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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第二章 悪役誕生編 幼年期】
20/78

真の悪役(仮)育成日記(10)SideR

9/5 17:21に書き直しました。内容も少々変わっています。

 本日はアッシュとデザートを食べる日だー!

 いつも目覚めは頭が痛かったけれど、今日に限っては、前兆すらない。


「お嬢様、入りますぜ」

 アニーとアッシュが一緒に部屋に入ってきた。

 アッシュの手元には、丁寧に畳まれた服がある。


「お嬢様、アッシュが従者ということはわかりました。ですが、彼もまだ齢13歳です。完全に安心しきってはいけませんよ! 市井にはいい人がたくさんいますが、恐ろしい人だっていますから!」


 アニーはぷんぷんと怒りながら、一緒に入場したアッシュを、犬でも払うようにしっしと動かしていた。

 アッシュはへいへい、と言いながら廊下を出た。


 ――アッシュの服装はいつもより庶民的だった。

 ブラウンの帽子。白いシャツにサスペンダー。そして、短パン!

 前世の私、グッジョブとなった。


「……準備致しました」

 アニーがそっと部屋を出る。

 私は丁寧に髪を編み込まれ、偽装用に付けることになった。



 ジェラート屋が来るのは市井の東にある公園。

 噴水が溢れ、色とりどりの花が咲く綺麗な公園だった。

 ボランティアの人がここまで手入れしているらしいが、ほぉ、と俺は感心した。


「んん~~~~~っ! おいしい! こんなおいしいジェラートはじめてぇ~」


 アッシュが案内してくれたジェラート屋さんは、ほっぺたが落ちそうなほど美味しかっ

た。木陰のベンチに、アッシュが布を敷いてくれた。その上に座る。


「おう、お嬢ちゃん、良い食べっぷりだね。どうだい? こっちの苺のジェラートも」


 ジェラートの職人が苺味のジェラートが入ったカップを渡してくれる。


「えっ、もらえるんですか? えっ、ええっと……」

「お嬢、好意ですし、いただきましょう。

「……はい、ありがとうございます」


 私は正直に出されたジェラートを受け取った。

 苺味は甘酸っぱい。苺――というよりもラズベリーに近い感じがする。

 たまに身の感触が残っていて、それがまたシャキっと新しい触感を生み出してくれる。


「ン~~~っ! たまらない!」

 はしたないとわかってながら、私はほっぺに手を置いて、足をバタバタと動かした。


「ちなみに、お嬢、俺のこっちはレモン味なんですよ」


 ニヤリ、とアッシュが笑う。

 まだ他の味も食べたい。酸っぱい系……どんな感じなんだろう。


「あぁ……レモン味も良さそう……」

「ひとくち、食べてみません――か……」

 私は一瞬でかぶりついた。

 アッシュはあんぐりとした顔をしている。自分から言いだしたくせに。


 そして頬が軽く赤くなっていた。

 どうして? アイスを食べているのに……暑いのかしら。


「この……ド天然。コホン、じゃあ、お嬢のも食べたいです。一口くださいな?」


 アッシュは顔を赤くしながらそう言った。

 そうよね。私もアッシュから一口分もらったんだもの。

 その分お返ししないとフェアじゃないわ。


「じゃあ、ちょっとだけよ。あーん」


 私はスプーンで、アイスを掬った。

 アッシュは少しびっくりした顔をした。

 けれど、そのあとすぐにぱくっと口に入れてくれた。


「……お嬢、なんだかこれって――」

「お嬢ちゃんたち、なんだ? 恋人同士なのか? 似合ってるぜ~。こっちまで当てられて暑くなっちまう」

 

 恋人同士?


 私とアッシュは主と従者で、今日だってジェラートを食べに来ただけで、えっと、えっと、でも私がアッシュのジェラートを食べたのも、アッシュに『あーん』してあげたのも……よく考えたら、少女漫画でよくあるシチュエーションだわ!


「ちちち、ちがいます。アッシュも首を立てに振らないで。おねがいよ。あわ、あわわ」


「俺は本気なんですけどね」

 アッシュはおちゃらけたような感じで店主に弁明していた。


「な、何言ってのよ! ば、ばかばかーーー!!!!」


 冷たいジェラートを食べたばかりなのに、身体の中はなぜか火照っていた。



――その時、公園広場から詩が聞こえてきた。

 噴水の音で少し隠れていたけど、優しく丁寧で、綺麗な音色だった。


 私はトコトコ歩いて、その音の元へ向かった。

「おーい、お嬢。公園から出ないでくださいよ」

「わかってるわよー」

 なんだか私、わんちゃん扱いされてない?

 ちょっとイラッとしたけど、いつものことだ。


 音の流れてくる場所に向かって――Uターンした。

 ダッシュでアッシュの元に戻る。

 え、うそ。えぇえ……。なんで、なんでなんで――!?


「アッシュ! アッシュ! アッシュ!」

 私はアッシュにしがみついた。

 そうしたら、そっとアッシュが私を抱きしめ返してきて、私はタックルをして、その腕から逃れた。


「ぐふっ。なんですかいお嬢。いきなり……」

「大変なの!」

「そうですね。お嬢のお世話で俺はいつも大変です」

「ありがとう。って、そうじゃなくて、出たのよ!」

「毛虫ですか?」

「違うわ! ――吟遊詩人よ!」

 

 覚えている

 あの人、私の描いた吟遊詩人のキャラに、とっても似てる。

 ゲーム開始時よりも前だから、少し若いけど、うん、絶対にそう。


 線が細くて、煙になって消えてしまいそうなほど、繊細な人。

 ゲーム上では幽霊のような存在だ、と表記した気がする。

 確かにそのとおりだった。


「吟遊詩人って、別にお嬢の破滅には関わらないんっすよね?」

「ええ。ヒロインが勝手に恋に落ちて、勝手に旅に出るから。地位や権力のドロドロは起こらないし……」

「じゃあ、放っておいていいんでは?」

「うん。そうなんだけど……ちょっと気になるから、一緒についてきてくれない?」

「――気になる? 何が気になるんですか? お嬢」

 アッシュの黄金の瞳がスッと細くなる。声が低い。なんだろう。ちょっと怒っている?


 ここは変にごまかさずに言おう。


「自キャラが動くのを見てみたいの!」

「……そんなキラキラした目で見ないでくだせぇ……わーりました、わかりました」

 

 アッシュはふぅ、と息を吐いていた。

 そんな彼の右肩を無理やり持ち上げ、一緒に吟遊詩人のもとへ向かった。


 吟遊詩人はこの街のことや、外の世界の詩を歌う。

 そこには私の知らない世界――通称設定が詰めきれていない世界――があるらしい。


「いつか、行ってみたいわ」

 ぼそり、と私は呟いていた。


 悪役も、令嬢も、世界も、何もかもの権力を脱ぎ捨てて、自由になれたら――


「……いや、そうなったらお金を稼ぐための社畜ライフがまた始まるのかも」


 クライン家が貴族だったから感覚が麻痺していたけれど、外に出たら自力で稼がなければいけない。それこそ睡眠時間をごりごり削らないといけないかもしれない。


 その時、すっと吟遊詩人が立ち上がり、私の顎に触れた。

 すらりと整った顔が、こちらを見つめている。


 チャキッと金属のこすれる音が横――アッシュのいる方から聞こえた。

 私は前を向けば良いのか横を向けば良いのか戸惑った。


「……変だね」

 吟遊詩人は眉を潜めて言った。


「隣の従者の君も変だ。ぐるぐると、廻っている。自覚ある分も、ない分もあるみたいだけど……10や20じゃない。100は軽く超えている……」


 吟遊詩人は私から離れた。

 アッシュはまだ胸元に隠している短剣から手を離さない。


「アッシュ、いいわ。きっと危害を加える気はないでしょう。刃物も持ってないし」

「でも――……ちくしょう。お嬢に簡単に触れやがって」

 アッシュはイラッとした声でなにかぼそっと呟いていた。


「それは、どういうことでしょう?」

 私が尋ねると、吟遊詩人はふっと、笑って何も答えなかった。


「ボクが語るのは詩だけだよ。あとは君たち自身で思い出せばいい」


 そう言って、吟遊詩人はなにも語ってくれず、楽器を収納して公園から立ち去っていった。


「お嬢」

 アッシュが濡れたハンカチで私の顎と手を入念に拭った。


「な、なによ」

「消毒です」

「ちょっと触れただけじゃない」

「ちょっと!?」


 アッシュは驚きの声を上げる。


「お嬢。いいですか? まだお嬢は子どもだから許されます。ですけど、でーすーけども、もうちょっと周りの感情を汲み取ってください」


「……?」

 アッシュの言っている意味がわからなくて、私はきょとんとした。


 するとまた、アッシュがはぁとため息を吐いた。


『ぐるぐると、廻っている。自覚ある分も、ない分もあるみたいだけど……10や20じゃない。100は軽く超えている……』


 彼の残した言葉が頭に残って離れない。




 私たちは日が落ちる前に屋敷に戻った。

 数字は何の意味を持つの?

 廻る――はきっと繰り返しのこと。

 それじゃあ、10や20じゃなく、100は超えている――ってことは。

 アッシュは7回ループをしたと言っていた。


 もしかして、自覚がないだけで、それ以上ループをしている、とか?

 今回の私みたいに、繰り返しのときに、記憶を失くした可能性も十分にありえる。


 私は考えられることを全て紙に書き出した。


「フローチャートを整理するわ」

「……また新しい言葉を」

「簡単にいえば分岐管理ね」


 そもそも何故私は記憶を失ったんだろう。

 そして、何故この繰り返しは起こっているのだろう。


 大きな羊皮紙にフローチャートを細かく書いたけど、やっぱりわからなかった。


「ねぇ、アッシュ」

「ふぁ……なんでぃ、お嬢」

 気づけば夜2時になっていた。アッシュはソファーで寝転んでいる。おい従者。

「……ちょっと興奮して寝付けそうにないの。夜の話し相手、付き合ってくれない?」


 だらけきっていたアッシュは、ぴょんっと飛び上がった。


 そして、本当に嬉しいみたいに、へらっと笑った。


「勿論ですとも!」

寝る前に書いたので文章がめためたでした。10時-17時までにご閲覧頂いた方、申し訳ございません。

評価や、感想お待ちしております!

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