87.街へ in 木工工房
「すみません。」
木工工房に着き、ノエル兄様が近くにいた職人に言う。
「えっ、あっ…はい、いらっしゃいませ。どの様なご用件でしょう?」
「ランペイル家のノエルと申しますが、ガンさんかダニエルさんはご在宅でしょうか?」
「りょ、領主様の。はい、少々お待ち下さい。」
そう言って、奥に走っていく職人。
「なっ、ノエルみたいに挨拶すれば、さっきみたいな事にならないんだぞ。」
と、アラン兄様に言われる。
「「「は〜い。」」」
ジーン兄様、ヴィー、私は返事をするが
「お前たち、返事したら良いと思ってるだろ?」
そう言われて、3人は目を逸らす。
「お待たせ致しましたー。」
そう言って、やってきたのはダニエルさんだった。
「先触れもなく申し訳ありません。年末のご挨拶をと思いまして。」
と、ノエル兄様。
「いえいえ、ありがとうございます。何のお構いも出来ませんが、よろしければ自宅の方へどうぞ。ガンもおりますので。」
案内されて、住居部分に入る。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。」
ガンさんに迎え入れられる。
そこにはガンさんの他に、両親と思われる年配の男女とダニエルさんよりもガタイの良い男性がいた。
「お初にお目にかかります。ダニエルとガンの父、ジェームスです。大工の棟梁をしてます。こっちが妻のグレイス。こっちが2番目のカマロです。カマロも大工です。」
「ご丁寧にありがとうございます。私はランペイル家長男ノエル。ガンさんの同級生です。こちらが次男のジーン、長女のジョアン。こちらがロンゲスト家のアランドルフとヴィンスです。」
挨拶がひと通り終わり、紅茶を頂く。
「あの、改めましてジョアンと申します。この度は、忙しい中私の思い付きを作って頂きありがとうございます。あっ、ささやかですが、よろしければ皆さん食べて下さい。」
先程と同じように、ストレージから型抜きクッキーとナババのパウンドケーキを出して渡す。そして、個別にラッピングしたクッキーをガンさんに渡す。
「まぁまぁ、ご丁寧にありがとうございます。先日頂いたお菓子も美味しくて…しかも、ダニエルやガンから聞いたら、お嬢様が作ったって言うじゃありませんか。もうビックリしましたよ〜。お菓子だけじゃなくご飯も作れて私兵団の子達に教えてるって聞きましたよ。それでね、鍛冶屋の奥さんとも言ってたんですよー、お嬢様みたいな娘がいたら一緒に料理したり出来たのにってね。」
「ちょっ、ちょっと母さん、喋り過ぎだから。皆様、驚いてるじゃないか。」
と、ガンさん。
「うふふ、ありがとうございます。私の料理なんかで喜んで貰えたら、それだけで嬉しいです。」
「なんかだなんて、とんでもない。ジョアン様の作ったご飯は美味しかったですよ。とくに、あの卵焼き。」
と、ダニエルさんは先日食べた卵焼きを思い出す。
「そう、それ。聞いたんですけど、オムレツとどう違うのかしら?この子の説明ではわからなくて…。」
「オムレツとは作り方や味も違いますね。あっ、そうだ。ちょっと待って下さいね。……はい、これです。」
ジョアンはストレージからお弁当箱を出す。
「これは、ダニエルが作った弁当箱ってやつですか?」
と、ジェームスさんが聞く。
「はい、そうです。」
「ジョー、どうしてお弁当持ってるの?」
と、ノエル兄様は不思議そうに思う。
「えっ?だって、いつ遭難とかするかわからないじゃないですかー?」
と、さも当たり前のように言う。
「それ、どんな状況だよ。」
と、ジーン兄様が言い、その会話を聞いていた他のメンバーは苦笑する。
「ともかく、こんな感じです。」
私はお弁当箱の蓋を開ける。
「「「「おぉーーー。」」」」
ジェームスさん、グレイスさん、カマロさん、ガンさんが感嘆の声を上げる。
「すごいわ。これが卵焼き。どうやって作っているのかしら?」
と、グレイスさん。
「卵を薄く焼いて、クルクル巻いていくのを何度も繰り返すんです。あっ、よろしければ食べてみますか?」
「「「「良いんですか?」」」」
「はい、こうしてお弁当作れたのもダニエルさんのおかげですし、ガンさんにもいつもお世話になってますから。」
と、ジョアンに言われ4人で1つのお弁当を分けて食べる。
「「「美味い!!!」」」
「まぁ〜、本当美味しいわ。卵を薄く巻くなんて私には出来ないわ。」
「そんなに難しくないですよ?もし、良かったら今から作ってみます?」
「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」
「こら、ジョー。人様のお宅に来て、料理するなんて迷惑なことしない!」
と、ノエル兄様に注意される。
「いえいえ、ノエル様。迷惑だなんて……出来ることならこちらからお願いしたいです。」
と、グレイス。
「いや……でも……。(母上達にバレたら、僕が怒られるんじゃないの?)」
「ノエル兄様、お願いします。私、卵焼きの美味しさを普及したいです!それに、ちゃんと材料は持ってますから。」
「なんで材料持ってるの?」
と、ヴィー。
「えっ?だって、いつ野営するかわからないじゃない?」
「だから、なんでそんな状況になるんだよ。」
と、ジーン兄様はつっこむ。
「はぁ〜。もぉー、グレイスさんの言うこと聞くんだよ。すみません、こんな事になってしまって。」
と、ノエル兄様がジェームスさん達に頭を下げる。
「いやいや、頭を上げて下さい。こちらとしては、ありがたい事ですから。」
と、ジェームスさん。
「あの、お嬢様。よろしければ、鍛冶屋の奥さんにも声をかけて良いでしょうか?」
「はい、ぜひ!!」
「……じゃあ、俺呼んできます。」
と、マーティンさんが家に帰る。
グレイスさんと台所の方へ移動する。
「えっと、卵、砂糖、出汁、セウユ…。あと…エプロンっと。」
ストレージから必要な物をどんどん出していく。
ちなみにこのエプロンは、料理の度に真っ白になる私を思い、サラとアニーからプレゼントされた物だった。ホルターネックワンピースのような形で首後ろがリボンになっていて、ジョアンのお気に入りだ。それに合わせるのは、ジョアン特製の野菜の皮で染めた三角巾。
準備が終わった時
「すみません。お待たせしました〜。」
と、マーティンさんとマーティンの母親が到着する。
「お嬢様が料理を教えてくださるって聞いて来たんですけど…本当なんですか?」
と、マーティン母。
「はい、グレイスさんに作り方を教えようと思ったので、ぜひ一緒にどうかと思いまして。すみません、忙しかったですよね?」
「いえいえ、忙しくても大丈夫です。お嬢様のお話を聞いてたので、嬉しいです。あっ、さっき名乗ってませんでしたよね?ミシェルと言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、お願いします。」
こうして即席の料理教室が始まった。