真の悪役(仮)育成日記(11)SideR
やっとこさ日常サイドです。
――二年後。
私はようやく12歳になった。
王子は月に1度顔を出すし、いつも『綺麗』とか『貴方以外の女性はいない』とか、褒めてくれるけれど、最終的にこの人が選ぶのはヒロインだし……と思いながら、おほほ、と流してきた
一方アッシュは、15歳になった。
本来、魔術を持つものは15歳で魔法学園に入ることが義務付けられている。
魔法学園は15歳から入学し、寮に入り、春、夏、冬の長期休み以外では学園内にいなければならない。
でなければ、魔力を持つ者が自分の力をコントロール出来ずに暴走してしまったり、引きこもってしまったりする。
そして何より、国側も魔力を持つ者を把握し、管理しやすい。
魔力を持つものは、潜在的に力があるが――その大きさは人それぞれ。
ただ、1%でも可能性があれば、本人の努力次第で数値を増幅できる。
特に思春期は暴走しやすい――らしいんだけど。
「俺は繰り返し前――つまりお嬢が目覚める前、既に13でしたからね。軽ぅく断りましたぜ」
「え? なんで? 魔法学校に行ったら将来安定よ」
「俺はお嬢と一緒にいる時間が長いほうが嬉しいですし、今が楽しければそれでいい主義なんで」
と、にっこりごまかされてしまった。
――というか、そんなに断れるものなのかしら。
国の管理下に置かれた魔法鑑定は、協会で行われる。
これは貴族のみの間で行われる。
王都にある協会で、鑑定士が大々的にステータスを公開するのだ。
鑑定士を名乗る老人は、白い髭を長く伸ばしていた。
魔法使い映画に出てくる学園長に似てるな……とぼんやり思った。
「ローゼリア・マリィ・クライン公爵令嬢。
貴方は魔力を使用することができます」
……はい。知っています。
めちゃくちゃ色々魔法を使いましたので。
クライン家の付添から王家の人々までが、見守る中、私はそっとアッシュに目配せをした。
アッシュは人の群れの奥の奥の奥にいたけれど、気持ちは届いたらしい。
ウインクで返してきた。
……うぜ。
「では、ステータス公開を行う」
老人は羊皮紙を持ち、大きな声で宣誓した。
「ローゼリア・マリィ・クライン公爵令嬢
ステータスは
空魔法:適合率20%
風魔法:適合率10%
火魔法:適合率10%
水魔法:適合率10%
地魔法:適合率10%
光魔法:適合率0%
闇魔法:適合率0%
HP:150
MP:200
ふむ……さすがは第一王子の婚約者様。大変優秀でございますな」
老人は羊皮紙を見ながら、ほむほむと納得している。
2年前、アッシュに告げられたステータスとは違う。
――そう。私はステータスを偽装する魔法をアッシュにかけてもらったのだ。
ゲームのローゼリアのステータスと同じものにした。
これで三年後、私は王都にあるグリモア学園に入学することになった。
◆
屋敷に戻った私は、お父様に思いっきり抱きしめられた。
「さすが我が娘。ほぼ全てに適合している万能型なんて、なかなかいないぞ」
お父様は大きな手で私の頭をなでてくれた。
「ほんと、いつもお転婆で手を焼いていたけれど、無事学園に入学できるのね! さすが私の娘よ、ロゼ」
お母様まで私をぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。
「本当に、一時はどうなるかと思ったわ。あぁ、アッシュがいてくれたおかげで、このお転婆娘も抑制できたから、ほんと齢の近い従者をつけるのはいいことね」
なるほど。
そういう理由でアッシュが私専属の従者になっていたのか。
「ところで、アッシュ」
お母様は口元を扇子で覆いながら言う。
「はい」
「そろそろ言ってもいいかしら」
「奥様の思うがままに」
アッシュはにっこりと微笑んだ。
……な、なに? なんか怖い。
「では、旦那様」
「……うむ。心して聞け。我がクライン家は、アッシュ・ウィル・ヴォルフガングを養子に迎える」
……。
………………。
…………………………………………はい?
思考が停止した。
どういうこと? アッシュが我が家の養子に?
そんな設定ない……というか、アッシュについてはそこまで詳細に設定を詰めていないから、私が把握できていないだけなのか?
「い、いつから……?」
「彼がこの屋敷に来た時から考えていたんだぞ。幸いロゼとの仲も良かったし――」
「……もう、私は懐妊できませんので」
お母様は悲しそうに笑った。
母は産後の肥立ちが悪く、私の出産以来、体調を壊しやすくなった。
そして、新しい子を産むことができなくなっていたのだ。
つまり、クライン家に嫡男が居ない。
後継者がいないのはどうするんだろうと思っていたけど、まさか、まさかアッシュが義兄になるなんて……!?
「と、いうことで、これからは俺のことをお義兄ちゃんって言っていいんですぜ」
にっこりスマイルのアッシュ。邪悪なスマイルだ。
「しんでもいやよ」
私はパニックで震えながら、ちょっと涙目になりつつ答えた。
◆
「どどどどどどどどどどどどどどういうことなの!?」
私はアッシュの襟首を持って、前後に揺らす。
「おおおお、お嬢、そこまでぐいぐい振られると、頭がシェイクされちまいます」
「私の頭の中はもうシェイク状態よ! 一体どういうことなの!?」
背伸びをして、アッシュに目線を合わせる。
アッシュはここ二年でとても大きくなった。身長だって伸びたし、体格だってどんどん男性っぽくなってきている。
「な、何が起こってるの? 説明を要求するわ」
「お嬢、俺はいまやお嬢と対等な立場ですぜ?」
「……ぐ、ぐぬぬっ」
確かに、そうだ。くそぉ。私は歯を食いしばった。
アッシュは私の部屋のソファーに偉そうに腰掛けた。
「はい、お嬢。お義兄様って呼んでくださいな?」
「ぜっっっっっっっっったいに呼ばない! アッシュはアッシュだもの!」
「あー、本当のステータスをお義父様とお義母様に教えようかなぁ~」
「……うっ、あ、アッ……シュお義兄様っ!」
「ぐふっ」
……アッシュは何故か顔を手で覆い、口元を隠した。
手の隙間から見えるけど、にやけてやがる。
「何考えてるのよ。養子になるなんて。というか、それも計画していたわけ?」
「いえ、最初はそのつもりはなかったんですが――ちなみにヴォルフガング家はクライン家の遠縁ですよ。
まぁいろいろ考えて、我が妹の身を守るためには、俺も肩書をつけたほうがいいかなぁと」
「わ、我が妹……!?」
寒気がする。
「これが、これから一生、私はアッシュをお義兄様なんて呼ばないといけないの!?」
「俺とお嬢の仲じゃないですか。今まで通りでいいっすよ。お嬢は俺を呼び捨てで。俺は貴方をお嬢と呼びますし」
「……よかった」
脂汗が出るところだった。
「俺は名前が変わろうが、家が変わろうが、貴方だけに忠誠を誓いますぜ」
「それは……これまで通りの主従関係ってこと?」
「そうっすね。俺もそれが一番楽しいんで」
アッシュはにっこり笑った。本当にそれでいいらしい。
「で、お嬢。俺は貴方の学園生活についていきます。従者としてではなく、生徒として」
「……へ?」
確かに、これでアッシュは貴族の一員だ。
ステータス公開はごまかしたようだけど、
私が入学する三年後にステータスをもう一度測れば、魔法学園への入学は容易くなる。
私の中で、アッシュの印象が『ちゃらい』『いじわる』『たまに頼れる』『義兄』になった。
というか、学園生活始まる前から、シナリオクラッシュしすぎじゃない!?
どうなるの? 私の学園生活! そしてどうなるの? 私の未来!
◆
「……これで、従者だけじゃなくて、義兄って肩書が増えたから……
お嬢、俺のことを恋愛対象として見てくれるかな」
なんだかんだで昔の従者に萌えない発言を気にしているアッシュだった。
これにて第二章終了です。
第三章から学園編です。
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