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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第三章 魔法学園編】
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星の乙女は魔法の靴で導かれる(1)SideR

 15歳、春。

 とうとうこの日がやってきた。私が魔法学園に入学する日が。

 そして、今から私の創った乙女ゲーム

 『星の乙女は魔法の靴で導かれる』の物語が始まる――


「おろろろろろろろろろろろ」

 私は自室の洗面台で吐いていた。

 とうとう始まってしまった学園生活。逃げることは出来ない。

 ハッピーエンドもバッドエンドも、どちらにせよローゼリアは破滅してしまう。


 その時、洗面室の外から、トントンのノック音が聞こえた。


「お嬢、そろそろ行く時間ですぜ」

「うぷっ……わかったわ。……もうちょっと待って、すぐ出るから……」


 私はふらふらになりながら、洗面室を出た。

 アッシュは魔法学園の制服をぴっちり着ている。

 一方、私は髪はぼさぼさ、服もまともに着れていない。


「仕方ないなぁ、お嬢は」

 そう言って、アッシュは私の髪に触れて編み込みをしてくれた。

 服は自分で着ると言って、再び私は洗面室に入った。


 私がこれから進学するグリモア魔法学園は、貴族の子や、平民の中でも特に秀でた才能を持つ子たちが通うところだ。

 貴族の生徒には、従者を一人連れていくことができる。

 私はアニーを連れて行く気満々だった。


 けれど、それをアッシュがぶち壊しにした。

『俺がお嬢――こほん、可愛い義妹の従者の代わりをするので、大丈夫です』

 と、お父様とお母様の前で、堂々と言い放ったのだ。


 私は二人が反対すると思っていた。

 けれど、二人の反応は

『まぁ、アッシュなら大丈夫ね』

『いままでもそうだったしな。うむ』

――であった。

 アニーが良い! と私は年甲斐もなく駄々をこねたのだけれど、アニー自身から『お嬢様のお転婆っぷりをフォローできるのは、アッシュ様くらいしかいませんので』と断られてしまった。

 まさに今までの行いが祟ってしまった。

 脱走して外に出たりするんじゃなかった。



 空は雲ひとつ無い晴天。

 門の色はゴッテゴテの金色。緑の木がたくさん生い茂っていて、その先には大きな古城のような学園があった。

「う゛……」

「お嬢、どうしたんです? 蛙の首を締めたような声出てましたぜ?」

「この背景……見たことある……」


 ゲーム内でめちゃくちゃ見た。門構えも、木の生い茂り方も、学園も。

 こんなにもゲーム通りだとは思わなかった。


 私の後ろから、ぞろぞろと人が入ってくる。

 女性は赤を基調としたチェックのジャンパースカート。

 男性は青を基調としたチェックのズボンを履いている。


 これも、私の設定通りだ。

 今までも黒歴史を見つけては「ぐふっ」とダメージを受ける生活をしていたけれど、この学園は私の精神にダイレクトアタックだわ。


「ローゼリア嬢」

 その時、聞き覚えのある声が降ってきた。

 上を見上げると、そこにはフェリックス王子がいた。

 彼は私よりも二年先に入学していた。


「お、おひさしゅうございます。フィリックス殿下」

 私はスカートをつまんで、小さくお辞儀をした。

「そんな。学園にいるうちの身分は平等だ。僕のことも気軽にフェリックスと呼んでくれていいですよ」

「そ、そんなこと、できませんわ! いままで殿下で慣れてきました……し……」

 慌てて顔を上げる。

 その先には――騎士がいた。


――あ。


 私は固まった。


 赤い短髪。目元に古傷がある。

 服装は騎士団の服とは違い、少しラフなものだったけど。

――私はこの人を知っている。


 レオナルド・テオ・クラーク。

 代々王家に仕える騎士団の男。

 基本的に無口で敬語で堅物キャラ。ヒロインに自分から手を触れないし、触れる前に許可をとるほど、ちょうど真面目な人物。


 そう。彼は『星靴』の攻略対象の騎士。


「あ、ローゼリア嬢。彼は僕の側近でレオナルドだよ。基本的に無口で表情は固いけど、悪い人じゃないから安心してね」

 フェリックス殿下はそう言ったけども――

 うわっ、正面から見れない。私の設定したキャラが二人立っている。


 レオナルドは膝をつき、私の手にキスをした。

「王子の婚約者ということは、我が主同然です。何かございましたら、いつでも手助けいたします」

 丁寧な口調で語るレオナルド。声が低めで、ちょっとぞくっとした。

 そうか。自作ゲームの時は予算や諸々の関係上、キャラクターにボイスをつけることができなかった。

 レオナルドはこういう声なんだ。すごい、声イケメン。


 ぽーっと立っていた私の腰に、アッシュの腕が回った。


「失礼致しました。王子。義妹はまだ世間知らずなものでして」

「お久しぶりです。アッシュ。相変わらず……ですね」

 王子はにこっと笑ってごまかした。

 相変わらず『……』って何!?


「……って、こんなところで立ち止まってたら、他の生徒の邪魔になるわ!」

 ぞろぞろと入ってくる入学生たち。

 まず貴族が入り、その後ろから平民出身の子が来る予定だ。

 貴族と平民の数は、100分の1といったところかしら。


「そうですね。これからは学園で気兼ねなく会えますし、残念ながら用事がございまして」

 そう言って、フェリックス王子はにっこり微笑んで、かっこよく去っていった。

 騎士――レオナルドも丁寧なお辞儀をして、フェリックスの跡を追った。


「……攻略対象、どーでしたか?」

 アッシュが私に手を差し出す。私は手をとって、答えた。

「声って……結構萌えるのね……」

「なるほど。お嬢の好きな声は、あんな感じの堅物声だと」

「いや、別にそういうわけではないわ。良い声だけど、好みや推すかっていわれると、うーんってなっちゃうし」

「んーならよかったです!」


 アッシュは笑顔を浮かべていた。

 何故か胸元に手を入れていた。胸元には護身用の剣が入っているはずだけど……。

 いや、私の返答次第で決闘とかならなかったわよ……ね?


 ふと、周りを見たら誰もいなかった。

 しまった、ヒロインを見逃してしまった!


 このまま私の学園生活はどうなるのだろう。

 歯車は少しずつ狂っているようだけど……果たして。


 私は楽しみと、不安と、黒歴史を暴かれる羞恥心でドキドキする胸を抑えながら、学園内へ向かった。


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