98.年寄りのお茶会
作業小屋まで来ると…
「トム爺さん、いる〜?」
「おう、いるぞー。入っておいでー。」
そう言われて、3人で小屋の中に入る。
初めて入る作業小屋は、6畳ぐらいの大きさで壁面の棚には庭師で必要な農機具など置いてある。
「あっ、大旦那様に大奥様まで……。こんな所まで一体どうなさったんで?」
小屋の中央に、丸太を切っただけの椅子に腰掛けて作業をしていたトムは、お祖父様達もいることを確認し慌てて立ち上がる。
「あぁー、そのままで構わんよ。用があるのはジョアンでワシらは興味があって付いて来たまでじゃ。」
「そうですか?こんな物しかありませんが、どうぞお座り下さい。」
と、自分が座っていたのと同じような丸太を差し出す。そこに、私はストレージから小さな座布団を出して丸太にのせる。
「あら、ありがとう。これもジョアンちゃんの手作り?」
「はい。中に要らなくなったタオルとか詰めた簡単な物になりますけど。あっ、トム爺さんもどうぞ。」
「良いんですかい?お嬢様。ワシまでこんな良い物頂いて。」
「作ったもの使わなきゃ意味ないもの。ぜひ使って!というか、トム爺さんここでの作業寒くないの?」
作業小屋は全く暖房設備がなく、隙間風が時折り入ってくる所だった。
「まぁあ、寒いが作業小屋だしなぁ。そういうもんだろう?」
「ん〜。あっ、そうだ。灰と炭ってある?」
「ん?あるぞ?……ここだ。どのぐらい必要なんだ?」
「えーっとね……あっ、この口の欠けた鉢って使っても良い?」
と、小屋の隅に置かれた直径45cmぐらいの鉢を指さす。
「あぁ、構わんが?」
「じゃあ、底の穴を塞いで灰を入れて、真ん中に炭を置く。で、火をつけるんだけどーー」
「ジョアンちゃん、火は任せて。」
そう言って、お祖母様は指先に火を灯す。
「おぉ、これは暖かいなぁ〜。」
お祖父様が即席の火鉢に手を翳す。
「意外と暖まるもんねぇ〜。これは前世で使っていたの?」
「はい。換気は必要ですけど暖かいですよね?前世でも暖房設備は充実していたんですけど、この火鉢は風流なのと便利だったので使ってました。」
「風流なのはわかるが、便利とは?」
と、トム爺さん。
「ここに、五徳を置けばお湯を沸かしたり、お酒を温めたり、網を置いてスルメを焼いたり、餅を焼いたりして食べるの。」
「……スルメやら餅は知らんが、酒を温めて飲むのは良いな。」
と、お祖父様。
「んで、あっしに用事とは?」
「あっ、はい。トム爺さん、高血圧って言ってましたよね?それで、高血圧改善になる食べ物作ってみたんですけど…。」
と、干し芋をストレージから出す。
「ん?コレは一体なんだ?」
「蒸かし芋をドライフルーツにした物だよ。前世でも高血圧改善の効果があるから、作ってみたの。」
そう言って、3人に干し芋を渡す。
モグッ。
「「美味い!!」」
「ええ、くどくない甘味が良いわねぇ。」
3人にも高評価みたいね。
「あっ、干し芋はこのままでも美味しいけど、軽く炙っても美味しいのよ。」
「おっ、じゃあ網が必要じゃな。トム、網はあるかい?」
「はい。確かこの辺に……ありました。」
火鉢の上に網をのせて、その上に干し芋を置く。
「もう、このぐらいで良いと思います。」
トム爺さんに網から外して貰い、みんなで食べる。
「あちっ。うん、また違った美味さがあるのぉ。」
「えぇ、私は炙った方が好きね。」
「ワシも、この方が好きだな。」
喜んでもらえて良かったぁ〜。
これで高血圧改善になれば良いけど、サーチの結果だと大丈夫かしらねぇ〜。
「はい、紅茶をどうぞ。」
ストレージから、ホットストレートティーを出して3人に渡す。
「いや〜、至れり尽くせりじゃなぁ〜。」
と、お祖父様。
「本当に。まだ幼いのにここまで気がきくのは凄いですな。こうして大旦那様や大奥様とお茶するのも久しぶりだし、お嬢様がいても何の違和感もない。孫とお茶をしてると言うより、まるで同世代とお茶をしているようですなぁ。いや、これはお嬢様に失礼でしたな。わははは。」
と、トム爺さん。
「「「……。」」」
まるで同世代…今の精神年齢が60代だから、あながち間違っていないわねぇ〜。そりゃあ、お祖父様もお祖母様も、否定しようがなくて何も言えないわよねぇ〜。
今回作った干し芋は、トム爺さんに全て渡した。
トム爺さんは遠慮していたけれど、奥さんのザーラさんにも食べさせて欲しいと言うと、じゃあと言いながら渋々受け取ってくれた。
そして火鉢を使用する時は、必ず換気をする事を念を押して作業小屋を後にした。
火鉢も良いけど、やっぱり日本人としてはコタツが欲しいわよねぇ〜。昔は電気コタツじゃなくて、豆炭使っていたから異世界でも何か応用出来そうだけど……豆炭の交換が面倒なのよねぇ〜。
あとで、お父様にどうにか出来ないか聞いて見ましょうかねぇ〜。
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