249.喧嘩を売ってはいけない相手
いよいよベルの実家、バースト領訪問。
ジョアンの規格外について、みんな受け入れてくれるかな?
「行ってきまーす。」
スノーの引く馬車に乗り込み、窓から身を乗り出し手を振る。
今日からジーン兄様たちと一緒に、バースト領へ向かう。片道2泊3日。
「ねぇー、ジーン兄様、途中で魔獣とか出会うかな?」
「あー、山越えがあるからもしかしたらな。」
『ジョアンは魔獣と出会いたいの?』
ジーン兄様と話していると、ロッソが聞いてくる。
「出会いたいって言うか、美味しい肉ならお土産出来るかな?って。」
『ジョアンだものね。でも、ジョアンがそう願えば出会えるんじゃない?』
「私が願えばって、何で?」
『だってロッソがいるし。』
「あー、確かにな。運MAXだもんな。」
でも、そんな願いはむなしく美味しそうなお肉に出会うこともなかった。旅は順調に進み今日の昼過ぎにはバースト領の領都に到着予定。
「結局、魔獣出なかったな。ホーンラビットさえも出なかったし。」
ジーン兄様が言う。
『そりゃあ、パールがいるからね。』
「えっ?ロッソどういうこと?」
『だってー、フェンリルだよ。威圧をかけなくても小物たちは出て来ないよー。』
「「あっ……。」」
伝説の魔獣、フェンリルの存在だけでホーンラビットのような弱い魔獣は姿を隠すらしい。
そんな話をしていると、今回、護衛&御者をしてくれているナットさんから声がかかる。
「ジーン様、ジョアンちゃん。お待ちかねの魔獣っすよ。」
「「えっ?」」
パールもいるのに、出てくる魔獣って?
馬車の窓から顔を出すと、馬車の前方に大きな黒いものが2つ見える。
『アウルベアとジャイアントスネークが戦っているみたいね。』
「「「はい!?」」」
パールからの追加情報に、ナットさんとジーン兄様と私は驚いた。パールが言うには、きっと縄張り争いだろうと。
「えーっと、どうします?ジーン様。」
「んー、このまま決着をつくのを待っていたらどのくらい時間がかかるかわからないし。」
「でも、どちらも討伐しても良いのかな?」
「ん?ジョー、どういうことだ?」
「縄張り争いだとしたら、どちらかが侵略して来たってことでしょ?で、どちらも討伐してこの辺りの生態系というか、パワーバランスが崩れて他の魔獣が暴れ出してもなぁーって思って。」
「「なるほど。」」
『じゃあ、私が聞いてくるわ。』
「パールが?大丈夫なの?」
『もちろん。あんなのに私が負けると思う?』
「「「確かに……。」」」
パールは馬車から降りると、2体の魔獣の元へ行った。
しばらくすると……ビカッ、ドーン、バリバリバリー!!
「「「っ!!!」」」
(ジョアン、出てきても良いわよ。)
私たちが馬車から降りると、後ろの馬車にいる4人もやってくる。
「ジョアン様、あの、一体何が?」
サラが聞いてくるが
「わかんない。パールが様子を見に行ってくれたんだけど……。」
「ともかく行くぞ。ナットは俺と先頭にオーキは最後尾に。」
「「はっ!!」」
パールの元へ行くと、そこにはアウルベアとジャイアントスネークが倒れていた。まだ、かろうじて生きてはいるらしい。
「えっと、パール。どういう状況?」
『話を聞いた結果、どちらも侵略側だったのよ。ここらへん一帯は、他の魔獣がいるらしいんだけど、この2体が侵略しようと考えて来たら、鉢合わせになったらしくて揉めてたっていうことらしいわ。』
「で、なぜパールが攻撃したの?」
『あら?だって、話を聞きに来ただけなのに喧嘩売られたら買うでしょ?……ほら、さっさと仕留めちゃって。』
「あっ……。はい。ジーン兄様……。」
「……あっ、ああ。じゃあ、ナットと俺はジャイアントスネーク、オーキと……ザックやれるか?」
「はい!やります!」
「よし!じゃあ、ジョーとパール、ロッソは前方援護、サラとアニーは後方援護。」
「「「はい!」」」
ジーン兄様たちがアウルベアとジャイアントスネークを仕留める。2体の魔獣にとっては、痺れて動けない状態で仕留められることはかなり屈辱的だろう。最期を迎えるギリギリまで、ジーン兄様達を睨んでいたし……。でも、喧嘩売った相手が悪すぎた。
「……よし!何だかよくわからないが、討伐終了。」
「じゃあ、私のストレージに入れるね。うふふ、お土産出来たね。」
アウルベアとジャイアントスネークに触れ、ストレージにしまう。
「じゃあ、出発しよう!」
*****
ようやくバースト領都に到着し、門をくぐると迎えに来てくれていたベルがいた。綺麗な栗毛の馬に乗ったベルは、私が乗る馬車の窓まで来る。そのタイミングで窓を開けると
「いらっしゃい、ジョアン。」
「久しぶり、ベル。お迎えありがとう。」
ベルに誘導され、領主邸、ベルのお屋敷に向かう。
ベルのお屋敷に着くと、私とジーン兄様は応接室へ通される。ナットさんとオーキさんは厩舎へ。サラ、アニー、ザックは荷物を客室に運ぶために、先に客室へと向かった。
「改めて、バースト領にようこそ。長旅お疲れ様でした。」
「いや、お招きありがとう。えーっと……エリックは?」
「あっ、エリック兄様は、夕方に到着予定なんです。……あと、エリック兄様のお母様、私の叔母様も。」
「え?ベルの叔母様?」
「うん。何かジョアンに会いたいって。……私も、どうしてなのか、よくわからなくて。」
紅茶を頂きながら、話していると
ガチャ。
応接室に入ってきたのは、お父様と同年代ぐらいの男性。ベルと同じ赤茶色の髪をオールバックにしており、ガッシリとした体格の男性だった。
私とジーン兄様は立ち上がり
「お初にお目にかかります。ランペイル辺境伯家の次男、ジーン・ランペイルです。」
「初めまして、ランペイル辺境伯家長女、ジョアン・ランペイルと申します。」
「いや〜、遠い所よく来てくれた。私はベルの父、セドリック・バースト伯爵だ。えーっと……ランペイル令息が甥のエリックと同級生だったかな?いつもお世話になっているようだね。そして……ランペイル令嬢がベルと同級生で、幼少の頃から手紙をやり取りしていた子かな?」
「はい。ベル様にはいつもお世話になってます。お手紙をやり取りする事で、字も頑張って覚えることが出来ましたし、感謝しておりますわ。」
「ジョアン……。」
「そうかい?ベルも貴女と会ってから、楽しそうに手紙を書いていたし、引っ込み思案なところも治ってきたようだ。感謝するのはこちらの方だよ。これからも、良き友でいてくれる事を願うよ。」
「もちろんです!」
申し訳ありません。
馬車を引いているのが、パールになってました。
スノーと間違えました(^^;;
さすがにフェンリルでも、馬車は引けないですよねぇ〜。
……たぶん。




