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コミカライズ連載中【WEB版】享年82歳の異世界転生!?〜ハズレ属性でも気にしない、スキルだけで無双します〜《第11回ネット小説大賞 金賞受賞》  作者: ラクシュミー


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517.仮眠

後半は、side カズールです。

「……アン、ジョアン」

「ふぇっ?」

「ふっ。おはよう。そろそろ交代だ」


 カズール班長と呑んでいる間に、いつの間にか寝てしまったらしい。それにしても寝ぼけながら聞くカズール班長の囁き声はドキッとする。このまま、もう一度寝たら良い夢が見れそう。でも、いつもより枕が高い。枕をもう少し低くしようと、枕を押したり撫でたりしても形が変わらない。


「っ!! ちょっ、待て……ジョアン、寝ぼけるな。……起きろって」

「ん?」


 なんとか目を開けると、まだテント内は暗い。薄暗い中、ようやく意識が覚醒して気づいた。私が枕だと思っていたのは、カズール班長の膝だった。所謂、膝枕。つまり、形を変えようとサワサワと触っていたのはカズール班長の太腿だったわけだ。


「も、申し訳ありませんでした!!」

「えっ!! 何!? 魔物?」


 急いで起き上がり土下座で謝った私の声の大きさに驚いて、ヘイデンさんが飛び起きた。


「ヘイデン、違う。ジョアンが寝ぼけただけだ」

「なーんだ。焦ったわ。って、何で土下座?」

「あー……隣で寝てたら蹴られた」

「マジか。ジョアンちゃん、寝相悪いの?」


 カズール班長が、上手く誤魔化してくれたお陰でヘイデンさんには気づかれなかった。寝相悪いぐらい、痴女扱いになるよりは全然マシだ。

 

 でも、私を膝枕したことでカズール班長は眠れてないんじゃ……。


 ヘイデンさんが先にテントから出たので、再度謝り仮眠を取れなかっただろうと聞いてみた。


「大丈夫だ。これでも野営は慣れているから、どの体勢でも寝れる。気にするな」


 と、私の頭をポンポンとしてテントを出て行った。私は、タオルで口元を塞ぎ叫んだ。


「惚れてまうやろーーー!!」


 

*****



side カズール


 初めての遠征の緊張を解いてやろうと寝酒を勧めたが、早朝からの疲れもあったようで呑みながらウトウトするジョアン。それでも、グラスを離そうとしないし溢すこともしない様子に笑ってしまう。


「ジョアン、そろそろ寝るか?」

「ふぁい。ジョアン寝ましゅ。カズュール班長も寝ましょ」


 そう言うと、その場で横になってしまった。いくら初夏でも夜は冷える。さすがに放っておくことも出来ずに毛布をかけてやったが、寝袋とは違い寒いらしく縮こまって寝ている。


「はぁ、しょうがない。ヘイデンは……大丈夫そうだな」


 ヘイデンを軽く小突くと「ふがっ」と言うだけで起きる気配がない。俺は上着を脱いで普段は身内以外に見せることのない獣化をし、縮こまったジョアンを包むように横になる。


 俺は、産まれも育ちもエグザリア王国だが、祖父がアニア国出身ということもあり狼人族の血が混ざっている。しかも祖父も父も獣化出来ないにも関わらず、俺は獣化できる。初めて獣化したのは、まだ学院にも入学する前で、何がきっかけか今では不明だが家族が大騒ぎをしていたことは覚えている。祖父がアニア国のハイロー家に連絡を取って色々と調べた結果、どうやら先祖返りらしい。幼い頃は感情の揺らぎによって獣化していたが、今ではコントロールできる。しかも不思議なことに、通常の獣人が獣化する際は着ているものを脱ぐらしいが俺は服を着たままでも獣化可能だ。その際、着ている服がなくなるのだが、獣化が解けるとちゃんと服を着ている。どうなっているかは不明だ。

 でも、それもあって遠征などでは見張りをする際に獣化すると夜目もきくし、鼻だけじゃなく耳もきくようになり適している。しかも小型魔物であれば寄っては来ない。


「ん〜……。モフモフ……」

「っ!!」


 彼女が寝返りを打って無意識に俺の方に擦り寄ってきた。しかも、俺の胸元に顔を埋めてモフモフと呟いている。以前も酔った彼女が獣化した俺に抱きついて、俺の毛並みを褒めていたな。

 

 あの時も感じたが、彼女の側にいると心地が良いし彼女からとても良い香りがする。人型の時は感じないが、獣化すると鼻が利くようになる。しかし、こんなに良い香りと感じたのはジョアンだけだ。今までこんなにうっとりするような甘い香りを嗅いだことはなかった。

 獣化で添い寝をしているとはいえ、彼女の方が俺に擦り寄って来られると、彼女の良い香りに包まれているような感じだ。もっと近くで香りを嗅ぎたくなる……。


 そろそろ交代の時間となる、彼女の寝顔をヘイデンには見せたくはないから、とりあえずヘイデンよりも先に彼女を起こそう。俺は獣化を解き、起こそうと思ったが何となく悪戯心が芽生え彼女の頭を自分の膝の上に載せる。


「ジョアン、ジョアン」

「ふぇっ?」

「ふっ。おはよう。そろそろ交代だ」


 寝ぼけていても返事をするのは、騎士としては合格だな。そんな事を考えていると、彼女が俺の太腿をサワサワと触り始めた。……俺は、試されているのか?


「っ!! ちょっ、待て……ジョアン、寝ぼけるな。……起きろって」

「ん?」


 ようやく起きたジョアンは、今の状況に驚きガバッと起きると土下座をし俺に謝ってきた。その声に、ヘイデンも起き何があったのか聞いてきたので、さすがに本当のことは言えず適当に誤魔化した。

 ヘイデンがいち早く準備を終えて外に出ると、彼女が自分のせいで仮眠を取れなかったのではないかと心配してくれる。更に俺が彼女の寝相のせいにしたことは、気にしていないという。本当にこの子は優しい。


 いつもならどんな状況でも仮眠が取れるのに、今回は全く取れなかったが不思議と疲労感はない。彼女に「気にするな」と先に外に出たが、その後にテントの中から声になってない声が聞こえたようだが、人型の今は何を言っているのか聞こえない。


 でも、少しでも俺を意識してもらえたら嬉しいという気持ちはある。今までそんな感情になったことはなく、そんな気持ちになった自分を笑ってしまう。



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