4.下女宣言
あの後、魂の抜けた私を、私付きのメイドのサラが着替えをさせてくれた。
5才の貴族令嬢には普通でも、82才の私には介護のような気がしてならない。サラさんよ、申し訳ない。
そして、夕食を取るためにダイニングにやって来た。
既に、両親とお兄様たちはテーブルについていて、私を待っていた。
「大変、お待たせ致しました」
綺麗なカーテシーで、挨拶をした。
映画とかでしか見たことない動作なのに、身体が勝手に動く。
転生って凄いわねぇ。
お父様、お母様、ノエル兄様は優しく微笑んでくれた。ジーン兄様は、先程の事を思い出したのか、また肩が震えてる。
「大丈夫だ。席につきなさい」
お父様に言われ、席に向かうと、執事のグレイが椅子を引いてくれる。
私が席に着くと、夕食が運ばれてきた。
異世界、初飯としてワクワクして、待っているとスープ、サラダ、メインのチキンステーキ、パン。
あら、意外と普通なのねぇ。
でも、年寄りの歯でチキンステーキなんて食べれないから、久々じゃないかしら?
「いただきます」
そう言って、食べ始め……ん?なんで、みんな、また固まってるのかしら?
おかしな事言ってないわよね?
食べる前に挨拶は、当たり前よね?
キョトンとして、首を傾けてみんなを見ると、みんなはハッとして食事を再開させた。
今の間は、何なのかしら?
まっ、取り敢えず食べましょう。
食事は、正直言うと、不味い……。
今までいかに、食に恵まれていた世界にいたことがわかったわ。
孫たちが、サプライズで作ってくれたご飯の方が、まだ美味しいかも知れないわねぇ。
スープは、薄い……。野菜たっぷりなのは、わかるわ。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎ……。
異世界でも、同じなのね。ちょっと、感動よ。
でも、薄い。
塩茹でして、そのまま出された感じだわ。
コンソメ入れるだけでも違うのに、この世界にはないのかしらね?
サラダは、レタスだけ……。緑、一色。
そこに、塩をかけただけで、ワシャ、虫か?
いくらなんでも、もう少しあるでしょう?
1番下の孫だって、プチトマトを入れてたわよ。
彩りって大事よねぇ。
メインは、チキンステーキ。食べた感じ、胸肉ね。
うん、パッサパサだ。
こりゃ、水分もっていかれるわ。
薄く小麦粉つけて焼けば、もっと柔らかくジューシーになるのに、もったいないわぁ。
パンは……。硬い。
石だわ、石。軽石だわ。
82才なら入歯が壊れるんじゃないだろうか?
5才の乳歯が折れたら、大変よ。この世界の人は、歯が丈夫なのねぇ。
あっ、みんな、パンをスープに浸してるわ。
孫たちも、よくチョコサンドクッキーを、牛乳に浸して食べてたわねぇ。
完食は出来なかった。
料理をしてくれた人、本当にごめんなさいねぇ。
食べ物を、粗末にしちゃいけないのわかるけど、無理だったわ。
*****
食後は、リビングに移動してティータイム。
お父様はウイスキー。お母様はワイン。
お兄様たちは、紅茶。私はホットミルク。
一息ついた頃、お父様が例の話を切り出した。
「ジョアン、洗礼式の事だけどーー」
お父様の話の途中で、私はホットミルクを置き、ソファーから下りると、すぐさま【土下座】の技を出した。
「「「「えっ?」」」」
「侍女とは言いません。下女で構いませんので、ランペイル家に置いて下さい」
「「「「はぁー!?」」」」
あっ、この反応だと、やっぱり追い出されるのかしら?
涙と鼻水で顔上げれないわ。
フワッとした浮遊感と、ウイスキーとインクの匂いでお父様に抱っこされた事がわかった。
お父様は、私の酷い顔を見ると苦笑しながら、ハンカチで拭いてくれた。申し訳なさすぎる。
後で洗濯して、お返しします。
お父様はそのまま、ソファーに移動して、私を膝に座らせ頭を撫でてくれる。
5才の私の大好きな事の1つだ。82才の私にとっては気恥ずかしい。
「どうして、あんな事を考えたんだい?」
お父様は、優しく聞いてくれる。
お母様もお兄様たちも、私が理由を話すのを待ってくれている。
「だって……私は……【無】属性だったから……。お兄様たちみたいに……5属性じゃなかったから……。私がいたら……ランペイル家の……恥になるから……。」
私は、泣かないように、ゆっくりと理由を話した。
「あのね、ジョアン。よく聞くんだ。ジョアンがたとえ【無】属性でも、私たちにとって、かけがえのない家族だよ。それは、これからもずっと、変わらないよ」
お父様は、ギュッと抱きしめながら話してくれる。
「じゃあ、ここにいてもいいの?」
恐る恐る聞いてみる。
「当たり前じゃないか」
お父様は、またギュッと抱きしめてくれる。
それだけで安心出来る。
「あなたは、私の大切な可愛い娘よ」
お母様も、ギュッとしてくれる。
また、涙で視界がボヤける。
ノエル兄様も私の側に来て、優しく頬を撫でながら
「僕の可愛い妹は、ジョーだけだよ」
うぉー、ちょいとお兄さん。それは、刺激が強いわ。
この年寄りを、キュン死させる気かい?
あら?よくよく見たら、1番上の孫が好きなイケメン俳優に似てるわねぇ。
ジーン兄様も側に来て、私の小さな鼻を摘むと
「泣きすぎて、不細工になってるぞ。オマエは、笑ってる顔がイイんだからな」
そう言うと、自分のセリフに照れたのかそっぽを向いた。
なんだい、次はツンデレってやつかい?
コレはコレで、キュンとするねぇ。メール友達の子が話してたみたいに、ギャップ萌えってやつかね?
…にしても、2番目の孫みたいだわ。不器用そうだねぇ。
その後、泣き疲れたのもあって、私はお父様の膝の上で寝てしまった。
82才でも、きゅんきゅんしちゃいます。
女性は年齢など関係なく、乙女なのです(≧∀≦)