5.私の愛娘 sideスタンリー
私には、5才になる娘がいる。
上の2人の子供が男の子なのもあって、少々甘やかして育ててしまった感はある。
幼いながらも、自分が中心にならないと癇癪をおこしたり、好き嫌いが激しく野菜は一切食べようとしない。
そんな娘が、洗礼式で【無】属性と判定された。
正直、ショックだった。
私は【火】属性で、爵位を継ぐまで魔物討伐団の副団長を務めていた程の実力があると、自負している。
妻のマーガレットもそうだ。彼女も、【風】属性として、結婚するまで魔術師団の副師団長を務めていた。
上の2人の子供たちも、5属性だ。
長男ノエルは、私と同じ【火】属性で。あの年で、なかなかの制御能力を持っている。このままいけば、希望している魔術師団に入れるだろう。
次男ジーンは、妻と同じ【風】属性だ。まだまだ、力を制御しきれていないが、剣術に関しては私や執事のグレイの元、日々精進している。
だから、【無】属性の判定はショックだった。
しかし判定後、ジョアンが倒れた事で、私以上に娘がショックだったことを知った。あの娘のことだ、自分のことを過大評価していたのだろう。
目覚めたら、きっと癇癪を起こすに違いない。
どうしたものか……。
翌日の昼過ぎ、娘は目覚めた。
怒るわけでもなく、泣き喚くこともなく、私たちに心配をかけた事を詫びた。しかも、今まで見た事のないような、微笑みを浮かべながらだ。
まだ、ショックが抜けていないようだった。
夕食時に、ジョアンはいつも通り遅れてやって来た。
いつもと違うのは、遅れた事に対して詫びたこと……。綺麗なカーテシーをしながら。
私は動揺を隠しながら、席に座るように促した。
食事はいつも通り、スープ、サラダ、メイン、パンだった。だが、いつもより野菜が多い。こうなると、またジョアンが騒ぎ出す。夕食ぐらい、静かに食べたいのだが……。
しかし、今夜は違った。
まず、食べる前にジョアンは『いただきます』と言っていた。どういう意味で言ったのかは不明だが……。
そして、あの野菜嫌いのジョアンが、文句一つも言わず食べてるではないか。完食はしなかったものの、今までとは大違いだ。
食事が終わり、リビングに移動する際、ジョアンがグレイに何かを話してる。やっぱり、料理に対する文句かとグレイに確認したら、残した事に対して料理人たちに代わりに謝って欲しいとのことだった。
どうした、娘よ。
頭を打って、変わってしまったのか?
リビングで、一息ついた頃を見計らい、洗礼式の件を話そうとした。
すると、ジョアンはいきなり床に頭をつけ、下女でも構わないから家においてくれと懇願してきた。
たとえ【無】属性でも、可愛い娘には変わらないのに。どうして、そこまで思い詰めてしまったのだろう。
皆に、慰められ泣き疲れたのか、私の膝の上で寝てしまった。
ジョアンの部屋に運び、ベッドに寝かせる。
月明かりの中、ジョアンの頭を撫でる。
この子が、不自由なく過ごせるようにちゃんと考えなければ……。この子の笑顔が消えないように。
「おやすみ。いい夢を」
私は、娘の部屋を出てリビングに向かった。
今後のことを、皆で考えなければ。