398.騎士団の兵舎巡り
王城騎士団には、近衛隊と第一から第三までの騎士団がある。
近衛隊は、主に王族の身辺警護だけではなく王城の内部や周囲を警備・警護する。他国の要人が来訪した際は、要人警護も行う。所属する者は、騎士科卒の伯爵以上の令息令嬢に限られている。前世でいうところの皇宮警察のようなもの。騎士服は、丈長めの白地に金刺繍。
第一騎士団は、主に王都での防衛、治安維持のために巡回警備、犯罪者の摘発などを行っている。王都に入るための門衛も第一騎士団員が行っている。前世でいうところの警察のようなもの。騎士服は、丈長めの紺色地に銀縁ーー襟や袖のカフスの端が銀色で縁取りーー。正装時は、同色のマント着用。
第二騎士団、通称、魔物討伐団。人の生活の妨げとなる魔物ーー冒険者が対応できない強い個体や、数が多い魔物ーーが出現した場合、国内あらゆる所へ討伐へ向かう。騎士服は、丈長めの黒地に金縁。それに同色のマント着用。でも、王城の式典以外でなかなか着る事はなく、基本、遠征時に着る黒色の軍服。
第三騎士団、通称、魔術師団。主に王城における結界の維持、古代語や特殊な言語で書かれている魔導書の研究を行っている。時には第二騎士団と共に魔物討伐の遠征にも行く。第三騎士団の傘下には、魔道具製作部もあり、開発や付与を行っている。騎士服は、濃紫色に銀刺繍の立襟のローブ。
近衛隊や騎士団に入団する為には、騎士科卒ーー第三騎士団は魔術師科卒ーーであれば入団試験を受けられる。騎士科の生徒であれば誰もが憧れる職業だ。
「失礼しまーす!スープをお持ちしましたー!」
「おう、ありがとよ。……ん?見ない顔だな?」
「あっ、はい!最近入りました、ショウです!」
「何なに?新人?おいおい、こんなにちっこくて細いのに大丈夫か?」
と、最初に来たのは第一騎士団の兵舎。騎士団の中で1番、人数が多いので厨房も大きい。そこの料理人達に、頭をワシャワシャとされ、二の腕を触られ揉みくちゃにされていると、アシュトンさんが助けてくれた。
「おいおい、新人なんだからほどほどにしてやってくれよ。」
出る時には、皆んなから頭をポンポンされ「頑張れよー!」と言われたので、バレていなかったようだ。
「アシュトンさん、ありがとう。」
「……もう、戻りましょうよ。俺の心臓が持たねぇ〜。」
「あははは。さぁ、次行ってみよう!」
「はぁ〜。」
次に来たのは、第二騎士団の兵舎。
知っている人がいないか、キョロキョロとしていたら年配の料理人の1人から話しかけられた。
「がっははは。なんだ、坊主キョロキョロして。騎士様見たかったのか?」
「えっ?あっ、はい。格好良いですよね!」
「まぁ、他から見たら格好良いだろうよ。俺ら普段から見てる人間からしたら……クソガキだな。」
「そうそう、好き嫌いする奴はいるし。」
「食い方汚い奴もいるしな。」
「そんなに?」
「ああ、貴族の坊ちゃんも平民と変わらないってことがわかったけどな。」
「でも、ちゃんとしてる人はいるぞ。」
「そうだな。ジーン様やエリック様は、分け隔てなく良くしてくれるよ。」
「ノア様やカズール様、ヴィンス様もたまに荷物運びを手伝ってくれるような優しい人だしな。」
「そうなんですね!」
知り合いが、好感度がいいことに私は自分のように嬉しくなった。
第三騎士団の兵舎は、他の兵舎と違って独特な匂いがした。
「ん?」
鼻をひくひくさせていると、兵舎の料理人が教えてくれた。
「あー、この匂いな。気になるだろ?誰かしら研究で薬草を使っているから、どうしても匂いが漏れるんだよな〜。」
「俺らは慣れたけど、最初は大変だったな。」
「なるほど。換気してもコレはキツいですね……。」
このまま、ここにいたら身体に匂いがうつりそう。早々に撤退しよう。
最後は、近衛隊の兵舎。王城の中でも、1番王宮に近く貴族令息令嬢が所属しているだけあって、兵舎の中もどこかの貴族の屋敷のよう。
「へぇ〜。豪華な兵舎だね〜。」
「それを貴族令嬢のジョアン様が言います?」
「だって、今まで見てきた兵舎と違うから。」
「あー、確かに。まぁ、近衛隊ですからね。」
「そんな貴族の方達にどんがら汁って受け入れられるかな?」
「……。」
近衛隊の兵舎の厨房に着くと、どんがら汁を出す。
「な、なんだ?コレは。」
「どんがら汁というメソ汁です。米に合うので、夕食はおにぎりでも作ってーー」
「持って帰れ。」
「えっ?」
「聞こえなかったのか?持って帰れ!!近衛隊がこんな物を食うか!!しかも、米だと!?あんな家畜の餌を俺達に出せというのか!!」
1人の料理人が怒鳴り散らす。
「……アシュトンさん、近衛隊では米出さないの?」
「いや、各厨房にはお試しとして配分されているはずだけど……。」
アシュトンさんと小声で話していると
「アシュトン料理長もいい加減にして下さい!いくらあなたが王宮の料理長だとしても、所詮は男爵家なんですよ。我々のような上位貴族は米なんて食べないんですよ!!」
「じゃあ、あなたはどれ程の貴族なんですか?偉いんですか?」
「んだと?平民のガキが伯爵家の俺に文句あんのか!?」
「はい!ありまーす!!」
と、片手をピンッと伸ばして答える。
「「「「っ!!」」」」
アシュトンさんが私の言葉に驚き、止めるように袖を引っ張る。が、そんなことで私は止めない!
「まず、確かに米は家畜の餌だったかも知れませんけど、今では陛下も殿下方も好んで食べることに対しても否定されるんですか?」
「そ、それは……あれだ、陛下達が米を持って来たという辺境伯の子供に忖度したんだよ。だから、表向きは好んで食べているようにしているんだ。」
「同じように近衛隊の方も食べていますけど?」
「それも、その子供に忖度しているんだ!」
「ど田舎の辺境の地では、米も食料なんだろ?」
「そうだ、そうだ!そうに違いない。あっははは。」
と、料理人達が馬鹿にしたように笑い出す。
「アシュトンさん、この中に料理長か副料理長は?」
「いや、いない。料理長は早めの年末休みで、副料理長は休憩だろう。」
「料理長も副料理長もこんな感じ?」
「いやいや、あの2人は米に対して肯定的だ。」
「じゃあ、この人達だけ?」
「ああ。このことは、ちゃんと言い聞かせるから一先ず戻ろう。」
アシュトンさんの方を見ていたこともあって、私達のことをイライラしながら睨みつけていた1人が近寄っていたのを気づかなかった。




