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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第二章 悪役誕生編 幼年期】
18/78

真の悪役(仮)育成日記(8)SideA※

※残酷な描写が一部含まれます。

苦手な方は飛ばしてください。

――四日目夜


 お嬢が家で大人しくしてくれる分には、文句はない。

 けれど、王子の奇襲や、いきなり話相手を創りだすのは想定外すぎる。


「……まぁ、お嬢のそういう破天荒なところが好きでもあるんだけど……」

 ただ、ゲームシナリオが始まるまで五年も猶予があるのに、こんなにシナリオが改変されてしまうなんて。


 俺は宿屋に向かった。

 そして、あらかじめ借りておいた部屋で着替える。

「この方法はあんまり使いたくなかったんだけどなぁ……」


 俺はそう思いながら、隣部屋のドアを開けた。




 ぽとっ、ぽとっ、……ぽと、ぽと、………ぽと……………………………………ぽとっ。


 不規則に落ちる水滴。

 ヴィンセントは意識を失うことすらできず、衰弱しきっていた。


「……あ、……なん、じ……」

「時間か? 教えねーよ。ばーか」

 ちょっと色々なことがあって(主にロゼ関係)俺の口調は、自分でもびっくりするほど荒くなってしまっていた。


「さて。それじゃあ最後の仕上げをしましょっか」

 俺はにっこり笑ってやる。もちろん腹の中では笑っていない。


「組織の最終支配権を俺に譲渡。絶対遵守の誓約をかけさせてもらう。さぁ、どうする?」


 俺の提案に、ヴィンセントは何も言わなかった。


「仕方ないなぁ。ここまで丁寧に、親切にしてあげたのに。ここで、首を縦に振ってくれていたら――被害者は増えずにすんだのに」


「…………?」


 ヴィンセントには俺がなにを行うかわからないだろう。

 俺は一旦部屋から出た。


「……まっ――」

 ドアを出る前、ヴィンセントが俺を制止する声が聞こえた。

 また次に訪れるのは、いつになるのか、拷問はいつ終わるのか――不安でたまらないのだろう。裏世界のボスとはいえ、所詮は人間。魔王なんかじゃない。



 さぁ、それじゃあ見せてもらおう。

 裏組織の王様が、無様に惨たらしく懇願する姿を――


 俺は車椅子に乗った女を連れてきた。

 ヴィンセントの目の色が変わった。

「お、お前……な、なんで……」

 怒りと悔しさが涙に変わる。

――そうだ。そうだよなぁ、ヴィンセント。


 女はヴィンセントと似た黒髪。長く伸びた髪は、うちのお嬢とは違い、サラサラのストレートだった。

 目元は布で隠しているから、前は見えないようにしている。


「……ヴィ……ヴィンス、なの? その声は、ヴィンスなの? あぁ、ヴィンス……ヴィンス」

 女は両手をぎゅっと握りしめて、ヴィンセントの声を連呼した。


「ずっと怖かったの。こうして椅子に縛り付けられて、視界を奪われて……あ、あれは……何週間前のこと、なの、かしら……」


 四日前。ヴィンセントの元を訪れる前――

 その時から彼女を監禁させてもらった。


 もし拷問でヴィンセントが、素直に『組織を譲渡する。誓約を受け入れると言ったら彼女に危害は――まぁ、監禁中以外は――与えなかっただろう。


 彼女の名前はイザベラ。ヴィンセントの腹違いの姉であり、想い人である。


 ヴィンセントルートは、想い人を失くした彼をヒロインが慰めることでフラグが立つ。


 イザベラもヴィンセントも貴族だ。

 ……けれど、世間は二人の家系が裏社会と関わりがあると知っている。

 だから誘拐されても下手に手出しをすることはない。


 ちなみにイザベラは未亡人だ。

 40も齢が違う貴族の愛妾として引き取られ、主人は数年前に死んだ。


 俺が誘拐したのは四日前。

 隠密スキルを使いながら、容易く捕獲した。


 そして数日間、俺の宿の隣の部屋で匿っていた。

 当然、逃げられないように足には枷をかけ、腕は拘束し、目隠しをしていた。

 三食与えることは難しかったので、一日二食、軽食を運んでいた。

 

 最初は震えて『ヴィンス』と、家族の名前を唱えて助けを乞うていた。けれど時間が経つにつれ、声を出すこともしなくなった。

 そして異様に音に怯えるようになった。


 例えば、かちゃりとフォークが鳴っただけで、彼女は身体を震わせた。

 風魔法で軽く風船をつくって弾けさせたら、失神した。


 視界を奪われるというのは相当恐ろしいものなのだろう。

 四日間の監禁生活で、イザベラは抜け殻のようになっていた。



 けれど周りから見たら、令嬢が一人消えただけ。

 そんな彼女を心配する者は、昔の知り合いか、家族ぐらいだろう。

 


「……だめだよ、お兄さん。裏の世界にいるなら、大事なものは全部手元に持っておかないと」


 俺はヴィンセントを嘲笑った。

 その瞳は絶望に染まっていた。


「さぁ、どうする? ヴィンセント」

 俺は彼女のうなじに刃物を押し当てる。

「おっと、イザベラ嬢。震えないでくださいね。大きく動いたら――大事な身体に傷がついちゃいますぜ」

「――わかった。従う!……っ、従うから……どうか姉上は……!」


「その言葉を待っていました」


 魂を揺すぶられるほど絶望した時――魔法が発動する。

 俺はヴィンセントの魂に呪いを刻み込んだ。


 こうして、念願の闇の組織を支配する最高権威は、俺のもとに入った。


 ヴィンセントは解放した。誓約を結んだから、もう彼は俺に歯向かうことはできない。

そして、巻き込んだイザベラ嬢には回復魔法を与えた。


 ゲーム開始時には、イザベラ嬢は病に伏せ、生命を落としている。

 だから、今、その病を治してみせた。

 お嬢が見せたように生命を与えるまで偉大なことはできないが、回復くらいは操ることができる。


 これで『姉を失くした心の穴を、ヒロインが埋める』ことから始めるヴィンセントルートの芽は完膚なきまでに潰しきった。


 ヴィンセントは――男はまぁいいや。回復に力を使う必要ない。

 勝手に回復するだろう。


「じゃあ、俺はこれで。何かあれば、連絡はこちらに――」


 そして長きにわたる拷問は終わった。

 俺は屋敷を後にして、クライン屋敷に戻った。


「明後日がデートで、明日はロゼとなにをしようか」


 久しぶりにロゼと過ごせる。


「……また破天荒なことをしないように、見張っとかないと……なぁ……」


 俺はため息をついた。

 ロゼと過ごせるのは楽しみだけど、問題は山積みだった。


※ラブコメです。

いつになれば魔法学園に行けるのか、またいつになれば真ヒロインが現れるのか……。

あと数話で二章は終わりです。たぶん。

感想お待ちしております。大変励みになります!

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