227.食いしん坊
マーティンに向かって走って行くジョアンに対し
「えっ?ちょっ、待って……。」
マーティンはまさか丸腰で来るとは思わず、怪我をさせないように自分も模擬刀を手から離し身構える。
ジョアンは、助走を付けて走りラグビーやアメリカンフットボールのタックルの様に低い姿勢で相手の腹部へ肩からぶつかっていった。プロレス技で言うところの、スピアー。
「うっ!」
ぶつかってきたジョアンを受け止めたものの、身長的にジョアンの肩がマーティンの鳩尾に入り、痛さと苦しさで身体を折り曲げていたマーティンを足払いをして尻餅をつかせる。
ジョアンは右脚でマーティンの脚を4の字に固めながら、空いている左脚を4の字に折り曲げたマーティンの右膝に引っ掛けた。いわゆる、足4の字固め。
「えっ……痛っ、痛たたたた……。なんで?脚外れない……ま、参った。ジョ、ジョアンちゃん、お、俺の負けだから……。」
ジョアンは、パッとマーティンの脚の固定を解く。
「イェーーイ、勝ったー!」
パチパチパチパチ……。
「さすがです、ジョアン様。」
拍手に振り向くと、先程まで遠くのベンチにいたサラが間近にいた。
あ、危うく悲鳴を上げそうだったわ。
いつ背後に来たの?気配も足音もなく……。やっぱり忍者?
「ジョ、ジョアンちゃん?……。あの技、何?」
若干引いているナットさん。
「えっ?何って?足4の字固めですよ?」
「いやいや、さも当たり前のように言うけどさ、初めて見たんだけど……。」
「もしかして……キラさんが話していたプロレス技とかってやつ?」
「あー、ファンタズモの輩を倒したっていう。」
「あれ?でも話に聞いていたやつと違うけど?」
Jr.メンバーが口々に話す。
「えっと、プロレス技って色々あるんですよ。だから、ファンタズモの時とはまた違う技です。」
「「「「「へぇ〜。」」」」」
*****
ランチを終えて、やって来ました冒険者ギルド。
いつものスウィングドアを開けて中へ入る。受付カウンターに、お目当ての人発見!
「リリーさん、こんにちは〜。」
「あら、ジョアンちゃん。学院はどう?」
「うん、楽しいよ。あっ、こちら親友のベル。」
「は、は、初めまして……べ、ベルです。」
「こんにちは〜。ランペイルギルドの受付、リリーです。今日は、2人で依頼受けに来てくれたの?」
「うん、そうだよ。何かオススメある?」
「そうねぇ〜。ベルさんのランクはいくつかしら?」
「えっ、あ、バ、バ、バーストギルドの……Dです。」
「あら?すごいのね。じゃあ、これなんかどうかしら?」
リリーさんが提示してきた依頼書は、ビッグボアの討伐だった。パールの背に2人で乗り、向かうはマックさんの家に近い森。以前にゴブリンとホブゴブリンを討伐した所。
「ビッグボアか〜。豚肉だね〜。何の料理にしようかな〜。」
「ジョアン……。討伐する魔獣を肉扱いなの?」
「そりゃあ、食べれる物なら最後まで美味しく頂かなきゃ討伐した魔獣に悪いでしょ?」
「えっ?そういうもの?」
『ベル、ジョアンはただ食べたいだけよ。』
「ジョアン……。その……前世でもそんな感じ?」
「前世では、魔法や魔術がなかった世界で文明が発達していたのよ。それに魔獣はいなかったよ。でも、料理すること食べることが好きだったよ。」
『食いしん坊は変わらないのね。』
「パ〜ル〜?」
「うふふふ。」
そんな話を馬車より早い、パールに乗って話している。
「今更なんだけどさ、ベルはパールに乗って移動するの初めてじゃない?怖くない?」
私の後ろに座っているベルに気になっていることを聞いてみる。
「えっ?本当に今更ね。怖くないよ。まあ、最初はドキドキしてたけど、ジョアンとパールちゃんだし。」
「そっか、怖くないなら良かった。」
『そろそろよ。』
「じゃあ、森の入り口辺りでお願い。」
『了解。』
この森は、ランペイル領の西にありウエストウッズと呼ばれている。ちなみに南には、パールの出身地、クリムゾンウッズがある。
ウエストウッズは、冬に来たゴブリン討伐の時と違ってあたたかな陽ざしをあびて木々は若葉をのばし、やさしい緑に包まれていた。木のこずえでは小鳥がさえずり、足元では花が咲いていた。
「わあ〜、ピクニックに最適ね〜。」
『ジョアン?ピクニックじゃなくて、討伐だから。』
「し、知ってるよ〜。討伐、討伐!……でも、終わったらお茶しようねー?」
「『賛成〜。』」
「よし!そうと決まれば、さっさと豚肉捕まえよう!」
「ジョアン、豚肉って……。まあ、いいわ。で、どこにいるかな?」
ベルは、色々と諦めることにした。理由は、ジョアンだから。
『ん〜、あっちっぽい。』
パールの嗅覚に従って、森の奥へと進んで行く。
しばらく歩くと、大きな黒い影が木々の間から見える。
「あっ、あれかな?」
よく見るとビッグボアの周りに小さいウリ坊が見える。
「あれ?もしかして……親子?」
「確かに、子供と一緒だね。どうする?」
『この春の季に生まれたんじゃない?』
「どうしよう?あのママボア倒したら、あの仔困っちゃうよね?」
「ん〜でも、依頼は討伐だよ?甘露芋の根を食べるからって。」
「そうだよね〜。ねえ?パール、あのママボアを森の奥に行くように説得出来ないかな?」
『ん〜どうだろ?試してみるね。』
そう言って、パールだけビッグボア親子に近づいて行った。
ベルと様子を見ていると、ママボアはパールが近づくと警戒心を露わにする。しかし、パールが話しているようでママボアは時折頷くように頭を上下に振っている。
『ジョアーン。ベルー。こっち来ても大丈夫よ〜。』
パールに呼ばれて、ベルと顔を見合わせ無言で頷きパールの元へ向かう。




