼にハンカチを渡した。


「これで土埃を拭ってちょうだい。私の従者が無礼を働いてごめんなさい」

「……これは」


 エドワードはハンカチをじっと見つめ、握りしめていた。

 な、何? 汚れてたかしら? 


 エドワードがバッと顔を上げる。

 その彼の顔は満開の笑顔だった。


「ロゼ……ロゼだね、君は」

「……え? えぇ。そうだけど……」

 私を愛称で呼ぶ人はあまりいない。


 彼は片手でハンカチを握りしめながら、ポケットから布――ハンカチを取り出した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な、なんで同じものを?」

「あぁ、本当にロゼなんだね。よかった、もう一度巡り会えて。もう二度と出会えないかと思った」


 エドワードが私を抱きしめようとする――が、やっぱりアッシュに阻止された。

 アッシュは私を強く抱きしめる。


「あんた、うちの(あるじ)の何なんだ」

「覚えてないかい? ()()()、街の東通りの端で――」


 はて。5年前。

 5年前といえば、転生を自覚した私が、よく外をうろうろしていた頃だ。

 そういえば、やたらと身なりの整った男の子が、平民街の裏通りでいじめられていて……。


「あ……」


 思い出した。あの時のいじめられっ子だ。

 よく顔を見る。笑顔に面影が少しある。


「あぁ、本当にもう一度巡り会えるなんて。ロゼ、俺は君を愛し――」


 その瞬間、アッシュの物理的な蹴りが、彼の顔面を蹴り飛ばした。


「魔法はだめなら、物理ならいいかなとおもいまして」

 アッシュはとぼけて言う。


――待って。今の私の頭は大混乱状態だ。

 ヒロイン――ルーナは平民街の街角でいじめられていたエドワードを助けて、エドワードはずっと彼女を想っていた。

 ……でも、えっと、あれ?

 いまの感じだと……()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 『……正直、エドワードルートはヒロインが10歳の頃に会ってるのよ

 二人は幼馴染で、彼はヒロインが好きなの。

 ヒロインが入学したときに気づくのよねぇ……』

 昨日の夜に話した言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。


 幼い頃、助けてもらったヒロイン――じゃなく、私からのハンカチを返したいと思いながら、ずっと持っている。まさに王道な出会い。


 つまり――フラグを折ろうと思っていたら、フラグをヒロインから掻っ攫っていたようでした。まる。


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