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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第二章 悪役誕生編 幼年期】
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真の悪役(仮)育成日記(9)SideA

なんと、アッシュ視点なのに※がないです。

 今日はなんといい日か。

 頑張った俺を褒めるかのように、天気は快晴。


 まだ桜は散っていないから、お嬢とお花見もできる。

 桜の咲く季節は短い。

 だから俺は朝から餡を仕込んで、ロゼの大好きな和菓子を作った。


 今日は、この前に引き続き『桜餅』少し趣向を変えて『柏餅』も作っておいた。

 あと最近寝苦しいとロゼが愚痴っていたので、あんみつも作る。


 早くロゼの喜ぶ顔が見たい。


 俺はるんるん気分でお嬢を起こしに行った。


「お嬢、アッシュです」

「ふぁ……入っていいわよ」

 部屋に入る。いつもお嬢が座っているソファーに彼女は居なかった。


 もぞもぞと布のこすれる音がする。

 どうやらロゼは起きたてで、絹で出来た白のネグリジェを着たままだった。


「お嬢。俺だからいいんですけど……寝起きに異性を部屋に入れないほうがいいですよ」

――可愛すぎるから。

 最後の言葉はぐっと堪えた。


「……ふあぁ……そんなのわかってるわよ」

 お嬢は無防備にあくびをしながら、寝起きの低いトーンの声で答えた。

 わかっているのか、わかっていないのか。

 マナーとして理解していて、本能としては理解していないような気がする。


「おはよう」

 ロゼはにっこり微笑んだ。窓から差し込む光が、ロゼの金色の髪を更に輝かせる。

 キラキラと光る宝石のような瞳が見つめていたのは――

「――キッド」

 俺ではなくて熊だった。

『おはよう、ロゼ』

 (キッド)は略称でロゼを呼ぶ。俺ですら呼んだことがないのにっ……!

「お嬢、お嬢」


 ちょいちょい、と手招きする。

 何? とロゼは首をかしげる。


「俺にはないんですかい? おはようとか、何ならおはようのチュウとか」

「はぁ?」

 朝、低血圧なお嬢様は、ただでさえ機嫌が悪い。

 軽蔑するような目も、またゾクゾクする。好きだ。


『ロゼ、アッシュが可哀想だよ。ちゃんと朝の挨拶をして』

「そ、そうね。おはよう。アッシュ。今日も良い朝ね」

 (キッド)に説得されて、やっと朝の挨拶をしてくれた。

――やばい。

 熊に俺のポジションがとられかけている。

 今まで朝の挨拶から、夜の話し相手まで、ずっと俺がやっていた。

 いや、でも相手はただのテディベア。

 でもロゼの中で『キッド>アッシュ』になってしまったらどうしよう。


「お嬢、もう10歳なんだから、ぬいぐるみくらい卒業してくださいな。俺なら事情を知ってるからわかりますが、他の侍女から見たら正気を疑われますよ。テディベアに生命を与えるなんて、普通にできませんから」

「イマジナリーフレンドってことで通用しないかしら」

「ぼっちだから、期間が長いと」

 ぼこんと顎を殴られた。


 ロゼには『ぼっち』は地雷ワードである。

 でもその地雷を踏んで、たまに遊ぶのが楽しい。


「……でも、うん。そうね。アッシュの言う通り、キッドと話すのは侍女のいないところで、にするわ」

『さみしいよ、ロゼ』

「うっ……私も寂しいわ」


 黒々とした目がロゼを見つめている。

 ロゼはぎゅっとキッドをハグした。


 俺は見逃さなかった。

 寂しいよと、キッドが言って、ロゼがハグをした瞬間――キッドは嗤ったのだ。

 俺を見て、いいだろうと言わんばかりに。


 そして俺は気づいた。

 こいつ、キッドは排除しなければいけない敵であることを――


 俺はキッドの首元を掴み上げて、ロゼから取り上げた。


「ワタぬいたりましょうか?」

「もう、アッシュってば。キッドをいじめないでよ。この子はただのテディベアよ」

「……キッドの性別は?」

「オス」

「じゃあ寝床に入るのは禁止です」

「なんで!?」


 と、ロゼといつもの小競り合いをしていたら、侍女のアニーがやってきた。


「あら。アッシュ。もう来ていたんですね。お嬢様もおはようございます。今日の着替えを選びましょうか」

 ざっとクローゼットを開くアニー。

 ロゼを溺愛する旦那様が、商人から買い揃えた服で、クローゼットはギュウギュウだ。

 お嬢様にとって、一番の従者が俺であっても、流石に異性が着替えをすることはできない。


「このピンクなのがお嬢に似合うと思うなぁ」

「お嬢様には何でも似合います。確かに今日は桜も綺麗ですし、合わせた色にしてもいいかと」


 実はこの侍女(アニー)。ロゼのことが大好きな侍女(メイド)である。

 可愛い妹を見るような瞳で、ロゼのことをいつも見守っている。


「じゃあ、そのおすすめな色にするわ」

 ロゼはそう言って、ベッドから降りた。

 そしてキッドのことに気づいて、キッドをベッドに押し込んでいた。


「じゃあ、おねがい」

 ロゼはくるりと一回転して、アニーの前に立った。


「………………」

「………………あの、アッシュ。男性はご退室を」

「ばれましたか」


 そのまま立って、着替えを見守ろうと思ったが、流石に見逃してくれなかった。

 俺は首元を掴まれて、ひょいっと部屋から追い出された。




「んん~~~っ! この餡、本当にアッシュってば和菓子作りが上手くなったわね。和菓子職人になれるんじゃないかしら」

「お嬢は和菓子職人に恋をしますか?」

「え? 別に」


 地味に主従関係は恋愛対象にならないという前聞いたワードが胸に刺さっていたから聞いてみた。本当にどうでもいいという感じだった。


「でも、どうしても私が『悪役令嬢』になって仕立て上げられる世界になるなら、庶民になって、好きな人と恋に落ちて、その人とお店とかやってみたいわね」


 お嬢はティーカップで緑茶を飲みながら言った。

 その瞳は遠くを見ていた。


 俺は全てのルートを把握しているわけじゃない。

 ただ情報として聞いただけだ。

 五回、お嬢は破滅した。全て無残な姿で――

 俺はその末路を何度も見た。


「……どうして、お嬢はそんなに悪役令嬢をひどい目にあわせたんすか? ちょっとは救済ルートでも作ってあげたらよかったのに」

「ほんと、そうよね。今、悪役令嬢になって後悔しているわ……」

 お嬢はため息を吐いた。


「本当はね、憂さ晴らしだったのよ」

「……ほう」

 これは初めて聞く情報だ。

「このゲームを創ったとき、私はあんまり友達がいなかったし、トイレに一人で行くと影で悪口を言われたり、お弁当を食べる時もグループがうまく作れなくて、結局誰もいない情報部の部室で食べたり……女社会ってそれは本当に恐ろしいのよ」

「……はぁ」

「で、陰口を言われた時の憂さ晴らしで、嫌いな子を悪役に見立てて、悪役令嬢を創ったのよ」

「……なんというか」


 俺はうーんと腕を組んで考えて、


「ご愁傷さまです」

 と、軽く祈っといた。


 自業自得ではない。

 ロゼは特に誰も傷つけていない。ただ自分の世界に浸っていただけ。

 その世界に転生するなんて思ってもみなかっただろう。


 けれどーーこれからロゼはもっと酷い体験をするかもしれない。

 貴族社会。それを俺は別名悪口大会と思っている。


――まぁ、裏の権力を手に入れたから、これからロゼの悪口を言うやつは全員舌を切ってやっても良い。


「つまり、悪役令嬢が逃げ切るルートは、お嬢が知ってる分ではないと」

「……ええ。ぎ、吟遊詩人ルートくらいだわ」


 一番平和に解決するのは吟遊詩人ルートだろう。

 でも、俺は知っている。

 それ以外のルートを作ることができることも。


 六、七回目の繰り返しで知った。

 お嬢を閉じ込めて、俺がずっとお世話をする。


 ハッピーエンドだーーと俺は思うのだけど、繰り返し現象が起こっている。

 どうすればこの繰り返しから解放されるのか。

 それとも延々と繰り返すのが俺たちの義務なのか。


「わーい。あんみつおいしー!」


 真剣に考えていたけれど、ロゼの嬉しそうな顔を見ていたらどうでもよくなった。


 監禁していた時は幸せだったが、もしかしてロゼは幸せじゃなかったのかもしれない。


 それなら、彼女にもっと愛を与えよう。

 もっと、もっと、俺だけを見てくれるように、監禁なんて生ぬるい力技を使わずに、彼女が陥落するように。

 平和な昼はこうして過ぎ去り、お嬢は夕方は妃教育で『ひーん』と泣いていた。


 その日の夜、ロゼはぐいっと身を乗り出して俺を見た。

「ちゃんと覚えてる? 明日のこと!」

「ジェラートですね。覚えてますよ」

「ずっと楽しみにしてたんだから、えへ、えへへ……」

 ニヤニヤと笑うお嬢。


 俺もついニヤニヤと笑ってしまう。

 誰がなんと言おうと、明日は俺とロゼの初デートなのだから。


 そして夜のお供はキッドに奪われた。あの(キッド)、いつかバラす。

次回はデート回です。

あと2、3話で2章は終わると思います。


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