56.お祖父様たちが来る
洗礼式から、あっという間に時がたち冬の季となっていた。
私はと言うと、相変わらず6刻前に起床。屋敷を散歩し厨房に行って朝食の準備の手伝いをする。おかげでエイブさん達のレパートリーも増えた。
平日の午前中はナンシーと訓練。今では、演習場10周、腕立て伏せ100回、足上げ腹筋100回を3セット。それに加えて片手剣の素振りを左右50回ずつ。大きさは子供サイズだが重さは通常の片手剣と同じ模造刀を使う。最初は持ち上げるのも難しかったが、今は右左どちらでも素振りができるようになった。もちろん一緒に訓練しているザックも。
午後は家庭教師のローズ叔母様から、文字の書き方、この国の歴史、マナーを習っている。
【ローズ・バリスト】
マーガレットの妹。ジョアンの叔母。
【雷】属性。
以前は王都で働いていたが、セクハラとパワハラで嫌気がさし、実家に戻って来ると聞きつけたマーガレットによって、ジョアンの家庭教師をする事となった。
週末は、時たまボディガードの兄2人と共に私兵団寮に行き、調理指導を行なっていた。
*****
学院が、冬季休みに入り兄達も帰って来た。
今日は朝から慌しい。
自室を出ると、至る所をメイドがいつも以上に丁寧に掃除をしている。
それもそのはず、先代領主夫妻、ロンゲスト伯爵家が一堂に会するからだった。ようするにジョアンにとっての、父方の祖父母、父方の叔母夫婦、従兄弟がやって来るということだ。
いつも通り厨房へ行く。
「おっはよー」
「おう、おはよう。お嬢」
「あれ?エイブさん、1人?他の2人は?」
「あー、寝坊だな。昨日、私兵団の奴らと呑んでたみたいだからな」
「あはは、そうなんだ。それでエイブさんだけなのね。あっ、リップルティー飲む?」
そう言いながら、ストレージから出す。
「おう、頂くよ。昨日、こそこそ作ってたやつだろ?」
「あれ?バレてた?そう、昨日作ってたやつ。温かいのだけど……はい、どうぞ」
「おう、もう寒いからな。助かるよ。……うん、リップルの香りが鼻から抜けて良いな」
「リップルを水で煮て、そのお湯で紅茶入れただけなんだけどね」
「あっそういや、明日の昼前に商人が来るぞ。一緒に商品見るか?」
「本当?見る見るー」
「じゃあ、来たら教えるな」
「よろしく〜。あっ、そう言えば、エイブさんはお祖父様達に会ったことあるんでしょ?」
「あぁ、もちろんあるぞ」
「どんな人達なの?」
「大旦那は豪快な人だな。俺と同じぐらいのデカさで元魔物討伐団団長で大剣使いだったよ。今でも鍛錬は欠かさないって言ってたから、俺でも勝てねーかもな」
「エイブさんより強いの?」
「あー強いぞ。大剣に雷纏わせてぶった斬るからな」
「何それ?怖っ。お祖母様は?」
「………怖い」
「は?」
「元王妃様付きの近衛隊だったんだが、レイピア捌きが上手いんだ。大旦那と同じように、レイピアに炎を纏わせるんだ。旦那とグレイさんと俺は、よく怒られて演習場で張り倒されてた」
「マジで!?超カッコいい!!私も訓練してもらえるかな?」
「やめとけ、地獄みるぞ」
「そんなに?あっ、叔母様と叔父様はどんな人?」
「魔術馬鹿だな」
「えっ!?」
「ジュリエッタ様は元魔術師団の副師団長やってたんだ。結婚して辞めたんだが、高等大学院で魔術の研究をして博士号をとって、今は教授だったはず。旦那のギルバート様は王宮で文官をしてるが、同じように魔術が好きすぎる」
「あぁー、似た者夫婦ってこと?」
「間違いなくな。その子供達はまともだったはず」
「えーっと、私の従兄弟?」
「あー、そうだ。上がノエル坊の2こ上、下がジーン坊の3こ下だったぞ」
「じゃあ、私の10こ上と、3こ上だね。どんな子達だろ?仲良くなれるかな?」
「お嬢なら、大丈夫だろ?《人たらし》だからな。はっはははー」
解せぬ。
《人たらし》だなんて、誰にでも愛想よくしてるだけじゃないのぉ。
バタ、バタ、バタ。
「「遅くなりましたーー」」
2人が駆け込んでくる。
「うふふっ。おそようございます」
「えっ、あっ、ジョアン様…おは…おそようございます?」
「二日酔いとか大丈夫?」
「ちょっと痛いぐらいなんで、大丈夫っす」
「お嬢、治さなくていいぞ」
「もちろん、治すわけないじゃない。自業自得だもの。酒は呑んでも、飲まれちゃダメなんだよ?」
「「……すみません」」
「でも、これをどーぞ」
ストレージから特製スポーツドリンクを渡す。
ゴクッ。
「くーっ。コレ良いっすね」
「ん、飲んだ翌日に良い!」
「私兵団の人もやられてるかな?」
「ん?なんだ、お嬢。その飲み物持って行ってやるのか?」
「いや〜、私兵団の人には《おまじない》使おうかとーーー」
「ずりーー!!なんで、アイツらばっか?」
師匠が言う。
「だって……今日のアフタヌーンティーぐらいにお祖父様たち来るんだよ?私兵団見に行くと思わない?」
「「「あっ……」」」
「二日酔いじゃ、ヤバいでしょ?屍の山ができるよ?」
「お嬢、俺からも頼む。アイツら治してやってくれ!」
エイブさんが頭を下げる。
「うん。でも私、1人で行けないからエイブさん一緒来てくれる?」
「おう、もちろんだ」
「じゃあ、善は急げだよ。今から、行こう!」
「よし、じゃあお前ら後は頼んだぞ」
2人の所に行き
「痛いの痛いの飛んでいけー(【ファーストエイド】)。今日だけ特別ね」
「「ありがとうございます」」
2人でジョアンに頭を下げる。
そして、エイブさんに抱っこされ私兵団の寮に急いだ。




