355.馬鹿なの?
本日は、2話同時更新です。
こちらは、2話目です。
「柊子おばちゃん……事件です!!」
「ぶっ!ちょっと美梨ちゃん。お茶飲んでる時に言わないで!……で?何?そのワイドショーのレポーターな入り方は。」
夏季休みが終わって後期が始まったある日、久々に王妃様の……美梨ちゃんの自室で、2人きりでお茶をしている。
それもさっき、赤文字で書かれた『至急!来られたし!』と、文が飛んできたから。
「柊子おばちゃん『ドキドキ♡花よりワタシ』って乙女ゲーム知ってる?」
「乙女ゲーム?ラノベは孫に勧められて読んでたけど、乙女ゲームはやってない。やってたのは、農場や街を作ったりするやつや、魔獣を狩るやつかな。何で?」
「あー、実は、乙女ゲームの世界が今のこの世界に似てるんだ。私も最近思い出したんだけどね。」
「へぇ〜。んで?」
その後、美梨ちゃんに、その『ドキ花』の大まかなあらすじを聞いた。そして、その主人公に酷似した、女の子が学院に入学してたことも。
「ほぉ〜。じゃあ、その女の子、えーっとキャンディ・ブランだっけ?その子が、フレッド殿下のことを、探ってるって?」
「うん。この前まで平民だったんだけど、学院に通ってなかったらしくて、引き取ったブラン男爵が、入学手続きをして14才で文官科の1年から入学ってことになったの。まあ、一応入学試験はクリアしたみたいだけどね。」
美梨ちゃんの話をまとめると……
ゲームのヒロインらしい、元平民の庶子キャンディ・ブラン男爵令嬢は、ピンクゴールドのツインテールで、碧眼。学力は、算術だけは良い点らしいが、他はからっきし。婚約者がいる男子生徒にも、媚びる様子を色んな人間が目撃。女子生徒からは、距離を置かれている。で、フレッド殿下の事を色々と聞いている。
『ドキ花』の攻略対象者は、第二王子と宰相の息子、近衛隊の氷の騎士、ハーフエルフ、スパイス屋の孫、野暮ったいメガネ、獣人の国の王子らしい。つまり、第二王子のフレッド殿下と宰相の息子のノア先輩、近衛隊のアラン兄様、ハーフエルフは私の同級生のエド…エドラヒル・レルータ、スパイス屋の孫はソウヤ、野暮ったいメガネは、たぶんマッさん、そしてアニア国の王子らしい。
「あー、もしかして、そのキャンディ・ブランは、転生者の可能性が高い?」
「柊子おばちゃんもそう思うよね。私も、その可能性が大いにあると思う。」
「でも、その『ドキ花』では、フレッド殿下の婚約者は公爵令嬢だから、キャシーちゃんなんでしょ?もう、その段階で違うよね?」
「そうなんだよね〜。しかもゲームは一般科から始まるけど編入するのは文官科だし。でも、男子生徒とその子が話しているのを、ウチの《カラス》が聞いたんだけど……
「王子様の婚約者は、やっぱり公爵令嬢なんですのね。……ふふふ、やっぱり『ドキ花』なんだわ。私はヒロインよ。」
って、呟いていたって。まあ、もっともその男子生徒は「王子様の婚約者って公爵令嬢よね?」って質問に答えただけなんだけどね。誰だって、公爵令嬢が婚約者ってこと聞かれたら、フレッドじゃなくアルのことを答えるわよ。だってフレッドの婚約者のエレーナは、侯爵令嬢だもの。」
「……ってか、もうその子に《カラス》つけてんだ。」
《カラス》とは、王族の密偵。我が家で言うところの《影》。
「だって入学試験を受けた時に、フレッドがどのクラスにいるかとか、他の攻略対象者がいるかとか学院長に聞いたみたいで。不審に思った学院長が、私に文を飛ばしてくれたから。念には念をと思って。」
「えっ!?それ、学院長に聞いちゃう?馬鹿なの?」
「でも、これでわかったね。間違いなく転生者でしょ。」
「だよね〜。でも、まだ誰にも害がないから、放置するしかないよね。このことも、まだ柊子おばちゃんにしか、話してないんだ。」
「ん〜、でも、陛下と宰相様、あとその攻略対象者には、事情を説明して、対策を取った方が良くない?何かあってからじゃ、遅いし。」
「そうだよね〜。」
「まずは、陛下と宰相様に話そうか。……ほら、美梨ちゃん行くよ。」
私が立ち上がっても、美梨ちゃんは机に突っ伏したまま動かない。
「……確かに言われたら『ドキ花』と似てるなーって思ったよ。でも、アレはゲーム、ここは現実じゃない。どう考えてもわかるよね〜。」
「まあね。でも、わからない馬鹿だから、何しでかすかわからないじゃない?」
「もー、本当に面倒なんだけどー。」
「はいはい、頑張ろ。」
「んー、頑張るかー。」
その後、陛下の執務室で、陛下と宰相様に事情を話した。もちろん2人とも、最初は理解できなかったけれど、最後には頭を抱えてしまった。
「アミーとジョアン嬢の話が本当であるなら、フレッドだけではなく他の者にも害を及ぼす。かと言って、何も起こしていない今は、静観するしかあるまい。」
「ええ、しかし、関係者には話しておいた方がよろしいかと。」
「では、明日、その攻略対象者とアル、キャサリーヌ、エレーナを。それから、リバークス侯爵とレルータ子爵、スタン、ジュリエッタ博士も。ないとは思うが、もしそのブラン男爵令嬢が、スキルに【魅了】を持っていないとも限らん。」
【魅了】って本当にあるんだ。
ラノベだけの話かと思ってたよ。そんなの使われた時には、面倒くさいな。
「あの、私の同級生には私から連絡します。王城からの連絡だと、驚くと思うので。3人のうち2人は、同じ騎士寮ですし。もう1人は、たぶんジュリー叔母様の所でアルバイトしているはずですし。」
「では、その3人にはジョアン嬢の方から連絡を頼む。明日10刻に王城へと。」
「かしこまりました。……あっ、良ければ夜食にでも。」
ストレージから、おいなりさんを出す。この前、うどんを食べていたら、無性においなりさんが食べたくなって。油揚げから手作りしてみた。
「うわ〜、おいなりさんだ。」
「「おいなりさん?」」
「はい。豆腐を揚げて甘辛く味付けしたものに、酢飯…酢で味付けたご飯を詰めたものです。それと……はい、緑茶の茶葉です。」
ストレージから、ダッシャー商会で購入した茶葉を出す。
「ん?緑茶とは、たしか東の国でよく飲まれるお茶だったか?」
「はい、そうです。美梨ちゃ……じゃない王妃様、淹れ方覚えてます?」
「……たぶん?」
念のため、美梨ちゃんに緑茶の淹れ方を教えて、騎士寮へ帰った。
なんとなく、転生自称ヒロインのお馬鹿な子を書いてみたくて……。




